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ノーベル経済学賞の受賞理由が示す貧困削減の将来像

LIMO / 2020年1月25日 20時20分

ノーベル経済学賞の受賞理由が示す貧困削減の将来像

ノーベル経済学賞の受賞理由が示す貧困削減の将来像

前回の記事( 『ノーベル賞受賞者らに懐疑的な目を向けられるマイクロファイナンスに未来はあるか(https://limo.media/articles/-/14586)』 )で、昨年、2019年10月24日、ノーベル経済学賞に選出されたMIT教授のアビジッド・バナジー氏およびエステール・デュフロ氏、ハーバード大教授のマイケル・クレマー氏の受賞理由となった「世界の貧困を緩和するための実験的なアプローチ」について簡単に触れました。

今回はこれを少し深堀して見ていくことで、2015年に国連サミットで採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」で定められる、持続可能な世界を実現するための17の分野の1つ目に掲げられている「貧困をなくそう」、つまり貧困削減に向けた方向性について考えていきます。

「因果関係の特定」について

まず、そもそも「世界の貧困を緩和するための実験的なアプローチ」とはどういったものでしょうか。それはRCT(Randomized Controlled Trial:ランダム化比較実験)と呼ばれる因果関係を明らかにする手法のことを指します。この因果関係、実はかなり厄介なものです。

たとえば、「職業訓練校が少ないと、多くの人が適切な職業訓練を受けることができず、一定以上の収入を得られる職業に就くことができないため、貧困に陥ってしまう。なので、職業訓練校の数を増やして、多くの人が適切な職業訓練を受けられるようにすれば、一定以上の収入を手にすることができ、貧困を削減することができる。」というのは、一見するともっともらしい当たり前の議論のように思えます。

しかし、本当にそうと言い切れるでしょうか。職業訓練校の数が少ないことが貧困の原因なのでしょうか。具体的な例で見ていきましょう。

ある国Aが1年間に職業訓練校の数を前年比で2割増やしたとします。そうしたところ、その翌年にAの貧困率が前年比10%下がりました。この場合、「ほら、やっぱり! 職業訓練校の数を増やしたことで貧困削減に繋がった!!」と言いたくなるでしょうが、それは早計の可能性が大いにあります。

なぜならば、職業訓練校の数を増やした年にAはたまたま好景気となりそのおかげで貧困が削減されたのかもしれませんし、その年が天候良好で豊作となったために貧困層の農民が貧困から抜け出すことができて貧困が削減されたのかもしれません。このように、因果関係の特定というのは決して容易ではありません。

因果関係の特定を可能にするRCTのイメージ

この特定することが容易ではない因果関係を明らかにするのが、先ほどお伝えしたRCTです。それでは具体的にどのように用いられるのでしょうか。先ほどの職業訓練校の例を使って解説します。

職業訓練校の数の増加が貧困削減の原因であるとして特定するために、ここでは統計上の厳密な議論は横に置いてイメージで捉えていただきたいと思います。

まず、A国の似たような特徴(人口、年齢分布、収入分布、等々)を持った20の都市をランダムに選定します。その中から、さらにランダムに10都市を選び、その10都市では職業訓練校の数を増やします(この10都市を「トリートメントグループ」と呼びます)。一方で、選ばれなかった残りの10都市には何もしません(この10都市を「コントロールグループ」と呼びます)。

この状況で、一定の期間(3年とします)、トリートメントグループとコントロールグループの貧困率をモニタリングします。さて、その結果が次のようになったとしましょう。

上のグラフを一見すると、「職業訓練校の数を増やしたことで、貧困率が下がった」といえそうです。何もしなかったコントロールグループよりも、職業訓練校の数を増やしたトリートメントグループのほうが貧困率は下がっているわけですから。

さらに「職業訓練校の数を増やしたことで、どのくらいの貧困削減に寄与したか」を推定したい場合は以下のように見ていきます。

職業訓練校の数を増やしたトリートメントグループだけを見ていると、「職業訓練校を増やしてからαだけ貧困が削減された!」と思ってしまい、あたかも職業訓練校を増やしたことでαだけ貧困が削減された!と考えてしまいがちです。

しかしながら、何もしなかったコントロールグループでも、時間の経過とともにある程度は貧困率が下がっているのが見て取れますので、職業訓練校の数を増やしたことによる貧困削減の寄与分はその時点での差分にあたるβとなります。

このようにRCTを用いて何をすれば貧困削減に資するか(貧困削減の原因となる施策)を厳密に考えていった点が、昨年のノーベル経済学賞受賞に繋がったと言えるでしょう。

RCTの欠点を乗り越えて貧困削減に繋げる道筋

それでは「RCTを用いて因果関係の特定を行えばすべて解決!」といえるかというと現実的ではありません。どの手法にも言えることですが、RCTにも以下3つの欠点があると考えられます。

① 多大な人的、時間的、金銭的コストがかかる

厳密にRCTを行うにはとてもコストがかかります。上記の職業訓練校の例を考えてみてもお分かりになるでしょう。10都市で職業訓練校を増やし、増やさなかった他の10都市と合わせて3年間モニタリングする、というのは多大なコスト(時間的、人的、金銭的)がかかります。

② 倫理的に問題となる場合がある

RCTにおいて重要なのは、トリートメントグループとコントロールグループを「ランダムに」選ぶ、という部分です。ランダムに選ばないと、バイアスが入ってしまい、本当の因果関係が検証できません。しかし、たとえば食糧配布と子どもの栄養状態の因果関係を確かめるにあたって、食料を配布せず放置するコントロールグループをランダムに選び出すなどといったことが倫理的に問題ないかというのは議論する必要がありそうです。

③ 社会科学上の命題では厳密に用いることができない場合がある

RCTをより厳密に用いるには、RCTの対象者がどのグループに属しているかを知らない状態を作り出すことが重要です。しかしながら、上記の職業訓練校の例にしても、食糧配布の例にしても、そのような状態を作り出すのは、特に現在のようにインターネットへのアクセスが容易な時代には不可能といっても過言ではないでしょう。

おわりに

これらの欠点を乗り越えてRCTを活用しながら貧困削減に繋げていくためには、アカデミアとビジネス実務者の密な連携が必要と言えます。アカデミアが特定した因果関係に基づいてビジネスサイドが効果的な施策を行う、といったコラボレーションが期待されるところです。

不断の地道な努力が求められるところですが、貧困削減の将来像を描くにあたって欠かせないものですから、当社も引き続き試行錯誤しつつ尽力してまいります。

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