ブラック飲食業「現場の生の声」を聞く。異常な長時間労働と主従関係の実態
LIMO / 2019年9月26日 19時45分
ブラック飲食業「現場の生の声」を聞く。異常な長時間労働と主従関係の実態
おいしい食事と食べたときの幸福感に期待して、タウン誌やインターネットで飲食店を探す人も多いのではないでしょうか。日常の疲れやストレスを癒してくれると言っても過言ではない外食ですが、それぞれの店舗の味と同じように、働いている人たちの労働環境は店舗によって大きな差があるのです。
今回は、接客改善業務や金融機関での勤務経験をもとに、飲食業界で常態化している薄給や異常な長時間労働、奴隷のような主従関係の実態に迫ります。
飲食業界が薄給ってホント?
求人誌やインターネットの求人情報では、パートやアルバイトの時給を見ても、社員の月給を見ても、飲食業界が特に薄給だとは感じないかもしれません。
一方、国税庁の「平成29年分 民間給与実態統計調査(https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/minkan2017/pdf/001.pdf)」(平成30年9月発表)では、飲食業・宿泊サービス業の年間平均給与は約253万円で、ダントツに低い結果となっています。ちなみに最も年間平均給与が多いのは電気・ガス・熱供給・水道業の747万円、最下位の飲食業・宿泊サービス業の次に低いのは農林水産・鉱業の326万円です。
このように、飲食業界すべてが薄給というわけではないものの、全体的には低い水準にあると言えるでしょう。では、なぜそうなのか。調査の結果や飲食業界で働く人たちから聞いたことからその原因を考えてみると、下記のようなことが大きく影響していると言えそうです。
■社員・店長クラスの場合
・住宅手当や家族手当などの手当が少ない
・サービス残業が多い
■バイトやパートの場合
・週3勤務など、思うようにシフトに入れない
・シフトが増えてくると、サービス残業が暗黙の了解となる
■全労働者共通
・飲食業界はボーナス金額が低い
飲食業界が異常に長時間労働なのはナゼ?
サービス残業100時間は当たり前。200時間以上もの残業をしている人もいるといわれる飲食業界。実際、2016年には月200時間を超えるサービス残業でうつ病になったと、30代の飲食店従業員が会社を提訴した事案もありました※1。一体どうしてこのような異常な長時間労働が改善されずにいるのでしょうか。
理由の一つは、多くの飲食店で長時間労働がまかり通っている状態だということ。「赤信号、みんなで渡れば怖くない」と似た心理が働いているようです。また、法外な長時間労働に対する労働基準監督署の罰が、「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金」と軽いことも、経営陣や店長クラスが労働時間を改善しない原因と見られます。
さらに、顧客獲得などの過当競争から提供価格が下がり、店舗の賃料や材料費などを差し引いた儲けが薄いために残業代などがカットされるといったことも考えられます。
※1:『月200時間を超えるサービス残業でうつ病に 飲食店従業員が会社を提訴(https://www.bengo4.com/c_5/c_1637/n_5198/)』(弁護士ドットコムニュース)
奴隷のような主従関係ができあがるメカニズム
飲食業界では、パワハラを超える理不尽な扱いが報道されることも少なくありません。記憶に新しいところでは、学生バイトに過酷な労働を強いるために暴力で脅し、包丁で刺すなどの傷害事件が発生していたという「しゃぶしゃぶ温野菜」や、料理長が女性社員に暴言や暴行などのパワハラ行為を行ったという「仙台国際ホテル」などの事例があります※2。
このような「事件」として発表されてはいないものの、店によっては特定のスタッフを精神的に痛めつけ、殴る・蹴るなどの暴行に発展するなど、壮絶な人権侵害がおこなわれているケースもあるようです。
こうしたことが起きる現場では、真面目で断ることができない人や自分の意見を伝えることが苦手な人が標的となって、奴隷のように扱われてしまうことが多いようです。また、長時間労働で疲弊した脳や心は正常な判断をすることができず、奴隷のような主従関係を作り上げるメカニズムに貢献しているとも言えるでしょう。
