災害報道は「防がれた被害」に光を当てることも大切~防いだ人にも感謝を
LIMO / 2019年11月17日 20時20分
災害報道は「防がれた被害」に光を当てることも大切~防いだ人にも感謝を
災害報道は被害に注目するが、防がれた被害にも注目すべきだ、と久留米大学商学部の塚崎公義教授は主張します。
堤防のおかげで助かった人も多い
今年は、災害の多い年でした。亡くなられた方々のご冥福をお祈りいたしますと共に、被災された方々にお見舞い申し上げます。
災害が発生すると、マスコミは被害の状況について詳しく報道します。それは当然のことです。そして、その中に「この被害は防げなかったのか」といったコメントが含まれる場合が多いのも、当然のことでしょう。
しかし、「被害が防がれた」という報道も、ぜひお願いしたいと思います。台風19号で言えば、「狩野川台風と同じような台風だったのに、当時より被害が小さくて済んだのはなぜなのか。堤防やダムといった治水工事のおかげで防がれた被害も多かったのではないか」ということにも着目して欲しいのです。
起きたことを報道するのは簡単ですが、起きなかったことを報道するのは容易ではないでしょうが、起きなかったことも起きたことと同じくらい重要な場合も多いのです。
堤防が決壊したことだけを報道するのではなく、堤防によって洪水を免れた地域が多いことも報道することで、我々が堤防を作った人に感謝の気持ちを持つことができるような報道をお願いしたいと思います。
加えて、治水事業の重要性を国民が認識して、今後も治水事業をしっかり行うべきだ、という国民的コンセンサスが形成されるとすれば、それは素晴らしいことですね。
今回の場合は、狩野川台風と厳密には規模も降雨量も違うのでしょうが、おおざっぱな比較はできるので、「ダムや堤防等のおかげでどれくらい被害が防げたのか」を示すことはそれほど難しくないと思います。
予防した人より救出した人が感謝される傾向
被災された方々を自衛隊等々が必死に救済しているところは数多く報道されました。自衛隊等々の活躍には本当に頭が下がるし、いくら感謝しても足りないほどです。そうした報道は大いにやってほしいのですが、災害を防いだ治水関係の方々に関する報道も、同じくらいの大きさでお願いしたいですね。
本件以外にも、災難を防いだ人は評価されず、災難から救い出した人が評価される、という例は少なくありません。
古来から、攻めてきた敵を撃退した将軍は英雄とされて来ましたが、外交努力や策略等々で敵が攻めて来れないようにした功労者は、総じて目立たない存在だったわけです。国にとっては、戦わずに済んだことで戦費もかからず兵の負担も少ないわけですから、後者の方が大きく評価されて良いはずなのですが。
外交とか策略といったものは秘密に行う場合が多いでしょうから、功労者が存在したのか、それが誰であったのか、といった情報自体が知られずに終わる場合も多いでしょう。
そうした場合は仕方ありませんが、そうでない場合には、しっかり感謝すべき人には感謝すべきだと思います。たとえば、警察官がパトロールしているから泥棒が犯行を諦めたという場合、警察官のパトロールのおかげで犯罪件数が減ったということは人々に知られるべきでしょう。
泥棒が諦めた家の人は、まさか自宅が狙われていたとは知らないので警察官に感謝しないでしょうが、それは仕方ないこととして、世の中の治安が良くなったことはしっかり認識すべきでしょう。
それは、警察官の士気にもかかわりますが、それ以上に来年度以降の予算配分に関して警察官のパトロールの予算をしっかり確保することにも繋がるからです。必要な予算が、必要性を認識されずに削減されてしまっては悲しいですから。
難しいのは因果関係の認定
台風19号に際して堤防等が役に立ったということは、狩野川台風との比較をすれば、比較的容易に示すことができるでしょうが、一般には因果関係を認定することは容易ではありません。
戦争回避に関しては、「外交や策略が無くても外国は攻めて来なかったはずだ」という可能性もありますので、担当者が功労者だったのか否かさえも定かでない場合もあるでしょう。
警察官のパトロールに関しては、「パトロールがなければ犯罪が増えていたはずだ」ということは言えそうですが、「テロ対策のおかげでテロが起きなかった」と証明するのは容易ではありません。
「テロ対策はやりすぎだ。あそこまで厳しく荷物チェックをしなくてもテロは起きないはずだ」という意見もあり得るからです。
そうであっても、「備えあれば憂いなし」と言いますから、備えている人々のことを好意的に報道する方が、報道しないよりも、あるいは批判的に報道するよりも、人々の安全は守られるはずです。
視点を変えて、マスコミが報道しないとしても、我々は「マスコミは報道しないけれども、洪水や泥棒やテロを防いでくれている人がいることは常に認識し、感謝する」ように心がけたいものです。
本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。
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