政府の年金改革案は小手先。最大の改革は「専業主婦の優遇廃止」
LIMO / 2020年2月2日 20時20分
政府の年金改革案は小手先。最大の改革は「専業主婦の優遇廃止」
サラリーマン(公務員等を含み、男女を問わない、以下同様)の配偶者である専業主婦(専業主夫を含む、以下同様)は年金保険料を払わなくて良い、という制度を廃止するべきだ、と久留米大学商学部の塚崎公義教授は考えています。
現在の改革案は小手先の変更
日本の公的年金は、現役世代が支払った年金保険料を高齢者が分け合う「賦課方式」が基本です。昔は個々の家で子が老親を養ったものですが、それを「子の世代が高齢者世代を養う」という制度に変更したのが公的年金だと言えるでしょう。
この制度は、インフレに強いという長所があります。インフレになると現役世代の所得が増えるので、「保険料を値上げして高齢者に支払う年金を増額する」ことができるからです。
しかし一方で、少子高齢化には弱いのです。現役世代の人数が減り、高齢者の人数が増えれば、高齢者一人当たりの年金額は減らざるを得ませんから。
そこで、高齢者への年金支払い額を少しでも増やそうと、政府は改革案を検討しているようですが、小手先の改革案で物足りません。
たとえば「中小企業で働くパート労働者も厚生年金に加入させて厚生年金保険料を払わせよう」といった改革が検討されているわけですが、その効果は一時的です。中小企業で働くパートが高齢者になった時に厚生年金を受け取るようになるわけですから、結局年金財政の改善は一時的なものに過ぎないわけです。
小手先ではない対策は、二つ考えられます。第一は、高齢者の定義を変えることです。70歳以上を高齢者と定義して、「70歳までは現役だから年金保険料を支払い、70歳から年金を受け取る」という制度にすれば良いのです。
これについては別の機会に論じるとして、本稿では第二の対策、すなわちサラリーマンの専業主婦の優遇をやめる、ということを考えましょう。
サラリーマンの専業主婦は年金保険料を払わない
サラリーマンは、自分の分の厚生年金保険料を給料から天引きされています。それで自分の分の国民年金保険料も払ったことになっているわけです。そこまでは問題ないのですが、なぜかサラリーマンの専業主婦の国民年金保険料も払ったことになっているのです。
これは、公平ではありません。まず、自営業者の専業主婦は国民年金保険料を支払う義務があるわけで、それとの比較で考えれば不公平です。共働きのサラリーマン夫婦や、独身のサラリーマンと比べても、不公平です。
独身サラリーマンと独身失業者は、いずれも年金保険料を払う義務があります。払えるかどうかは別問題ですが(笑)。しかし、その二人が結婚すると、失業者は義務を免除されるのです。生活的には楽になるはずなのに。
サラリーマンと専業主婦の夫婦がいて、ある日サラリーマンが失業したとします。すると専業主婦は「サラリーマンの専業主婦」ではなくなるので、国民年金保険料を支払う義務が生じます。生活的には苦しくなるはずなのに。
サラリーマンの専業主婦も保険料を払うことにすれば、こうした不公平は解消されます。もちろん、一気には難しいでしょうが、まずは少額の支払いを命じ、少しずつでも専業主婦の払う保険料を増やしていくことが重要でしょう。
サラリーマンの専業主婦は働く量を制限している
サラリーマンの専業主婦は、一定以上働くと年金法上の専業主婦と見なされなくなるので、境界線を越えて働くことがないように、働く量を制限している場合が多いと言われています。「130万円の壁」などと言われるものです。
これは、国民経済的に大いなる無駄です。労働力不足なので雇いたい会社があり、働きたい専業主婦がいるのに、それでも働きたいのを我慢しているわけですから。
サラリーマンの専業主婦も保険料を払うことにすれば、彼らは「130万円の壁」などを気にすることなく、働きたいだけ働くようになるでしょう。
もちろん、一度には難しいでしょうから、とりあえず「130万円を越えたら一気に負担が増える」という制度を「100万円から160万円まで、年収が増えると少しずつ保険料支払い額が増える」といった制度に変更しましょう。
そうすれば、働く時間を制限する人はいなくなるでしょう。その上で、徐々に支払い額を増やしていく、といった方法が有効だと思います。
莫大な収入で年金財政が一気に好転する
国民年金の加入者は6746万人で、そのうちサラリーマンの専業主婦は847万人です(平成31年3月末現在) 。つまり、加入者の1割以上が理由もなく保険料を免除されているわけです。
彼等が保険料を払うようになれば、年金財政は劇的に改善するはずです。もちろん、激変緩和措置で少しずつ、ということになるのでしょうが。
本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。
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