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ゼロ金利でも銀行が預金部門を廃止できない理由

LIMO / 2020年1月19日 20時20分

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ゼロ金利でも銀行が預金部門を廃止できない理由

ゼロ金利時代、銀行には預金部門は不要だ、と考える読者もいるでしょうが、預金部門の廃止は簡単ではないのです。その理由を久留米大学商学部の塚崎公義教授が解説します。

銀行が預金客に礼を言うのは当然か?

飲食店が客に笑顔で礼を言うのは、利益をもたらしてくれる相手なので、合理的です。では、マイナス金利時代に銀行が預金客に礼を言うのは合理的でしょうか?「銀行が預金客に礼を言うのは当然だ」と思っている人も多いでしょうが、それは市場金利が高かった時代のことではないでしょうか。

今の銀行は、預金を集める必要がありません。金利ゼロで他行から借りてくれば良いからです。正確に言えば、市場金利がマイナスですから、マイナス金利で他行から借りてくる方が、金利ゼロで顧客から預かるよりも儲かるのです。顧客から預かった預金が貸出に使えなければ、他行にマイナス金利で貸し出すことになり、損してしまうのです。

それなら預金部門を解散すれば良い、と考える人もいるでしょう。預金部門の雇っている大勢の従業員も店舗もATMの機械も不要になりますから。しかし、それは現実的ではないのです。なぜなら、預金部門が銀行にとって必要だからです。

融資のために預金部門が必要

銀行から金を借りている人は、銀行への融資返済を「預金口座からの自動引き落とし」で行っているのが普通です。返済期限毎に返済額を他行から送金するのは面倒ですから。それのみならず、企業は借入先銀行に預金口座がある方が、色々な面で便利でしょう。

彼等は、銀行にとって収益源ですから、重要な顧客です。したがって、彼等の要望に応えて預金部門を維持しようというインセンティブは強いはずです。

銀行にとっても、融資先の預金口座があることは重要です。融資先の売り上げ代金は銀行の預金口座に振り込まれるので、融資先の売り上げが急減しているような場合には、預金口座をチェックしていれば異変に気付くことができます。

しかし、預金口座がなければ、融資先の急変に気づかずに放置し、決算報告を聞いて始めて気付いて焦ることにもなりかねません。それでは銀行の債権管理が不安ですから。

また、取引先が外国為替取引等々を行う場合にも、銀行預金口座がなければ不便ですから、メインバンクであっても外為取引を依頼してもらえない、といったことにもなりかねません。それでは手数料収入が他行に流れてしまいます。

一般預金客も収益源となり得る存在

一般預金客は、何もしなければ収益源とはなり得ず、コスト要因ですが、彼等が預金窓口を訪れる機会に投信や保険を勧めることができるのであれば、販売促進ツールとしては有益でしょう。

その際、銀行にとって、顧客の預金口座の残高が見れることは、投信や保険を販売するターゲットを探す上で大きなメリットなのです。

場合によっては、遺産や退職金が入金された預金口座を見つけて、銀行の方からアプローチすることもあるでしょう。多額の資金を手にした客は、多額の投資をしてくれるかもしれない有望先であり、その情報を他の金融機関より先に把握することができるというのは、銀行にとって大きなメリットでしょう。

預金客が将来、住宅ローンを借りてくれる可能性にも期待しましょう。住宅ローンを借りたいと思った時に、「まずは預金口座のある銀行に相談してみる」という人も多いでしょうから。

将来の市場金利上昇時に備える

銀行預金の金利は、市場金利と比べると安定しています。したがって、将来市場金利が大幅に上昇することになったとしても、預金金利の上昇は限定的でしょう。そうなると、預金部門のない銀行は苦しくなります。

他行は、それほど高くない金利で預金を集めて貸出するので大きな利益を得ることができますが、自行は高い金利で他行から資金を借りて、それを貸出に使うので、利益を稼ぐことは容易ではないでしょう。

そうした事態に陥ることを避ける意味でも、預金部門は維持しておく必要があります。預金部門を解散してから再度設置しても、一度解約された預金口座が戻ってくるまでには大変な労力と時間を要するでしょうから。

休眠口座は迷惑なだけ

上記のように、一般預金客でさえも銀行にとっては必要な存在ですから、客に笑顔で礼を言うのは、銀行にとって合理的だ、ということもできそうですね。

しかし、どうしても迷惑な客がいます。休眠口座の所有者です。預金口座は持っているけれども残高が極めて小さく、しかも取引のない口座は、多数あります。引っ越し前に作った口座、結婚前に作った口座で、解約するのは面倒だから放置してある、という人も多いでしょう。

これは、所有者にとっては何でもありませんが、銀行にとってはコストなのです。たとえば、あまり知られていませんが、銀行は預金通帳の発行冊数を数えて、それに対する印紙税を支払う必要があるのです。それ以外にも、コンピューターの容量を食いますし、相続が発生した時に面倒な手続きが発生しかねません。

それならば、せめて印紙税の分だけでも顧客に負担してもらいたい、というのが銀行の本心でしょう。それによって休眠口座の解約が増えれば、銀行にとって、むしろ有難いことだからです。

銀行に余裕がなくなってきている

もっとも、預金口座の維持手数料を客に要求すると、休眠口座以外の預金口座も逃げ出してしまうリスクがありますから、今まではそれが怖くて銀行は維持手数料の設置に慎重でした。

しかし、ゼロ成長やゼロ金利の長期化等々によって銀行の収益環境は悪化しています。そのあたりの事情については拙稿『ゼロ成長とゼロ金利が地銀を苦境に追い込むのはなぜか(https://limo.media/articles/-/13867)』をご参照いただければ幸いです。そこで、もはや「背に腹は代えられない」という銀行も出てきている模様です。

自行だけが苦しいのであれば、手数料の設置によって顧客が他行に流れてしまうリスクも高いでしょうが、各行ともに苦しいのであれば、各行が追随してくれる可能性も見込まれますから、最初に設定する銀行のリスクも限定的だと言えるかも知れません。

顧客の批判はあり得ますが、毎年1回10円を入金すれば(通帳と10円玉を持ってATMで手続きすれば)休眠口座ではなくなるのですから、それほど大きな抵抗はないでしょう。

残高がなくなれば口座を銀行側から解約する、といったこともあり得るでしょう。そうなれば、むしろ残高数百円の口座を持っている人は、解約に行く手間が省けて助かるのかもしれませんね。

ちなみに「年会費の自動引き落としや年金振込の口座に指定してあるので、解約されては困る」と考える読者がいるかも知れませんが、ご安心ください。そうした口座は休眠口座ではありませんから(笑)。

最大手の三菱UFJ銀行が手数料の導入を検討していると伝えられているので、他行が追随する可能性も大きいと思われます。今後の推移が注目されます

本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。

<<筆者のこれまでの記事はこちらから(http://www.toushin-1.jp/search/author/%E5%A1%9A%E5%B4%8E%20%E5%85%AC%E7%BE%A9)>>

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