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「財政赤字による世代間の不公平」は存在しない。財務省はミスリーディング

LIMO / 2019年11月24日 20時20分

「財政赤字による世代間の不公平」は存在しない。財務省はミスリーディング

「財政赤字による世代間の不公平」は存在しない。財務省はミスリーディング

財政赤字が巨額であることを説明する際、家計の赤字に例える場合がありますが、それはミスリーディングなのでやめるべきだ、と久留米大学商学部の塚崎公義教授は主張しています。

財務省がミスリーディングな説明を展開

財務省のホームページに掲載されている令和元年10月の「日本の財政関係資料」には、「我が国の一般会計を手取り月収30万円の家計に例えると、毎月給料収入を上回る37万円の生活費を支出し、過去の借金の利息支払い分を含めて毎月16万円の新しい借金をしている状況です。」という記載があります(21ページ)。

財政赤字が巨額であることを読者に印象付け、増税の必要性を認識してもらおう、という意欲の表れなのでしょうが、こうしたミスリーディングなことはやめていただきたい、と強く思います。

ミスリーディングな理由の第一は、日本国と外国との取引の結果である経常収支は黒字だ、ということです。理由の第二は、緊縮財政の影響が国民生活や政府の税収に悪影響を与える、ということです。

日本国は黒字なのに・・・

日本国と外国との取引結果である経常収支は、大幅な黒字です。財務省が赤字だと言っているのは、日本国内での中央政府と他部門との取引の結果である財政収支のことです。

ちなみに「国の赤字は巨額」などという表現も財務省は使いますが、これも日本国の赤字ではなく、「地方公共団体と区別するために中央政府のことを国と呼ぶとすると、国の赤字は巨額」というだけの意味なのです。

したがって、一般会計は「家計の一部である夫の小遣い帳」にでも例えるべきであって、家計簿そのものに例えるべきではありません。

家計が倹約しても赤の他人が困るだけだが・・・

我が家の家計簿が赤字ならば、外食の回数を減らせば良いのです。それにより困るのは赤の他人であるレストランですから、我が家の赤字は容易に減らせるでしょう。

しかし、財政が赤字だからと言って財政支出を減らせば、あるいは増税をすれば、困るのは赤の他人ではなく国民です。しかも、増税等で景気が悪化すれば税収が減少し、自分で自分の首を絞めることにもなりかねません。

その意味でも、一般会計は家計簿ではなく夫の小遣い帳に例えるべきでしょう。

夫は赤字だが妻は大幅黒字で家計は安泰

夫は30万円の給料を全額妻に生活費として渡しているほか、子供たちに小遣いを10万円渡しているため、小遣い帳は10万円の赤字です。妻は、パート収入20万円のうち10万円を夫に貸し、残りの10万円を銀行に預金しています。

家計全体としては、外部に対して黒字なので、夫が消費者金融に借金返済を迫られるようなことにはなりません。妻は夫に借金を返すように迫り、夫は妻にも生活費を負担させようとして、夫婦げんかが絶えないかもしれませんが(笑)。

夫が赤字を減らしても、何も変わらない

夫が子供に渡す小遣いを減らすと、夫の赤字が減り、夫の妻からの借金も減りますが、子供の貯金も減ります。夫が死んだ時に子供が夫の借金を引き継ぐ負担は楽になりますが、子供の貯金も減っているため、「夫の分の借金を払い終わったら子供には何も残らない」という点は小遣いを減らす前と同じなのです。

では、子供に渡す小遣いを減らす代わりに妻に渡す生活費を減らすとします。妻がその分を負担すると、妻の収入20万円が「5万円が生活費、5万円が夫への貸し出し、10万円が銀行への預金」に変化するでしょう。

その結果、夫も妻も他界した後の子の財産は、自分の貯金10万円、夫の借金の負担5万円、妻の夫への貸し出し5万円、妻の銀行への預金10万円となり、差し引き20万円となります。

これは、夫が生活費を減らさなかった場合の子の財産額と同額です。夫と妻の間の金のやりとりが変化しただけなのですから、当然ですね。

つまり、「財政赤字は後の世代に借金を返させる世代間不公平だ」というのは、遺産のことを考えない視野の狭い議論であって、遺産のことも考えれば「財政赤字を減らすと、後の世代が楽になる」ということではないのです。

後の世代が楽になるためには、本当に生活費を削って家族全員が不味い食事で我慢する必要がありますが、家計簿(家族全員の小遣い帳の合計)が黒字なのに不味い食事で我慢する必要があるのか否かは、難しい問題ですね。

財政と夫の小遣いも少しは異なるが・・・

ちなみに、一般会計を夫の小遣い帳に例えることの問題点も二つあります。一つは、上記のように「一般会計が増税すると景気が悪化して税収が減るので、当初の増税分ほどは一般会計が改善せず、国全体として貧しくなる」ということが織り込めない、ということです。

今ひとつは、「子供が一人で夫の借金と妻の資産をすべて相続するから相殺できる」という点が実際の財政赤字とは異なる点です。しかし、これは本質的な問題ではありません。「子供」を「次の世代」と考えれば、辻褄は合うからです。

増税すると、次世代が返済すべき政府債務は減りますが、同時に現在世代が貧しくなり、次世代が相続する財産も減るのです。財政赤字を増税で減らしたとしても、次世代のネット金融資産(資産マイナス負債)は増えないのです。つまり、財政赤字による世代間の不公平など存在しないのです。

あるのは遺産を相続できる子とできない子の間の「世代内不公平」だけだ、というわけですね。筆者が相続税の増税を主張している理由の一つは、そうした所にあるわけです。

本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。

<<筆者のこれまでの記事はこちらから(http://www.toushin-1.jp/search/author/%E5%A1%9A%E5%B4%8E%20%E5%85%AC%E7%BE%A9)>>

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