「普通の子」を襲う薬物の危険~家出経験者が語る未成年者の薬物事情
LIMO / 2019年11月29日 20時15分
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「普通の子」を襲う薬物の危険~家出経験者が語る未成年者の薬物事情
薬物使用の容疑で、田口淳之介、田代まさし、沢尻エリカなど有名人の逮捕が相次ぎ、薬物そのものや薬物による影響、薬物使用者に対する注目が集まっています。
最近では薬物使用の低年齢化も問題になっています。実際、今年1~6月に大麻の密売や所持で全国の警察が摘発した2093人(前年同期比403人増、過去最多)のうち、20代は913人(43.6%)、20歳未満は283人(13.5%)で、合計で全体の半数以上に。また、大学生60人、高校生51人、中学生も4人と発表されています。
しかし、普通に学校に通う真面目そうな小・中学生などの未成年者たちのすぐ身近に薬物があるという実感を持つ人は、まだまだ少ないようです。そこで今回は、中3から1年半家出した経験を持つ筆者が、薬物と未成年者のリアルな距離と危険性についてお伝えしたいと思います。
「そういえばクスリ、○○で普通にもらえるよな?」
筆者が家出をしている間は特に、睡眠薬からシンナー、合法ドラッグ、覚せい剤などたくさんの薬物について見聞きする機会がありました。
そうした経験のなかでも驚いたのが、学業に励んでいる見た目が普通の未成年者たちの薬物使用であり、そういった未成年者たちを翻弄する悪い大人たちの姿です。つまり、家出をするような少年少女だけでなく、真面目な未成年者であっても薬物に関わる機会がないというわけではないのです。
薬物を使用する未成年者は往々にして真面目でストイックな性格で、「家族や友人関係などで孤独感に苛まれている」「何らかの劣等感を持っている」というケースも少なくありません。
筆者は家出をするような子供だったものの、薬物は怖くて未経験だったのですが、ある日バッタリと会った同級生のAは「久しぶり! 元気?」などいくつか言葉を交わしたあと、「そういえばクスリ、○○(店名)で普通にもらえるよな? 俺、マジでびっくりしたわぁ」と、まるで日常会話のように続けてきました。
Aは、中学生のときに県外から転校してきた男子で、昭和のマンガに出てきそうな太い眉と黒髪が印象的な真面目そうな見た目。多少の下ネタを口にすることや小テストでのカンニングが発覚したことはあったものの、やんちゃなメンバーと交わるでもなく、どこにでもいる普通の生徒でした。
「え…? ○○って、普通に飲食店だよね? そんなところで普通にもらえるの?」
驚く筆者に「そうそう、普通に。最初、普通に手渡されてマジびっくりしたし」と軽いノリ。
A「それから、行くたびに後ろから小袋が回ってきてさ」
筆者「は? 後ろからって?」
A「あ、他のお客からは見えないように背中から手を回して、腰のあたりからこうやって」
Aは身振り手振りで解説してくれましたが、「…Aって、クスリやってんの?」という筆者の問いには答えず、「詳しくはまた! いま時間ないから、また今度、一緒に行かない?」と誘ってきただけでした。
その後は家出をしていたため、しばらくAとは会う機会がありませんでした。10代の終わりにたまたま再開したAの元彼女に行方を聞いてみたところ、行方知れずのうえ薬物絡みで暴力団に下手を打ったという噂もあるとかないとか…という話。
特にやんちゃでも目立ってもいなかったAが、ある日フラリと入った飲食店でクスリを手に入れたことにより人生の歯車が狂ったのかと思うと、正直かなり残念な気持ちになりました。
慣れた手つきで大麻を吸う真面目そうな大学生
家出中にたまたま知り合った大学生3人(当時19歳)は、見た目はとても真面目そうで、気弱なインテリ系。インドア派でカルチャーを好むような印象でした。
実際に通っていたのも県内一優秀な大学でしたし、偏差値も高い学科で、部屋にはたくさんの教科書や資料が並び、整理整頓の行き届いた清潔感のある部屋だったのです。薬物をやっているなんて、誰が想像するでしょう?
