箱根駅伝の全国化、視聴率30%の超ドル箱番組をめぐる思惑とは?
LIMO / 2019年12月28日 11時15分
箱根駅伝の全国化、視聴率30%の超ドル箱番組をめぐる思惑とは?
正月の箱根駅伝は視聴率No.1のスポーツ番組
もうすぐ今年も終わりです。年末年始は家でゆっくりテレビを観て過ごす人も多いでしょう。そのような人向けに、スポーツ番組は人気コンテンツの1つです。
年末年始に放映されるスポーツ番組の中で、最も視聴率が高いのが「東京箱根間往復大学駅伝競走(以下、箱根駅伝)」です。毎年1月2日と3日に日本テレビ(系列局含む)で放映されますが、概ね28~29%の視聴率を上げています。
しかも、この高い視聴率を30年近くの長きに渡って続けていることに驚かされます。さらに、今年(2019年)は久しぶりに30%を超えました(1月2日:30.7%、1月3日:32.1%)。
テレビ離れが顕著な現在、箱根駅伝は間違いなく“超”が付くドル箱コンテンツと言えましょう。
ちなみに、ここ数年のスポーツ番組で、箱根駅伝を上回る視聴率を上げたのは、2018年サッカーW杯の日本代表戦(コロンビア戦:48.7%、ポーランド戦44.1%等)、2018年冬季五輪ピョンチャン大会の男子フィギュアスケート(33.9%)、まだ記憶に新しい2019年ラグビーW杯の日本代表戦(南アフリカ戦:41.6%等)くらいしかありません。
しかも、これらは全て4年に1度開催される大会であり、ある種の“瞬間風速”に過ぎません。こうしたことからも、箱根駅伝は視聴率No.1のスポーツ番組と言っても過言ではないのです。
それにしても、なぜ箱根駅伝の人気はこうも高いのでしょうか?
地方大会の1つである箱根駅伝は、事実上は真の大学王者決定戦
箱根駅伝は、「全日本大学駅伝」「出雲駅伝」とともに学生三大駅伝大会の1つです。しかし、箱根駅伝の出場校は関東陸上連盟の大学に限定されているため、ハッキリ言うと、地方大会の1つに過ぎません。
ただし、大会の格としては圧倒的な最上位であり、事実上、”箱根駅伝の勝者=真の大学王者”と見なされていると断言できます。
箱根駅伝が最上位に位置付けられている理由の1つが、その走行距離の長さと険しさです。往復で約217kmは、全日本(約107km)や出雲(約45km)を大きく上回ります。
そして、テレビ視聴者を釘付けにするクライマックスが、過酷な箱根の山登りである「第5区」でしょう。過去、第5区では途中棄権を含む数々の壮絶なドラマが繰り広げられ、“山の神”と称された山登りスペシャリストのスター選手が何人も登場してきました。
テレビ番組として、商業的な成功を導く多くの要素が含まれているのです。
学生スポーツ大会がなぜここまで人気があるのか
一方で、箱根駅伝は単なる学生スポーツ大会の1つに過ぎないのも事実です。それでも、毎年大きな注目を集めるのは、多くの日本人が、昔からマラソンなど長距離走が大好きだという点にありそうです。
しかも、自身が走るだけでなく、観ることも好きなのです。夏季五輪のマラソンは毎回高い視聴率を記録していることからも、それをうかがうことができます。
また、プロスポーツ大会ではないことが、かえって高い人気を得る要因になっているかもしれません。無名のアスリートが個々のためではなく、部員全員のために、そして、母校の名誉のために必死に走る姿が、多くの人々の共感を呼んでいるのではないでしょうか。
視聴率30%の箱根駅伝は、大学側にとっても絶好の宣伝チャンス
また、箱根駅伝は、少子化で受験者数が減少する大学側にとっても、絶好の宣伝の場になります。視聴率30%の番組に年始の2日間にわたって学校名が映るのは大きな効果をもたらし、さらに成績が上位に食い込めば、その宣伝効果が一層大きくなるのは容易に想像できます。
実際、直近10年間で優勝を含む好成績を立て続けに収めた東洋大学は志願者数が倍増し(2017年実績、対10年前比)、4連覇を達成した青山学院大学も2017年度、2018年度と着実な伸びを示しました。
少し前になりますが、2013年には箱根駅伝優勝によるメディア露出量の広告換算費は約13億円という研究結果も報告されています。これに基づけば、現在は軽く20億円以上はあるでしょう。
もちろん、東洋大学や青山学院大学の志願者数の増加は、箱根駅伝の好成績だけによるものではありません。のっぴきならない少子化の進行を背景に、この両校を含めて各大学は抜本的な構造改革を断行しており、志願者数増加を目的とした様々な施策が実施されています。
ただ、なかなか志願者数増加という結果に結びつかない大学も多いことを勘案すると、“箱根駅伝効果”が何らかの形で寄与していることは否定できないでしょう。
スポンサー企業による潤沢な運営資金も大学側には好都合
このように、視聴率が全てとは言いませんが、箱根駅伝に大きな宣伝効果があるのは確かのようです。ただ、正月の本大会に出場するためには、厳しい予選会を勝ち抜く必要があります(シード権制度あり)。
そのため、各大学は全国各地から有望選手を勧誘しており、地方大会である箱根駅伝は、事実上、最高峰の全国大会となっているのです。
“箱根駅伝の勝者=真の大学王者”と言われる理由の1つがここにあります。
そして、これだけのドル箱コンテンツを、スポンサー企業が放っておくはずがありません。筆頭スポンサーで冠スポンサーでもあるサッポロビールを別とすれば、数多くの大企業が名乗りを上げて、激しい広告枠獲得競争を繰り広げています。
当然、スポンサー料は年々跳ね上がっていると推測できますが、それでも、大きな広告価値があると考えられます。大会運営の資金は潤沢と見ていいのではないでしょうか。この状況は、出場する大学にとっても広告宣伝という観点では、正しく“願ったり叶ったり”なのです。
2024年から箱根駅伝が全国化へ? 見え隠れする思惑とは
さて、そんな箱根駅伝ですが、2024年に開催される第100回記念大会から名実ともに“全国化”される方向で議論が進んでいます。つまり、現在の関東陸上連盟の加盟大学だけでなく、全国の大学に参加資格を与えるという内容です。
当然ながら、関東陸連は激しく反対し、他の地区陸連は手放しで賛成しているようです。確かに、関東陸連の大学から見れば、(予選会などで)ただでさえ難しい出場が、より一層難しくなります。予選落ちすれば、大学の宣伝にもなりません。一方、他の地方陸連の大学から見れば、絶好の宣伝チャンスが巡ってきます。
また、前述したスポンサー企業も、商業的観点から全国展開に賛同していると見られます。
この全国化への議論、正式決定までは様々な紆余曲折がありそうです。ただ、忘れてはならないのは、主役はあくまでもアスリートであるということです。そして、その先には、マラソンを含めた陸上長距離競技のレベル引き上げがあるはずです。
幸い、不振が続いた日本の男子マラソンでは、日本記録を更新する複数のアスリートが登場してきました。彼らは皆、学生時代に箱根駅伝で大活躍しています。
大学同士の過度な志願者争奪戦やスポンサー企業の意向によって、本来の意義が失われないことを願うばかりです。
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