日本の中小企業は甘やかされてきた? 「脱・悪平等」を目指すべき中小企業政策

LIMO / 2019年10月14日 20時45分

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日本の中小企業は甘やかされてきた? 「脱・悪平等」を目指すべき中小企業政策

先週、東洋経済オンラインにデービッド・アトキンソン氏(小西美術工藝社社長)の記事が掲載されました。タイトルは『この法律が日本を「生産性が低すぎる国」にした アトキンソン「中小企業基本法が諸悪の根源」』です。

私を含め日本の中小企業支援分野で「中小企業のために」と信じてやってきた方々にとって中小企業基本法(1964年、1999年改定)は一種の般若心経のようなもので、それを否定されると心情的に受け入れられない面もあるかと思いますが、一面、鋭い指摘であると感じました。

今回、あらためて日本の中小企業政策を先進主要国と比較しながら、振り返ってみたいと思います。

アトキンソン氏の論点を検証する

アトキンソン氏は、日本の生産性が長年低迷している原因は「中小企業天国」と呼べるような非効率な産業構造にあると指摘しています。そして、それを法律面から支えてきたのが中小企業基本法(1964年)だと論じています。

つまり、優遇措置を目当てに非効率な中小企業が爆発的に増え、なおかつ成長しないインセンティブまで与えてしまった。中小企業を応援して日本経済を元気にしようという精神からつくられた法律が、優遇に甘えられる「中小企業の壁」を築き、他の先進国と比べて中小企業で働く労働者の比率が多いという非効率な産業構造を生み出してしまったということです。

中小企業は本当に非効率か?

中小企業の生産性については中小企業庁が2018年版の「中小企業白書」で次のように分析しています。

「第3章 中小企業の労働生産性(https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H30/PDF/chusho/03Hakusyo_part1_chap3_web.pdf)」によると、2016年度の労働生産性(従業員一人当たり付加価値額)は、中小企業では製造業者582万円、非製造業者554万円。大企業では製造業者1,320万円、非製造業者1,327万円です。やはり、平均的には大企業との格差が大きいようです。

中小企業の労働生産性の推移を見ると、1996年から2016年の20年間で製造業▲3.2%、非製造業▲9.2%となっており、生産性を向上させている大企業(製造業+13.4%、非製造業+8.1%)との格差はますます拡大しています。

ただし、中小企業の中にも生産性の高い企業が存在しているのは注目すべき点です。実際、製造業では約1割、非製造業では約3割の中小企業が大企業平均以上の労働生産性を実現しています。そうした一部の優良な中小企業は成長投資(IT投資、研究開発、設備投資)に積極的に取り組んでおり、結果的に賃金水準も高いようです。

中小企業に勤める就労者の割合は?

ILO(国際労働機関)によれば、就業者全体に占める中小企業従業員比率は、新興国34%、先進国41%、途上国52%となっています。ちなみに生産性が高いと言われるアメリカは50%です。そして、日本は69%です。国際比較すると、やはり日本では中小企業に勤めている就労者の割合が高いと言えそうです。

なお、従業員20人未満の小規模事業者に勤める就労者の割合(OECDデータ)に着目すると、日本は20.5%です。先進主要国のイタリア30.9%、スペイン27.3%に比べれば低めですが、イギリス18.1%、フランス18.0%、ドイツ13.0%、アメリカ11.1%に比べれば高いレベルとなっています。

中小企業基本法は中小企業を甘やかしてきたのか?

中小企業基本法(1964年) の基本理念は大企業との「格差の是正」ですので、従来、支援施策の実施においては、「ビジネス環境改善」(環境を整えて、あとは中小企業者の自主性に任せる)というよりは、「支援」(社会政策的な弱者保護)に重点が置かれていたように感じます。

私の経験上、政策支援の対象となる「中小企業」の定義から外れないよう、資本金は変更しないという方針の社長は少なからず存在しました。流行りの起業家やスタートアップと違い、「弱者」のままでいようとしたり、節税や安定成長といった路線も一つの合理的な経営判断なのでしょう。

しかし、中小企業基本法は1999年に改正され、その基本理念は大企業との「格差の是正」から「多様で活力ある独立した中小企業者の育成・発展」へと大きく転換しています。改正からすでに20年も経過しています。

来年2020年度の予算概算要求の中小企業対策費(補助金・委託費)は、わずか1,386億円(経済産業省、2019年8月28日)です。日本に存在する358万社(全体社数比99.7%)もの中小企業・小規模事業者に対して年間でこの金額です。

ただし、中小企業基盤整備機構など中小企業支援を実施する機関が多数あり、それぞれの機関で運営費がかかっています。また、JETROなどは一部、中小企業支援関連の予算もあります。

一方、政策金融については主要先進国と比べ突出した規模となっています。日本では一般予算とは別の財政投融資(特別会計)を活用しており、貸出額3.7兆円(2018年度、日本政策金融公庫の国民生活事業及び中小企業事業によるフロー)、保証額8.1兆円(2018年度、全国51の保証協会による保証承諾)、合わせて11.8兆円です。

