日本人は緊急時に個人で行動できない? 新型コロナウイルス拡大で考える危機管理
LIMO / 2020年2月4日 20時40分
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日本人は緊急時に個人で行動できない? 新型コロナウイルス拡大で考える危機管理
中国の湖北省武漢を中心に世界中で新型コロナウイルスによる肺炎が広まっています。
1月23日、新型肺炎が発生した武漢では空港・駅などが封鎖されました。その日、外務省の海外安全情報では武漢を含む湖北省全体の危険度レベルが2(不要不急の渡航禁止)となり、翌日にはレベル3(渡航中止勧告)となりました。
今回、このような緊急時に個人はどう判断し行動すべきか、つくづく考えさせられました。たとえ日本企業の駐在員という組織人であっても、時には個人の迅速な判断・行動も必要かもしれないと感じています。
武漢に日本人駐在員を置く日系企業の対応にばらつき
ジェトロによると、武漢には自動車関連などを中心に日系企業約160社が進出し、社員と家族、出張者を合わせて約500人〜600人の日本人が駐在しています。
A社は1月28日、武漢に駐在している日本人とその家族、出張者合わせて約30人を帰国させる決定をしました。
一方、B社は28日時点で情報収集中であり帰国させるかどうか決めていないそうです。C社は12人の日本人を駐在させていますが、現地社員に店舗運営を任せられないということで、28日時点で大半が武漢に残って業務を続ける方針だとのことでした。
多くのサラリーマン駐在員(とその家族)は日本本社の決定に従うほかないのでしょう。結局、封鎖された武漢に多くが取り残されました。ちなみに、北欧スウェーデンのIKEA社は、1月30日から中国国内にある全店舗を一時閉鎖しています。
なお、日本企業については、2月1日付け日経新聞で春節休暇を終えて中国の赴任地へ戻る駐在員とその家族の不安の声が報じられていました(『中国渡航に「不安だ」 春節の休暇終え、赴任先へ(https://www.nikkei.com/article/DGXMZO55152100R00C20A2CZ8000/)』)。
この状況で社員が現地へ戻るのを放っておくということは、社員に対する安全配慮義務はどうなっているのかと若干疑問も湧いてきます。今後、専門家に相談して危機管理・対応マニュアルを改善しておく必要があるかもしれません。
危機の予兆があれば個人で判断・行動すべきか
ビジネスで日本人はリスクを避ける傾向が強いなどと言われることがありますが、長年、アジアで生活・仕事をしてきた経験上、華人・印僑などと比べ、日本人はリスクから逃げるという行動がとれない印象があります。
環球時報などによれば、武漢市長は1月26日の記者会見で春節前(封鎖前)に500万人が市外へ出たことを明かしました。ここには出稼ぎ労働者などの流動人口が含まれると見られますが、それにしても武漢市の人口が1,100万人ですから、かなり多くの方々がこの短期間に脱出したことになります。
一方、武漢の空港が封鎖される前に脱出した日本人は少ないようで、600人超が武漢に取り残されました。所属会社の決定というのは、目先の経済損失を恐れ、あるいは、外務省の海外安全情報などのお墨付きがなければできない等で遅れがちですが、緊急時に日本人はなぜ個人で判断できないのでしょうか。今回は政府が1月29日からチャーター機を飛ばしてくれたので助かりましたが…。
やはり日本人は危機対応には弱いようです。基本的には、個々人が現地情報を収集・分析し、迅速に判断・行動するべきでしょう。たとえ組織人であっても、「リスク」が高まっているという段階から、「危機」の兆しを察知したら、所属組織や政府に頼らずとも本能的に判断・行動すべき時もあり得るでしょう。
リスク回避傾向が強い日本人がなぜ逃げない?
