「円安になると株価が上がる」理由を3つの場合で解説
LIMO / 2019年12月29日 20時20分
「円安になると株価が上がる」理由を3つの場合で解説
円安は、景気は押し上げないのに株価は押し上げます。今回は、久留米大学商学部の塚崎公義教授がその理由について解説します。
円安は景気を押し上げない
円安が景気を押し上げると言われますが、最近は円安になっても輸出数量があまり増えず、国内生産の増加に結びつかないため、円安の景気押し上げ効果は人々が考えているより小さいようです。
ちなみに、輸出企業が海外から持ち帰ったドルが高く売れるために利益が増えるわけですが、これは景気には効きません。一つには、輸出企業が高く売れた儲けと輸入企業がドルを高く買わされた支出増が概ね同じ金額だからです。
もう一つには、輸出企業の利益が設備投資や給料増には使われないからです。詳しくは前回の拙稿『アベノミクスで円安になっても景気の押し上げ効果が薄かった理由(https://limo.media/articles/-/14821)』を御参照いただければ幸いです。
しかし、「円安になると株価が上がる」ということは言えそうです。「円安の効き方が、景気にはマイナスで株価にはプラスとなる場合」「円安が景気には効かないが株価にはプラスとなる場合」「円安が株価を押し上げるのではなく、別の所に原因がある場合」に分けて考えてみましょう。
円安が景気にマイナスで株価にプラスとなる場合がある
輸出企業が持ち帰ったドルを高く売って儲けた分は、そのまま輸出企業の利益として株価を押し上げる力になりますが、儲けが設備投資や賃上げに使われるわけではないので、景気を押し上げる力にはなりません。
一方で、輸入企業が高くドルを買わされる分は、少なくとも一部が売値に転嫁されます。その分だけ輸入企業の収益への影響が小さくなり、同時に消費者物価の上昇を通じて景気にマイナスに働きます。
両者を合計すると、円安が景気にはマイナスに働く一方で、企業収益を押し上げることで株価は押し上げる、ということになるわけです。
しかも、輸出企業の多くは上場されているために利益増が株高要因となりますが、輸入企業は上場していないところも多いので、利益減が株安要因となりにくいのです。
景気と無関係な株高要因もある
ドル高円安になると、企業が海外に持っている資産が円換算で膨らみます。これは、決算書上で資産が時価評価されるか否かにかかわらず、株高要因です。また、海外から受け取る利子配当も、円換算で膨らみます。これは損益計算書を改善し、株高要因となります。
日本企業は海外に巨額の資産を保有しており、そこから巨額の利子配当収入等を得ています。その多くが上場企業のものであるため、この効果は大きなものとなっているはずです。
しかし、企業が海外に持つ資産が円換算で膨らんでも、海外から受け取った利子配当が円換算で膨らんでも、企業が国内で設備投資や賃上げをするわけではありません。内部留保されて借金の返済に回されるか、配当されて投資家の別の投資に使われるか、いずれにしても景気を押し上げる力はほとんどないはずです。
原因が別のところにある場合も
AがBと似ているからと言って、AがBの親だとは限りません。親が別にいて、AとBが兄弟だから似ている、という場合もあるからです。
同様に、因果関係を考える際、「円安と株高が同時に起きる場合が多いから、円安が株高の原因なのだろう」と考えることは危険です。原因が別にある場合も多いからです。
たとえば米国の景気が拡大した時には、米国の金利が上昇し、ドル高の要因となるでしょう。同時に、米国企業の決算が好調で米国の株価が上がり、つられて日本の株価も上がるでしょう。米国向けの輸出が増えて輸出企業の株価が上がることもあるでしょう。
こうした場合、円安が原因ではないのに、円安が株価を押し上げたように見えるわけですね。気をつけたいものです。
資産の組み替えが日本株を押し上げる効果も
日本の投資家で、「資産の半分を日本株で、残りを外国株で運用する」と決めている人は、円安ドル高になると外国株の円換算価格が値上がりするため、自動的に資産の半分以上が外国株になってしまうので、外国株を売って日本株を買う必要が出てきます。
外国の投資家で、「資産の1割を日本株で、残りを外国株で運用する」と決めている人は、円安ドル高になると日本株のドル換算価格が値下がりするため、自動的に日本株が資産の1割以下になってしまうので、外国株を売って日本株を買う必要が出てきます。
機関投資家の中には日本株の比率を決めているところも多いようなので、こうした日本株買いが日本の株価を押し上げる効果も、小さくないのかもしれませんね。
美人投票が日本株を押し上げることも
人々は、円安になると日本株が値上がりすることを経験的に知っていますから、円安になった時に「株が上がりそうだから買おう」と考える投資家が多いでしょう。そうなると、「他の投資家が買いそうだから、自分も買おう」という投資家も増えてきます。
こうして、美人投票的に株価が上昇するというメカニズムも働くはずです。そうなると、次回の株安の時はさらに多くの投資家が買うようになり、このメカニズムは自然と強化されていくわけですね。
本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。
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