ノーベル賞受賞者らに懐疑的な目を向けられるマイクロファイナンスに未来はあるか
LIMO / 2019年11月30日 20時20分
ノーベル賞受賞者らに懐疑的な目を向けられるマイクロファイナンスに未来はあるか
2019年10月24日、スウェーデンのノーベル賞選考委員会は今年のノーベル経済学賞の受賞者をMIT教授のアビジッド・バナジー氏およびエステール・デュフロ氏、ハーバード大教授のマイケル・クレマー氏の3名に決定したと発表しました。受賞理由は「世界の貧困を緩和するための実験的なアプローチ」に対してです。
最近その動向が世界的に注目を集めるものとして、2015年に国連サミットで採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」で定められる、持続可能な世界を実現するための17の分野があります。
その中でも貧困削減は「貧困をなくそう」として1つめの目標に掲げられています。
今回のノーベル経済学賞受賞はこの目標の認知度をさらに向上させ、目標達成に向けた動きを加速させるものと期待されます。
明らかにされたマイクロ・クレジットの限界
マイクロ・クレジットとは少額のローンを貧困層に向けて融資する金融サービス。これは1980年代頃から拡大しており、2006年にノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス氏率いるバングラデシュのグラミン銀行がとくに有名です。
しかしながら、今回のノーベル経済学賞受賞者であるバナジー氏、デュフロ氏等の行ったインドの大都市・ハイデラバードの貧困世帯に焦点を当てたマイクロ・クレジット・プログラムに関する初期調査の結果、既存の中小企業への投資に対してかなり小さなプラスの効果を示したものの、消費や他の開発目標については18カ月でも36カ月でも影響は見られませんでした。
これはボスニア・ヘルツェゴビナ、エチオピア、モロッコ、メキシコ、モンゴルなどの国々でのフィールド実験でも同様の結果が得られています。
参照文献:『THE PRIZE IN ECONOMIC SCIENCES 2019 - POPULAR SCIENCE BACKGROUND』
つまり、マイクロ・クレジット、少額の融資のみでは貧困削減効果は認められず、貧困層の人々の生活向上に資するとは言い難いというわけです。
進化を遂げるマイクロファイナンスの可能性
ただ、これはあくまでもマイクロ・クレジットという融資単体の話です。
ここでマイクロファイナンスの定義について以下に示します。
マイクロファイナンスとは、主に発展途上国の貧困層向けに少額の融資や預金、保険などを提供することで、彼らの経済的自立を支援するサービスのことです。
つまり、マイクロファイナンスは、マイクロ・クレジットのみならず、マイクロ・セービングやマイクロ・インシュアランスと呼ばれる預金や保険などを含む包括的な金融サービスになります。
「金融包摂」という言葉をお聞きになったことはあるでしょうか。英語では“Access to Finance”や“Financial Inclusion”という用語で語られています。
日本をはじめ先進国では当然のように利用されている銀行の預金や送金、融資のサービスですが、発展途上国にはまだまだこれらのサービスへのアクセスが不十分な人々が多数います。世界銀行によると、改善傾向こそ見られるものの、2017年時点で世界には実に約17億人の成人(全成人の約31%)に、これらのサービスへのアクセスがありません。
そして、下記3点から、金融サービスへのアクセスの改善と経済成長は正の相関関係があることが認識されています。
(1)ビジネス・健康・教育への投資を促す
(2)失業や不作等、不測の事態が起こった際に、家計に与える負の影響を軽減する
(3)これまで金融サービスにアクセスができなかった女性にサービスを届け、エンパワメントを促す
金融包摂の中でも近年とくに注目されているのが、モバイルマネー等のFinTech(フィンテック)サービスです。銀行の支店やATM等の金融インフラが整っていない地域においても、預金や送金を容易にしています。
たとえばとある家族の収入が大きく減少した際、遠隔地に住む親戚や友人が、近くのキオスク等から簡単に送金をすることで、家計のやりくりがしやすくなります。
また、これらのFinTech(フィンテック)サービスは一般的に送金コストが通常の銀行送金よりも安いため、新興国では政府の社会保障の支払いも、これらを通して行われ始めています。送金コストを抑えることで、セーフティネットの便益を最大化できるのです。
また、マイクロファイナンス機関は、これらの金融サービスの提供に止まらず、非金融サービスの提供にも取組みを広げています。たとえば、とくに最貧困層の人々へのセーフティネットの提供、顧客を定期的に集めて家計管理に関する教育(金融教育)やそれ以前の識字率向上のための教育の実施等により、貧困層の人々が貧困から抜け出すための支援を多面的に行っています。
こういったマイクロファイナンス機関の取組みの広がり、包括的な金融サービスや非金融サービスが貧困削減、貧困層の人々の生活向上にどの程度資するかについては、今後、より大規模かつ精緻なフィールド実験によって明らかにされていくことでしょう。
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