巷で日本人ビジネスマンはリスク回避傾向が強いと言われているのに、なぜ危機の予兆があっても逃げようとしないのでしょうか。
理由の一つは、リスク(事象が発生することによる予想被害 x 発生確率)に対する過小評価です。特に、その発生確率を低いとみなしてしまうことがあります。認知バイアスの一種である「楽観主義バイアス」(悪いことは自分には起きないと考える傾向)が強いのかもしれません。
事象が発生することによる予想被害については、情報収集が不足して現状認識ができないという可能性があります。たとえば、重要な現地情報をくれる人的ネットワークを日頃から構築していないということです。現地語ができるわけではないのなら、なおさら必要なものであるのに、です。
その他、「現状維持バイアス」と言われる、何も問題が出なければとりあえず現状維持を望む傾向、単独行動を許さない日本的な群衆心理、日本本社からの指示をひたすら待って責任転嫁したいという心理などもあるのかもしれません。
また、仮に目の前の危機を正確に認知できたとしても、日頃から危機を想定していない、あるいは組織の場合はマニュアル化していないために、必要な行動を起こすまでに時間がかかるといった面もあるかもしれません。
ミャンマー出張時の地震体験を通じて
私は東京拠点で頻繁に海外出張している時期に、SARS(重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)のために海外出張できないで困ったことはありますが、幸いにも海外滞在中に危機に遭ったことはありません。
ただ、以前、ミャンマー出張中に地震にあったことがあります。仕事でヤンゴンからマンダレーへ向かう国内便に搭乗していたときに、マンダレーの北方を発信源とするマグニチュード(M)6.8の地震が発生し、13人が死亡、40人が病院に搬送されました。
マンダレーの宿泊先はミニホテルだったのですが、チェックイン後、2階の部屋の中で強い揺れを感じ、慌てて外に飛び出しました。ホテル玄関前の駐車場には、多くの宿泊者が飛び出していました。翌日、最も被害が大きかった震源地サガインへ車で移動して企業訪問を予定していました。
日本人とミャンマー人で計10人ほどのプロジェクトチームでしたが、プロジェクトリーダーは大丈夫だと言い、私は大丈夫じゃないと言い、チームが2つに分かれました。被害状況(サガインの道路が破断されている等)や余震見込みに関する情報が乏しかったため、どちらの見解にも根拠はありませんでした。
リーダーらは予定通り、予約済のミニホテルに泊まり、翌日、サガインへ車で移動しました。一方、私と私の意見に賛成した2人は、急遽、地震で倒壊しなさそうなマンダレーの最高級ホテルに移り、クライアントに連絡し、翌日には空路でヤンゴンへ戻りました。
万が一、プロジェクトチームのメンバーが地震による二次災害などに見舞われて業務全体が遂行できなくなれば、クライアントにかえって大きな迷惑をかけてしまうと思ったからです。
結果的に危機的状況にはならず、メンバー全員、事なきを得たのですが、後日、即座に震源地から逃げた私を含む3人を非難するような人はいませんでした。
ミャンマーでは日本のように詳細な地震・被害情報はありませんし、田舎のホテルで英語も通じなかったので、現状とリスクを正確に把握することは難しい状況でした。
状況がわからない時に、楽観シナリオを想定するか、悲観シナリオを想定するか。私自身は、間違いなく悲観シナリオを想定し、結果的にその悲観シナリオが発生しなかったら、良かったなと安堵します。発生確率が低いとしても、万一、発生したときの損害が大きいと感じれば、そのリスクを徹底的に避けるべきだと考えます。
おわりに
さて、今回の敵は目に見えない新型コロナウイルスですが、皆さんが武漢の駐在員だったとしたら初動対応はどうされたでしょうか。
危機感の薄い日本本社の決定を待ったか、いつになるかわからない政府チャーター機を待ったか(今回は早かったですが)、あるいは、最悪シナリオに備えて空港封鎖前に国外脱出したか。人間は、危機の兆しがある時にこそ、判断や行動が分かれるものだとつくづく思う次第です。
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