米国で政策金融と言えるものはSBA中小企業庁(7(a)ローン及び504ローン)の347億ドル(3.6兆円)のみです。フランスやドイツでは貸出・保証予算で1〜2兆円程度ですし、英国ではBERRビジネス・企業・規制改革省(SFLG信用保証プログラム)の2億ポンド(約340億円)程度です。

政策金融の制度設計についても日本は異例です。日本では、中小企業向け政策金融機関である日本政策金融公庫(2008年の統合前は、旧国民金融公庫/1949年設立、旧中小企業金融公庫/1953年設立)が直接、中小企業・小規模事業者向け貸出業務を行い、かつ、世界でも類を見ない信用保証制度(信用保証+信用保険という二層構造)があります。

さらに、日本独自の「投資育成」という中堅企業に直接出資する公的機関(中小企業の「自己資本の充実」という理念)も存在します。

しかし、先進主要国では、民業圧迫を避ける観点から政策金融が資源配分に歪みをもたらさないよう様々な工夫がなされています。

たとえば、米国や英国では政策金融による直接融資は行われておらず、民間貸出に対する政府保証が中心です。また、フランス(OSEO起業支援・イノベーション振興機構)の政策金融は民間金融機関との協調融資という形態であり、ドイツ(KfWドイツ復興金融公庫)は民間金融機関を経由した代理貸制度です。国際比較すれば、日本の政策金融は過剰だと言われても反論できないかもしれません。

私自身、日本の政策金融システムを諸外国で説明する機会に、様々な質問や批判を受けた経験があります。

たとえば、日本の政策金融が業績悪化企業や赤字企業に対して「追い貸し」(貸出の不良債権化による損失計上を先送りするために追加的な資金供給により貸出先企業を存続させる行動)をしているのではないか。本来は高い金利スプレッドが必要なはずの企業群に、逆に優良企業よりも低い優遇金利を適用して中小企業向け貸出市場の金利設定に歪みを生じさせているのではないか、といったような批判です。

中小企業政策の問題は悪平等主義か?

従来、日本には政策の恩恵をできるだけ多くの中小企業に行き渡らせようという平等主義があったことは否定できません。今も、その名残があるように感じます。

しかし近年、世界の中小企業政策の潮流は、日本の改正中小企業基本法(1999年)でもうたわれている通り、「多様で活力ある独立した中小企業者の育成・発展」です。やはり経済政策の実施に際しては、悪平等は非効率であり、限られた予算を高い技術力があって成長意欲の強い一部の中小企業者に集中投入するといった措置が必要でしょう。

創業支援の領域でも、日本政府の日本再興戦略(6次改定)までは、「開業率が廃業率を上回る状態にし、開業率・廃業率が米国・英国レベル(10%台)になることを目指す」というKPI(重要業績評価指標)がありました。

しかし、開業数を増加させることを目標にすると、限られた予算をできるだけ多くの起業家や自営業者に分け与えるということになってしまいます。このKPIはあまり意味がないことに気づいたのか、「未来投資戦略2017」では、あまり強調されていないようですが。

一般にアメリカ経済の活力の原因は開業率が高いことにあると誤解されがちですが、肝心なのは起業数ではありません。一部のスタートアップ企業が短期間で大企業に育ち、そうした生産性の高い革新的な大企業に多くの就労者が集まり、国全体の生産性を押し上げ、経済の新陳代謝が続くという好循環が重要なのです。

限界になる前にできることは?

中小企業庁が2018年度版の「中小企業白書」で試算していますが、今後10年間で70歳(平均引退年齢)を超える零細・中小企業の経営者は約245万人となり、うち約半数の127万人(日本企業の約3割)が後継者未定。これを放置すれば、10年間累計で約650万人の雇用、約22兆円のGDPが失われる可能性があるそうです。

日本の中小企業に後継者がいないというのは致命的な問題です。それを廃業させないようにしたいと言っても、わずかな予算と能力で政府ができることには限界があります。平成の「失われた30年」の間、一部、延命装置のような融資・信用保証を提供してきた政策金融も、後継者がいないとなれば、さすがに対応は難しくなるでしょう。

アトキンソン氏の議論に戻れば、彼が指摘するような生産性の低い中小企業の数は、放置しておけば自然に減少します。そこで、就労者を生産性の高い大企業、あるいは、成長潜在性の高いスタートアップ等へうまく移動させなければなりません。

また、彼が指摘するように、従来、日本には過剰な数の零細・中小企業が存続し、それが慢性的な過当競争を生み、収益性を低下させてきたとすれば、その問題も自ずと変容していくでしょう。

将来は、日本の中小企業セクターの構造改革の観点から、成長意欲の強い一部の中小企業がM&Aにより廃業寸前の技術力のある中小企業を救うよう促すほかはないと思います。政府は、そうした一部の中小企業を対象としてM&AやDX(デジタルトランスフォーメーション)戦略等に必要な経営資源や資金面の支援に注力すべきかもしれません。

また、創業支援においても、一億総活躍、輝く個人などと囃し立てて自営業的な起業の件数を無理に増やそうとするよりは、真に国民経済を牽引するようなユニコーン企業候補を発掘し、そこに限られた予算・経営資源を集中投入すべきなのではないでしょうか。

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