「邦人拘束」は来年も続くのか〜中国ビジネスを政治リスクから考える
LIMO / 2019年12月16日 20時20分
「邦人拘束」は来年も続くのか〜中国ビジネスを政治リスクから考える
今年秋、日本人の大学教授が北京で拘束され、幸いにもその後解放されるニュースが大きく取り上げられた。
だが、最近も、広州市で拘束されていた大手商社の40代男性が現地の裁判所からスパイ容疑で懲役3年の実刑判決を言い渡され、また、湖南省長沙市で、50代の男性が国内法違反により今年7月から拘束されていることが明らかとなった。
枚挙にいとまがない中国による「拘束」
中国では反スパイ法が成立した2015年以降でも邦人13人が逮捕され、うち9人が起訴、うち少なくとも6人に懲役刑が下された。だが、これは日本だけが抱える問題ではない。
まず、中台関係が緊張する中、2016年から実に67人の台湾人が、国家の安全や治安を脅かしたなどの容疑で当局に逮捕され、行方不明となっている。
また、今年6月には、スペインを拠点に中国国民に電話で接触し、多額の金銭を詐取していたとして、スペインで逮捕された台湾人94人の身柄が中国本土に送られていたことが明らかとなったが、それ以降、消息など詳しいことは分かっていない。
オーストラリアは2018年6月、中国による内政干渉を意識して、外国政府の国内でのスパイ活動や内政干渉を防止する複数の法案を可決したが、中国は今年8月、オーストラリア国籍の作家の男性をスパイ容疑で今年1月に逮捕したと発表した。
この作家は、2000年にオーストラリア国籍を取得し、長年中国政治に関する論評活動を行っていたが、今年1月、ニューヨークから広州に到着した際、空港ですぐに身柄を拘束された。
さらに、9月下旬、江蘇省で英語圏から英語教師を受け入れる事業を展開する企業の米国人2人が、受け入れた英語教師らを不当に他省へ行き来させていたとして逮捕された。
詳しい背景は明らかになっておらず、その2週間前に米国内で中国政府職員1人が就労ビザの詐欺容疑で逮捕されたことに対する外交的報復ではないかとの指摘もある。
日中関係における安全保障リスクの顕在化
中国での外国人拘束は今に始まったことではないが、その真相は分からないままである。
だが、こういった教訓として、日本の経営者たちは今まで以上に政治リスク(外交・安全保障リスク、地政学リスクなど)を重視する必要があろう。一連の拘束の具体的理由は分からないが、中国を巡る関係各国の政治動向を追うことは、中国ビジネスの今後を探る上で極めて重要だ。
たとえば、来年春に習近平氏の訪日が予定され、来年は日中関係も暖かくなるのではと予想する人もいるだろう。だが、日中経済関係は戦略的に考えなければならない。
日中関係を安全保障的に考えれば、何も改善に向かっている兆候はなく、むしろリスクは顕在化している。
中国にとって日本は米国陣営の一国であり、東シナ海や南シナ海、そして西太平洋への海洋覇権を進める上での対立国となる。また、日中が争う尖閣諸島の問題もあるように、安全保障的に対立する日中は、緊張をいかに回避するかという立場にある。
要は、国家の根幹に関わる安全保障問題で何かしらの政治的緊張が生じれば、それはそのまま経済的リスクとして波及する恐れがある。
社員が”標的”に!? 政治リスクが中国ビジネスに落とす影
民主党政権時代、日本政府は尖閣諸島の国有化を宣言した際、中国では大規模な反日デモが各地に拡大し、日系企業のビルや店が襲撃されるなど大きな被害が出た。
その際、現地で具体的に被害を受けた駐在員と話したことがあるが、テロや暴動に“巻き込まれる”のと違い、自分たちが“標的となった”時の怖さは計り知れないものだったと聞く。
今後、尖閣諸島を巡る情勢で何かしら大きな亀裂が生じた場合、同様の事態が再び発生することもある。
そういう現実を抱える日本(日系企業)としては、日中関係の悪化も影響して、中国にいる邦人(社員)が意図的に拘束される可能性は依然としてあることを認識する必要があろう。
外交特権を有しない駐在員や旅行者であっても、国家・政府として国民に違いはなく、邦人拘束は政治的揺さぶり、外交カードになってしまう。
中国ビジネスだけでなく、戦争や内戦、テロや暴動などの政治リスクを分析することは、駐在員や出張者の安全、企業の経営にとって今後さらに重要になろう。
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