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マイノリティの現場を見て、現場にいる人の言葉を聞く

LIMO / 2019年9月29日 21時20分

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マイノリティの現場を見て、現場にいる人の言葉を聞く

多様性を祝うお祭り「レインボーフェスタ和歌山」に行ってきました【後編】

前編に引き続き、レインボーフェスタ和歌山についてお話しします。前編では「レインボー」の意味や性的マイノリティとはどんな人なのかなどのお話をしました。少しだけおさらいをして、本稿ではレインボーフェスタ和歌山の会場の様子と実行委員会へのインタビューをお伝えします。

レインボーフェスタ和歌山と多様性

レインボーフェスタ和歌山は社会においてのマイノリティ(少数派)にスポットを当て、しばしば「いないこと」にされてしまいがちなマイノリティが「私たちはここにいる」とアピールし、マイノリティもマジョリティ(多数派)も互いを尊重しながら「いっしょくた」になって楽しみましょうというお祭りです。

身体や精神に障害がある人、日本ではない国にルーツを持つ人、難病の人、珍種の動物を飼う人や勉強大好きな人、学校に行かない人など、社会にはさまざまなマイノリティが存在します。そのあらゆる人たちが、またマイノリティではない人たちも、垣根なくみんな「いっしょくた」になって楽しめるお祭りをつくろう、という目的でレインボーフェスタ和歌山は開催されます。

「レインボー」とはもともとは性の多様性を表し、性的マイノリティのシンボルでもあります。レインボーフェスタ和歌山は当初は性的マイノリティについての啓発を目的に企画されましたが、現在はあらゆる人が存在して当たり前なのだという多様性を祝うお祭りとして開かれています。

きっかけとなった性的マイノリティについては、前編で項を設けて、かんたんにではありますが説明していますので、そちらをご覧ください(『マイノリティってなんだろう〜性的マイノリティのこと』)。

レインボーフェスタ和歌山の会場の様子

レインボーフェスタ和歌山は9月14日(土)15日(日)の2日間、和歌山市内にある和歌山城西の丸広場で開催されました。筆者はその1日目に会場にお邪魔して、取材をさせていただきました。

会場には企業や市民グループなどのブースや国内各地のおいしいものの屋台が並び、正面にはステージが設置されています。好みのおいしいものを食べながら、ブースを巡って知りたい情報を得たり、ステージでのパフォーマンスを見たりして楽しむことができます。

健聴者もろうあ者も一緒に手話で歌う

Rainbow Sign Orchestraは手話で歌うグループ。ろうあの人も健聴者もどちらもいますが、いずれもゲイ(男性の同性愛者)の人たちです。異性愛の人たちの中に聞こえない・話せない人がいるのと同じように、ゲイの中にもろうあの人がいます。

彼らは国内各地で行われる性的マイノリティの催しであるレインボーイベントにたびたび出掛け、手話によるパフォーマンスを行うことで、見る人に手話を身近に感じてもらえるよう活動しています。

障害者支援センターのジャンベ

こちらは和歌山市内の精神障害者支援センター櫻の通所者・職員合同のジャンベ演奏です。西アフリカ起源の太鼓ジャンベはバチを使わず手で叩きます。叩き方や叩く場所によって音の高低が変わり、倍音なども出せますが、演奏できるようになるまではずいぶん練習が必要です。

とてもめずらしい楽器ですが、支援センター櫻では毎週ジャンべを練習する日が設けられています。地域のイベントなどに招かれては演奏を披露しています。

名物紀州よさこい踊り

和歌山市では2003年から紀州よさこいの祭りがはじまり、すっかり市民に馴染んでいます。市内には紀州よさこい祭り公式サイトに登録されているだけで25のよさこいチームがあり、この日はそのうちの2チームが踊ります。

