テロ、暴動を呼ぶ若者の怒りと不満~労働環境の格差による政治リスクとは
LIMO / 2020年1月23日 20時35分
テロ、暴動を呼ぶ若者の怒りと不満~労働環境の格差による政治リスクとは
国際労働機関(ILO)は20日、世界の労働環境に関する最新の報告書を発表した。
それによると、世界経済が減速する中、去年の世界全体での失業者数は1億8800万人(失業率は5.4%)に上り、十分な労働時間を与えられない人、仕事を見つけられない人を合算すると4億7000万人あまりに及ぶという。
また、世界の労働人口の2割(約6億3000万人)の1日収入は3ドル以下で、15歳から24歳の失業者、教育・職業訓練を受けていない者は世界全体の22%を占めるとされ、若者の豊かな暮らしや安定的な雇用がいっそう難しくなってきているとILOは指摘した。
テロ実行犯を生む格差や貧困
筆者は長年、テロリズムや暴動などを中心とする政治的暴力を研究(イスラム国やアルカイダの問題など)している。
テロの原因は貧困だとする議論がよくされるが、当然ながらその答えは1つではなく、貧困や失業、経済格差、社会的差別や孤独などあらゆるものが同時多発的に関連しており、ケースバイケースでそれを探っていかないとならないのが現状だ。
貧困も原因の1つではあるが、イスラム国やアルカイダなどのテロ組織の幹部たちは高学歴で頭がよく、裕福な家庭出身の者が非常に多い。
しかし、近年のテロ情勢を分析してくると、テロリストたち(幹部というより実行犯や末端兵士)の背景には、不安定な雇用や失業による不満や怒りが深く影響しているように思う。
テロリストの中には、本当にお金がなく貧困で、魅力的な給与をくれるテロ組織に加わってしまった者(アフリカの国々など貧困が深刻な国)もいれば、「大学も出たのになぜ俺の待遇は低いんだ?」、「同じ学歴なのになぜ友人は裕福で俺はそれじゃないんだ」のような不満・怒り(社会への不満、社会的孤独感など)を持ち始め、テロの世界にのめり込んでしまう若者(社会やインフラは平均以上に発達しているが格差や差別が激しい国)も多い。
世界中に広まる若者の抗議デモ・暴動
また、テロとまではいかなくても、労働環境はデモ・暴動と密接に関係している。たとえば、今年早々に緊張が高まったイランでは、去年11月中旬以降、政府によるガソリン価格の50%値上げ決定に端を発し、各地で若者らによる反政府デモが激化している。
抗議デモは首都テヘランを中心に各地に広がり、デモ隊は各地のガソリンスタンドや銀行などを次々と襲撃。その一部は治安当局と激しく衝突するなどし、これまでの死者は300人以上、1000人以上が逮捕されたともいわれる。
南米チリでも去年10月下旬以降、政府による地下鉄賃上げ決定に反対する若者らの抗議デモが、首都サンティアゴをはじめ各地に拡大した。若者の一部は略奪行為や建物を放火し、治安当局と衝突するなどしている。
1990年の民政復帰以来、最悪の暴動になっており、去年11月下旬時点で、死者は少なくとも26人、負傷者は1万3500人以上に上ったという。
こういったデモや暴動は、イランやチリだけでなく、去年も香港やフランス、イラクやレバノンなど各地で発生し、現在も続いている。
そして、今後アジアやアフリカの発展途上国を中心に人口が激増するなか、現地ではそれに見合うだけの雇用が生まれるのだろうか。実際、それは極めて困難で、地球温暖化や資源獲得競争も影響し、労働環境の悪化がデモや暴動、テロをさらに誘発してしまう恐れがある。
労働環境の悪化が安全保障上の脅威に
現在、トランプ政権に象徴されるように、世界では国際協調主義や大国のリーダーシップというものは陰を薄め、自国第一主義が色濃くなっている。COP21における米中の対応もそうだろうし、労働環境の悪化というものが安全保障上の脅威になってしまうことが懸念される。
今後、ILOの報告書はどんな内容になっていくのだろうか。労働環境悪化によるデモや暴動、テロは、現地に滞在する駐在員や出張者にとっても身近なリスクである。今後いっそう、労働環境と安全との関係性を注視していく必要があろう。
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