年金保険料の「専業主婦優遇」を廃止すべき理由
LIMO / 2019年9月15日 20時20分
年金保険料の「専業主婦優遇」を廃止すべき理由
サラリーマンの専業主婦は国民年金の保険料を払わなくて良い、という制度は廃止すべきだ、と久留米大学商学部の塚崎公義教授は主張します。
年金改革の議論は一時しのぎ
「公的年金は2割減る」という厚生労働省の報告書が話題になりました。あまり報道されませんでしたが、実は報告書の後半には年金制度を改革した場合の試算が載っているのです。
一つは「中小企業の短時間労働者も厚生年金に加入するようになれば、年金財政は改善する」というものです。年金制度が賦課方式、すなわち現役世代の払った年金保険料で高齢者を支える制度になっていることを考えると、それは当然のことです。
しかし、これは一時しのぎです。中小企業の短時間労働者が高齢者になった時には、今より多くの年金を受け取るようになるので、年金財政は今と同様に苦しい状態に戻るからです。
今ひとつは「75歳まで働いて75歳まで年金保険料を払い、75歳から年金を受け取る選択肢を認めると、現役世代と遜色ない年金額が受け取れる」といった内容です。これも同様です。彼らが75歳から多額の年金を受け取るということは、年金財政はその時には厳しくなっている、ということですから。
年金制度の抜本改革は支給額の減額と主婦優遇の廃止
年金制度を抜本的に改革する選択肢の第一は、支給額を大幅に減らすことです。「年金支給額を大幅に減らすから、普通のサラリーマンは年金だけで生活するのは難しいだろう。ただし、75歳まで働いて75歳から年金を受け取る選択をすれば、老後も何とか年金だけで暮らせるはずだ」ということですね。
人生100年時代ですから、「20歳から60歳まで40年間働いて、その後40年間を働かずに年金で暮らそう」というのは虫が良すぎるわけで、70歳か75歳くらいまで働こう、というわけですね。
今ひとつ、筆者が強く求めたいのは、「サラリーマン(公務員等を含む。以下同様)の専業主婦(サラリーウーマンの専業主夫を含む、以下同様)は国民年金保険料を払わなくて良い」という制度の廃止です。
現在、サラリーマンの専業主婦(パート収入が130万円未満であれば原則として専業主婦と見なされます)は、夫が厚生年金保険料を払っていることをもって、自分も国民年金保険料を払ったものと見なされて、老後は年金が受け取れるのです。
この制度を廃止して、サラリーマンの専業主婦から国民年金保険料を徴収すれば、年金財政は一気に改善します。900万人が年間20万円の保険料を支払い、しかも彼等が老後に受け取る年金額は今と変わらないのですから。
不公平解消の観点から、ぜひ
自営業者の妻は、専業主婦であっても国民年金の保険料を払わなくてはいけません。失業者の妻もです。つまり、サラリーマンである夫がリストラされると妻に請求書が来るようになるわけです。
サラリーマンとサラリーウーマンの夫婦は、当然ながら二人とも厚生年金保険料を払っています。「夫が払ったから妻の保険料が免除される」などということはありません。
これは、どう考えても不公平です。かつて、失業者が少なく、自営業者は農家か零細商店で職住接近なので共働きをしていて、サラリーマンの妻は子沢山で電化製品もなく働きに出れない、という時代にできた制度なので、仕方のない面はありますが、時代が変わったのですから、制度を変更すべきです。
経済政策の観点からも、ぜひ
この制度があることで、「130万円の壁」と言われるものができています。パート収入が年間130万円に達すると専業主婦ではないと見なされて国民年金保険料を請求されるので、130万円に達しないようにサラリーマンの専業主婦が働く時間を調整している、というわけです。
これは、働きたい主婦の労働を制約する有害な制度です。しかも、これからは少子高齢化で労働力不足の時代ですから、主婦にも大いに働いてもらうことが本人のみならず日本経済のためにも役立つわけですから、ぜひとも制度を廃止してもらいたいものです。
「年金が2割減る」は誤報
本稿とは直接関係のない余談ですが、実は「年金が2割減る」は誤報であり、年金支給額自体は、成長率等によって若干変わるものの、物価調整後で微増か微減となる見通しなのです。
2割減るのは「所得代替率」という数値です。これは年金額と現役世代の所得の比率、すなわち「高齢者の割り負け率」を示すものです。現役世代の所得が大きく増えて、高齢者の年金が変わらないので、割り負け率が悪化する、というだけのことです。
高齢者にとっては、年金額が減らなければ、現役との割り負け率など興味はないでしょう。厚生労働省の資料の冒頭にこの数値が大きな字で表示してあるため、年金が2割減ると誤解している人が多いのですが、そうではないので、要注意です。
厚生労働省にも、資料を見た人が誤解しないような資料作りをお願いしたいものですが(笑)。
本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。
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