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アベノミクスで円安になっても景気の押し上げ効果が薄かった理由

LIMO / 2019年12月22日 20時20分

アベノミクスで円安になっても景気の押し上げ効果が薄かった理由

アベノミクスで円安になっても景気の押し上げ効果が薄かった理由

アベノミクスによる円安は、景気を押し上げる効果をほとんど持ちませんでした。その理由について久留米大学商学部の塚崎公義教授が解説します。

「円安が輸出企業の利益を増やす」には要注意

「円安になると、輸出企業の利益が増えるから、景気にプラスだ」といった発言を時々耳にしますが、これはミスリーディングですから、注意が必要です。円安で輸出企業の利益が増えるのには「円安で輸出数量が増えるから」「円安で、輸出代金のドルが高く売れるから」という二つの理由がありますが、後者は景気にプラスには働きません。

日本は輸出と輸入が大体同じ金額なので、輸出企業が持ち帰った輸出代金を高く売れる分だけ、輸入企業が輸入代金のドルを高く買わされることになり、プラスマイナスはゼロだからです。というよりも、むしろマイナスかもしれません。

マイナスだと考える理由の第一は、円建ての輸出があるので、輸出企業が売るドルよりも輸入企業が買うドルの方が多いだろう、ということです。

マイナスだと考える理由の第二は、輸入企業は費用の増加の一部を売値に転嫁するので、消費に悪影響を与える、ということです。一方の輸出企業が儲けを設備投資や賃上げなどに使ってくれれば良いのですが、そうではなく内部留保や配当に使う場合が多いようです。

内部留保は、現預金として積み上がるか借金の返済に充当されるでしょうから、景気にはプラスに働きません。配当も、受け取った投資家が再投資に用いる場合が多いでしょうから、消費には結びつきにくいのです。

円安でも、輸出数量がそれほど増えない

以前の日本企業は、円高になると輸出数量が減り、円安になると輸出数量が増え、それにつれて国内生産が増減し、景気に大きな影響を与えたものでした。しかし、プラザ合意後の円高局面では、それほど輸出数量が減りませんでした。「日本製品は品質が良いから高くても買いたい」という外国人が多かったからです。

その後も日本製品は、品質の向上を続けました。しかも、低付加価値品は海外現地生産に移行したため、輸出品は高付加価値品が中心となりました。いっそう輸出数量が価格の影響を受けにくくなったのです。

企業の輸出戦略も、「円安なら輸出数量を伸ばそう」という発想から「円高でも円安でも、一定数量を輸出しよう」という戦略に変化したようです。「為替レートが変動するたびに企業収益が大きく変動するのは困る」ということで、為替レートに影響されにくい企業収益構造を目指したのが一因だ、と言われています。

為替レートが変動するたびに「国内での輸出用品の生産」と「海外現地生産」との間で生産体制を入れ替える手間をかけたくない、ということもあるのでしょう。

日本企業が「地産地消」を目指している、という話も聞きます。輸送コスト等も関係するのでしょうが、現地のニーズに敏感に対応できる生産体制、ということもありそうです。もちろん、為替レートに影響されにくい企業収益体質と生産体制の安定、ということも大きいのでしょう。

そうなると、「どうしても日本で作って輸出する必要があるもの」だけを輸出することになり、輸出数量が為替レートによって変化しない、ということになるわけですね。

「円安ならば輸出数量を増やそう」と考えて生産ラインを組み替えたら、円高になって輸出が困難になった、といった過去がトラウマになっている可能性もあります。

バブル崩壊後の長期低迷期、日本経済は回復の兆しに期待しながら裏切られることの連続だったので、「どうせ良いことは長くは続かない」といった「デフレマインド」が企業経営者に蔓延しているからです。

そうであれば、その部分は時間と共に緩んでいく可能性はあります。もっとも、アベノミクスで円安になってから7年も経つのに輸出が増えていないのですから、今後についても過大な期待は禁物ですが。

輸入が減らないのは不思議だが

輸出企業の戦略は上記のようなものだとしても、海外からのバイヤーが日本に買い付けにくれば、円安で安く買えるようになった物を大量に買って帰ることが考えられます。また、日本人消費者が高くなった海外製品を敬遠して国産品を愛用するようになる、という効果もあるはずです。

そうしたことがあまり起こっていないという点については、あまり理由が明確ではないようです。「輸入ワインを飲まずに日本酒を飲む人が増えるだろう」という予想が外れた筆者としては悔しいわけですが、「ワインでも日本酒でも、とにかく酔えれば良い」という筆者のような人は、少数派だということなのでしょうね(笑)。

最後に、ドル高だと株も上がる場合が多いので、ドルや株を持っている人が儲かって消費を増やす「資産効果」は見込まれます。もっとも、日本では個人金融資産が銀行預金に集中していて、外貨や株を持っている人が多くないので、資産効果はそれほど大きくない、と言われています。

ちなみに、「ドル高になっても景気は良くならないのに株価は上がる」わけですが、それについては次回記すこととします。

本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。

<<筆者のこれまでの記事はこちらから(http://www.toushin-1.jp/search/author/%E5%A1%9A%E5%B4%8E%20%E5%85%AC%E7%BE%A9)>>

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