チームのパフォーマンスの後は「総踊り」と言って、観客やイベントスタッフも巻き込んでの演舞が行われ、レインボーフェスタ和歌山の盛り上がりは最高潮となりました。

実際に参加した人たちの声

会場の西の丸広場にいた人の何人かに声をかけ、レインボーフェスタ和歌山に参加するきっかけや、参加することで自身に起きた変化などのお話を伺いました。

スタッフとして参加した女子大学生

ボランティアスタッフとして参加したLily Whiteさん(活動名)は、Twitterで別のことを調べているうちに偶然、レインボーフェスタ和歌山の公式Twitterを見つけたとのこと。社会の中でよく知られていないために大きく誤解されているマイノリティというものに関心があると言います。

レインボーフェスタ和歌山には今回がはじめての参加。会場にチェリオ・コーポレーションや日本たばこ産業などの企業がブース出展しているのを見て、性的マイノリティの支援をしている企業があるということをはじめて知ったそうです。

現在大学生の彼女は「将来はそういうマイノリティの問題に積極的な会社に就職したい」と希望を語りました。

市民グループと共同出展した保健所職員

和歌山市内で活動する性暴力やデートDVなどの被害者のための自助グループ・ココニハと和歌山市保健所が共同でブースを出展。性被害の予防対策とともに、HIV予防、AIDSに苦しむ人々への理解と支援の意思を示すレッドリボン運動を呼びかけます。

和歌山市保険対策課の担当者氏は性的マイノリティのシンボルである「レインボー」を冠するイベントに参加することについて、特殊性は感じていないと述べました。市内ではさまざまなイベントが行われていて、そのうちのひとつとして捉えているそうです。

また、HIVやその感染者についても同じことが言えますが、性的マイノリティを始めとする社会の中のマイノリティは、多くの人にとって「自分もそうであり得る」のに、特殊なものとして見られることが多いものです。

しかし、特殊なものとして見るということが即ち偏見なのだということに気づいてほしい、と担当者氏は訴えました。

県外からは複数の性的マイノリティ当事者グループが参加

この日は奈良市、姫路市、名古屋市とそれぞれ遠方から性的マイノリティの当事者やその家族のグループが和歌山市にやってきて、ブース出展していました。各グループの活動の内容や目指すところは少しずつ異なりますが、共通して述べていたことがあります。

それは、性的マイノリティへの偏見・差別はいまだ強く、当人が性的マイノリティであるか否かにかかわらず、当事者グループの会合に参加するだけで周囲から何を言われるかわからない。そのため、地元に性的マイノリティのグループがあっても参加しづらく、市外や県外の遠方のグループに参加するという人も少なくない、という話です。

だからこそ、性的マイノリティのグループは他の地方のイベントに参加します。たとえば、Aという地域のグループはBという地域のイベントに参加し、B地域の情報を仕入れて持ち帰り、A地域に住んでいるけれどA地域ではグループやイベントに参加しづらい人たちに提供します。また、自分たちA地域のグループの存在をB地域の当事者に知らせて、B地域では参加しづらい人たちにA地域に来てもらえるようにするのです。

当事者グループの数が少ない地方の街ではそのように互いに行き来して、当事者が参加できるグループの「選択肢を増やす」ということをしているのだと、各グループの代表者氏は異口同音に話していました。

主催者が語るレインボーフェスタ和歌山

「レインボーフェスタ和歌山」というイベントを主催・運営している人たちはこのイベントをどのように捉え、何を目標に活動しているのでしょう。レインボーフェスタ和歌山実行委員長・安西美樹さんにお話を伺いました。

レインボーフェスタ和歌山開催のきっかけ

――最初に、レインボーフェスタ和歌山を開催のきっかけを教えてください。

「私はFTMと言って、出生時に女性と判定され、現在は男性として生きているトランスジェンダーで、性的マイノリティの1人です。私は和歌山県に生まれて育ちましたが、県としては『県内に性的マイノリティは存在しない』という認識でした」

