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ラグビーW杯の雄、オールブラックスの「2つのハカ」の意味は?

LIMO / 2019年10月17日 21時10分

ラグビーW杯の雄、オールブラックスの「2つのハカ」の意味は?

ラグビーW杯の雄、オールブラックスの「2つのハカ」の意味は?

カパ・ハカはニュージーランド人の心

ラグビーワールドカップ2019日本大会は、日本代表の決勝トーナメント進出で大きな盛り上がりを見せています。強豪揃いのベスト8ですが、中でも世界ランキング1位、前大会を含め、過去3回の優勝を果たしているニュージーランド代表のオールブラックスは日本でも人気。ラグビーの実力だけでなく、試合に先立って相手の前で「ハカ」を披露することでも有名です。

勇猛で威嚇するようなオールブラックスの「ハカ」。彼らのハカにはどんな意味があるのでしょうか。

先住民マオリの伝統的なダンス、ハカ

ハカはニュージーランドの先住民であるマオリの伝統的なダンスの総称を指すマオリ語の言葉です。グループでの踊りを「カパ・ハカ」と呼び、男女共に音楽や詠唱にあわせて踊ります。いくつか種類があり、ケース・バイ・ケースでふさわしいハカを選びます。その1つが戦士のためのもの。オールブラックスが試合前に披露することで知られています。

選手たちは精神的にも身体的にも奮起して、差し迫った戦い、つまり試合に臨めるよう、ハカを踊ります。有名なハカに『カマテ』と呼ばれるものがあります。オールブラックスが最初に踊ったハカとして有名です。19世紀初めに、一部族の長、テ・ラウパラハが創ったもので、ストーリーがあります。

敵に追われたテ・ラウパラハは、別の部族の長、テ・ファレランギにかくまってもらい、クマラ(サツマイモの一種)を貯蔵した穴の中に隠れます。そしてテ・ファレランギの妻に穴の上に座ってもらったところ、女性が持つ霊的な力と、食べ物が持つ霊的な力があいまって、敵を追い払い、テ・ラウパラハは助かるというストーリーです。

穴の中でテ・ラウパラハが唱えた言葉が、「カマテ・カマテ(私は死ぬ、私は死ぬ)」と「カオラ・カオラ(私は生きる、私は生きる)」。『カマテ』の呼称や歌詞の一部になっています。

初戦で見せた、オールブラックスのためのハカ

9月21日、オールブラックスにとって今回のワールドカップ初戦となった南ア戦、スプリングボクスを相手に披露したのは、『カマテ』ではなく、『カパ・オ・パンゴ』というハカでした。どの試合で、どちらのハカを踊るかは、選手たちが試合前に決めるそうです。

『カパ・オ・パンゴ』は2005年にハカの専門家により制作され、簡単に訳すと、「黒を着たグループ」という意味。オールブラックスを指しています。『カマテ』にはストーリー性がありましたが、『カパ・オ・パンゴ』はオールブラックスが相手チームを目の前にして、自分たちを鼓舞するためのマオリ語の言葉で構成されています。

実は、初戦での『カパ・オ・パンゴ』は特別なものでした。一般的にハカでグループをリードするのは1人。試合時のオールブラックスのハカも同じです。この時のリード役はスクラムハーフを務めるTJ・ペレナラ選手。ペレナラ選手を中心にハカが始まった直後に、主将のキーラン・リード選手がすぐ横でペレナラ選手を支え、2人でリードしたのです。

試合後、このことをリード選手は、「チーム全体で話し合った上で決めた。僕たち選手間の素晴らしい結束を見てもらえたと思う」とコメント。ワールドカップ優勝を目指すオールブラックスの意気込みを感じさせます。

ニュージーランド人の「心」

カパ・ハカは、マオリ系の人々だけでなく、すべてのニュージーランド人にとって、身近で親しみのあるものです。スポーツの試合前に限らず、さまざまな機会に目にします。

亡くなった人に敬意を表するためにお葬式で、カップルを祝福するために結婚式で、前途の幸運を祈って送別会で、お客さまに歓迎の気持ちを伝えるために歓迎会で、と節目節目で人々はハカを踊ります。国賓がニュージーランドを訪問した際も同様です。2002年皇太子時代に、徳仁天皇と雅子皇后がおいでになった時もハカでお迎えしました。

小学校から高校まで、学校によっては、日本でいうクラブ活動のような形でカパ・ハカ・グループを設けているところもあります。『カマテ』や各校オリジナルの戦士の踊りや、お手玉をひもの一端に付けたような「ポイ」を両手に持ってのダンスなどを練習します。カパ・ハカを通してマオリ独特の習慣や礼儀をも学びます。マオリ系の学生が主ですが、誰でも参加できます。

大人も負けていません。全国各地にカパ・ハカ・グループがあります。「テ・マタティニ」と呼ばれるカパ・ハカのフェスティバルも2年に1度行われています。コンテストも兼ねているので、どのグループも国内で一番になるために切磋琢磨するのです。

以前はマオリ系の人々ためのものだったカパ・ハカですが、今では違います。国内での浸透ぶりからはもちろん、海外に出たニュージーランド人が、在住国でカパ・ハカ・グループを作ることからもわかるように、マオリ系、非マオリ系を問わず、ニュージーランド人のアイデンティティーへと変化してきました。

カパ・ハカは、どのニュージーランド人のハートにも宿っているといっても間違いではありません。

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