お互いが馴染んできた頃、勉強机の上に慣れた手つきで紙を広げ、粗い粉のようなものをその上に置いてタバコのように巻いて「やるよね?」と尋ねられました。
筆者「え…? それ、何?」
大学生「ジョイント」
筆者「ショイン…? え、何?」
最終的には、大学生から「家出とかしてるのに知らないの? わからないんならいいや。ま、タバコみたいなもんよ」と言われてはぐらかされましたが、のちに「ジョイント=大麻」だと知って驚いたものです。
3人はタバコのようにきれいに巻いた紙に火をつけると、3人で回し合いながら煙を吸い、だんだんと妙なテンションになっていきました。気味が悪くなった筆者と筆者の友人は、「ヤバくない?」「帰ろう!」と小声で示し合せて大学生宅を飛び出し、全身に入れ墨のある人から又借りしていたアパートに帰宅しました。
その後は大学生3人と連絡を取ることも会うこともありませんでしたが、よくあのとき、なんとなく嫌な予感がして勧めを断ったものだと思っています。
全身に入れ墨のある転貸人
家出中にアパートを又貸ししてくれたのは、全身に入れ墨のある2人で、1人は「若頭」という立場、もう1人は若頭の「弟分」という立場でした。
いまから思えば、こういった人たちと知り合った時点で薬物との距離はグンと縮まる可能性が高くなるわけです。ただ、幸い2人はとても紳士的で宴会コンパニオンなどの仕事を紹介してくれただけでなく、筆者や友人が客とモメたときも私たちの肩を持って庇ってくれました。
しかし、中には家出中の未成年者を薬物漬けにして売春をさせるような悪人もいます。後で知ったことですが、全身に入れ墨のある2人は自身でも薬物をやっており、知り合いの未成年者たちにも販売していたようです。
もしかしたら、「やさしい」「信頼できる」という印象を植えつけながら、筆者たちへの薬物販売時期を待っていただけだったのかもしれません。
目立たない普通の女子大生BからのSOS
「目が覚めたら全然知らない男の人が隣に寝てて、私…裸だったし…」
家出期間が終了し、筆者が最初の結婚生活をスタートさせていた18歳のとき、中学の同級生Bから突然連絡があり、震える声でそう打ち明けられたことがあります。Bは背が高く明るい性格で、好奇心は旺盛だけど控え目で小心なところのある、普通の目立たない同級生でした。
筆者「え…? 全然知らない人…?」
B「うん。居酒屋で意気投合して飲んでたら盛り上がってきて…飲み物に何か錠剤みたいのを入れられてたような…そのあとの記憶が…」
筆者「“飲んでたら”って…B、未成年じゃん?」
B「そりゃあそうだけど、朱里(筆者)だって飲むでしょ?」
筆者「まぁ、それはそうだけど…」
B「そんなことより…どうしよう…どうしよう…」
筆者「いま、どこ? まだ、そいつの家?」
B「ううん、さっき、とりあえず服だけ着て逃げ出してきた! いま、外…」
筆者「無理矢理えっちされたってこと?」
B「わからないけど…でも、下着も付けてなかったし…」
いまで言う「デートレイプドラッグ」で、肉体関係を持ちたいと考えているターゲットに気づかれないよう睡眠薬などを飲み物に混入させ、相手の抵抗する力や意識を奪って行為に及ぶ卑怯な手口です。
混入する薬物の多くは、睡眠薬のハルシオン(トリアゾラム)や抗不安剤などの医薬品であり、入手先は医療関係に勤める彼女や両親、友人からもらうほか、本人が処方されている薬を使うことが多いようです。
無断外泊した状態にもなっているため家にも帰れないと泣きじゃくるBに、「お母さんには上手に伝えてあげるから」と、とりあえず家に帰るよう説得しました。
Bの母親とは少し面識があったためすぐに連絡をし、事情を説明して「睡眠薬か何かを飲み物に入れられた可能性がある」「妊娠している可能性や性病などの感染の危険性もある」ことを伝え、病院へ行くよう促しました。
ところが、Bの母親は「うちの娘を巻き込むのはやめてもらえます? もう、二度と電話してこないで」と静かな声で言い放ち、電話を切ってしまったのです。学校にも行かずに家出を繰り返していた筆者がBを巻き込んだと勘違いされても仕方なかったとは思っていますが、そんなことよりも、Bにきちんと向き合ってくれたのかがずっと気になっています。
このあと、B本人との連絡は取れなくなり、引っ越しをしたもののかなり荒んだ生活をしていると風の噂で聞いたのが最後となっています。
顔やカラダがパンパンに腫れあがった10代の死体
「誰にも言ってないんだけど、母さんが見つけたときには息もしてなくて、顔もカラダもパンパンに腫れてたって…多分…シンナー…」
香典を供えにCの家に行ったとき、Cの姉からそう打ち明けられ、小説などを書くのが好きだった筆者にこう言いました。
「シンナーとかして、あいつ…アホよ…ほんと…父さんもCのこと“出て行け”って突き放したけど、それでも立ち直ってほしくて言ったわけで…ほんと、何もわかってない。シンナーとかクスリとか、そういうのに逃げたら終わりだろ…? もし、朱里(筆者)が何かの機会に薬物のことを書く機会があったら、みんなに伝えて。薬物なんか、絶対にしたらあかんって。こうやって死ぬこともあるし、家族の関係を引き裂くこともあるって」
実は、Cの姉が筆者の同級生で、さらに筆者の弟がCと同級生だったため、Cが小学校に入学した頃から面識があったのです。ほかの生徒と比べると少し落ち着きがなく、少しだらしないところがあったものの、素直で可愛らしかったことをいまでもよく覚えています。
20歳に近づいても片付けができないことや、仕事が長続きしないといった理由から父親とかなり激しい衝突があったようで、家を飛び出して1年も経たないうちに帰らぬ人となってしまいました。
筆者の身近には、薬物がらみではなく未成年でもないものの、Cのように家族との衝突の末に家を飛び出して亡くなったケースが複数あります。
子供の成長や力量には差があり、保護者が望む育ち方をしないこともあると思います。けれど、家を追い出す前にいま一度、我が子の個性や魅力を活かせる場所がないか、そして子供との関係性を修復できないかどうかを模索してほしいと願うばかりです。
おわりに
筆者が身近に薬物を見聞きしながらも手を出さなかったのは、小心者でヘタレだったという理由のほかに、薬物への恐怖心がとても大きかったからです。
興味本位や学校の授業などで、薬物中毒者の映像や薬物が原因で命を落とすドキュメンタリーなどを頻繁に見ていた時期があり恐怖を感じていたこと。そして、「薬物と賭け事、保証人は絶対してはいけない」という幼少期からの両親の教育があったからこそだと思っています。
今回紹介した未成年者の薬物絡みの話は、実は、ほんの一部に過ぎません。家出などをすれば、より薬物との距離が縮まるのはもちろんのこと、普通に学校に通っている小・中・高校生であってもごく身近な危険であるということを実感いただければ幸いです。
「うちの子は大丈夫」と高をくくらず、子供のちょっとした言動や行動の変化を見逃さないようにしたいものです。
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