――当事者の姿が行政には見えていなかったのですね。

「そうです、私たちはいないことになっていたのです。県や市といった行政や県内市内に住む人たちに、和歌山にも性的マイノリティは実際に存在して生活しているんだということをまずは知ってもらいたくて、イベントを企画しました。

会場の西の丸広場は和歌山市役所の正面にあって、県庁もすぐ近くです。イベントという目に見えるかたちをつくって、さらに県や市の後援もいただいてますから、県知事や市長にもそろそろ存在が伝わっているのではないかと思います」

――ほかの地方の「レインボー」とつく多くのイベントと少し違って、性的マイノリティ以外のマイノリティも一緒に、ということですが?

「イベントの企画を進行するうちに、性的マイノリティだけでなく、ほかにもいろんなマイノリティがいて、同じように社会にあまり認識されていないことに気づいたのです。その人たちも一緒に「私たちはここにいる」ということを行政にも県民市民にもアピールしようと思い、それぞれのコミュニティに声をかけて実現しました」

レインボーフェスタ和歌山開催の手応え

――レインボーフェスタ和歌山を開催することで周囲や自分たちに変化はありましたか?

「3回目の今回は確かな手応えがいくつかありました。会場の運営本部に来て『来年はスタッフとして参加したい』と言ってくれる性的マイノリティの当事者が何人も現れました。3回目にして初めてのことです。その中には外国から働きに来ているという当事者もいます」

――イベントの認知度が上がってきたということでしょうか。

「そうですね。ほかにも『今年は開催日が早いね(第1回・第2回は今回より1週遅い9月21日頃の開催だった)』と声をかけてくれた人もいて、じわじわと地元市民に定着しつつあるのかな、という感触がありました。マイノリティが存在することを市民が意識できる素地が少しずつでき始めているように感じています」

レインボーフェスタ和歌山とマイノリティの今後

――今後はレインボーフェスタ和歌山をどのような発展させたいと考えていますか?

「レインボーフェスタ和歌山は、昨年の『わかやま市民協働大賞』で奨励賞をいただきました。私たちの存在やイベントを認識してもらえただけでなく、和歌山市主催の賞で評価してもらえたことはとてもうれしいことです。

行政から評価されたことで「レインボーフェスタ和歌山」というイベントの存在がマイノリティの人にもそうでない人にも伝わる機会が増え、今回、運営に声をかけてくださる人の増加につながったのではないかと思います。

来場者からは早くも来年に期待するという声が、県や市の部署や地元企業からは協働を希望する声が聞こえてきています。これからも少しずつですが、新しい取り組みをしていけるのではないかと考えています。

マイノリティとされている人もそうでない人も、自身の素性を隠すことなく「素顔の自分」で気楽に生きていける和歌山、誰にも気兼ねなく参加できるイベントをつくっていきたいです」

――次回開催の成功をお祈りいたします。ありがとうございました。

まとめ

マイノリティとされる人たちの生の姿、生の声をお届けしました。どの人も「知りたい」、「知ってほしい」という気持ちを持って動く人たちです。本稿で紹介した人たちだけでなく、マイノリティやその支援者らの多くが思っていることではないでしょうか。

残念ながら現在は、よくわかっていない・知識がない人がわからないままに、自分が持つイメージだけを頼りに、マイノリティの存在を否定したり人権を損なったりという発言を、SNS等で憚ることなくしている様子が散見されます。否定的なことを言う人の大抵は、そのことについてよくご存じない人です。

本稿をお読みくださったみなさんにも、どんなものごとについてもまずは基礎的な知識を仕入れ、そして考えてみていただきたいと思います。それにはまず、当事者に接してみるのが近道ではないでしょうか。

ここ数年、レインボーイベントが開催される地方が増えてきました。北海道から沖縄まで、いくつかの主立った都市で開催されています。秋はレインボーイベントの季節でもあります。ぜひとも、お近くのイベントに足を運び、マイノリティの実際をご自身で確かめてください。

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