※2『「殺すぞ、お前」「バカ野郎が!」 暴言、殴打、うめき声…逮捕者が出たブラックバイトの壮絶現場(https://www.sankei.com/premium/news/161206/prm1612060004-n1.html)』(産経ニュース)、『今度はパワハラ暴行事件… 不祥事続く東武鉄道(https://www.dailyshincho.jp/article/2017/11200557/?all=1)』(デイリー新潮)
飲食業界で働くスタッフの生の声
次に、出入りが激しいと言われることが多い飲食業界の職場環境や待遇について、スタッフと元スタッフたちの生の声に耳を傾けてみましょう。
■Aさんのケース
「アルバイトで入ったのに、3カ月目にはリーダーに昇格して、バイトやパートが休んだときには呼び出されて働くハメに。やってられないと辞表を出してもなかなか辞めさせてもらえず、結局は我慢して半年ほど働いたが、精神的におかしくなりそうだった」
■Bさんのケース
「ボーナスが寸志…」
■Cさんのケース
「まかないも付くので、1人暮らしの学生がするバイトとしては最高」
■Dさんのケース
「将来は自分の店を出したかったこともあり店長として勤務したが、サービス残業が多すぎる。残業が200時間なんてザラ。もう、辞めたい」
■Eさん(雇われ店長)のケース
「バイトやパートの募集をかけても面接にすら人が来ない。時給は悪くないので早く誰か働きに来てほしい。従業員と2人で年中無休の店を朝から夜中まで開けるのはキツイ。しかも、給料を時給に計算し直してみたら、500円以下だった…」
■Fさんのケース
「よく怒鳴られて辞めるスタッフがいて可哀そうに思うが、とばっちりを食うのが嫌で何も言えない。あれは絶対にパワハラ。スタッフ全員の前で怒鳴りつけたり、恫喝したり…」
■Gさんのケース
「急に休むって言っても、社員の人とか店長が交代してくれるので、Wワークもできるしラク。時給もいいし、まかないもついてるし、夢を追いかけながらしばらくは飲食でバイト頑張ります」
■Hさんのケース
「ランチタイムだけの勤務です。忙しいけど時給も良いので、とくに不満はないです。社員の人たちは、いつも“休みがほしい”とか“サービス残業多すぎ”とか言っているので、絶対に社員にはなりたくないです」
現場の声から考える、飲食業界の問題点
以上のように、飲食業界で働いている人たちや過去に働いていた人たちの声から問題点を読み解いていくと、やはり長時間労働や労働に見合わない給与についての不満が多くを占めています。
ただし、学生のアルバイトやランチタイムのみなどの短時間パートの場合には満足度が高いという面も垣間見えました。その反面、社員や役職のある人たちの多くが過酷な労働条件のもとで働いていることが浮かび上がってきます。
飲食業界で社員や店長クラスのスタッフが定着しない理由のひとつとして、こうした過酷な労働が大きな原因の1つとなっていることは否めません。
過酷な労働や理不尽な扱いに耐えてはいけない
これまでに紹介したように、飲食業界では、過酷な労働条件のもとで働いている人たちや上司たちからの理不尽な扱いに耐えて日々をやり過ごしている人たちも少なくありません。
しかし、いくら店のためにサービス残業をして働いても、体調やメンタルを壊してしまえばクビになってしまいます。また、上司たちからの理不尽な扱いに耐えていても、理不尽な扱いがなくなる可能性は非常に低いと言えます。
もし、働き始めた飲食店の労働時間がおかしいと感じたり、上司たちからの扱いに違和感をおぼえたりした場合には、冷静に自分の置かれた状況を判断してみましょう。
たとえ、「○○さんがいないと仕事がまわらない」などと言われても、「自分が休んだり辞めたりしたら迷惑をかける」などと考えず、サービス残業や不当な扱いが「おかしい」と正常な判断ができる早い段階で、転職や辞職を考えてみてくださいね。
まとめ
今回紹介したような長時間労働や上司からの理不尽な扱いなどは、飲食業界だけでなくどの業界でも起こり得ることです。現在すでに働いている人も、就職・転職を考えている人も、職場環境に違和感をおぼえたら我慢や放置をせず、まずは第三者視点で冷静に自分の置かれている状況を見つめてみることをおすすめします。
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