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米国制裁でむしろ強靭になりつつあるファーウェイ

LIMO / 2020年2月3日 20時20分

米国制裁でむしろ強靭になりつつあるファーウェイ

米国制裁でむしろ強靭になりつつあるファーウェイ

怒涛の勢いで進む内製化と国産化、サーバーCPUも製品化

本記事の3つのポイント

米中貿易摩擦で窮地に立たされるかと思われたファーウェイだが、それをバネにビジネスを拡大させている

スマホでは中国市場でシェアが拡大。ファーウェイの国内シェアは1年前は25%くらいだったが、19年は40%まで急拡大

調達部品に関しても、中国製部品への切り替えを加速。今後はスマホだけでなく、サーバー用部品に関しても、内製および中国製部品への切り替えを進める

 

 米国政府はファーウェイ(華為技術、広東省深セン市)を制裁対象にして窮地に追い込むはずだったが、ファーウェイは米国からの圧力をバネに、かえってビジネスを拡大している。2019年のスマートフォンの出荷台数は前年比20%増(ファーウェイの業績予想をもとに推定)に拡大。サーバー用のCPUやエッジサーバー用のAIチップなども製品化し、次世代に向けた新事業の布石を着々と打っている。

 米国から輸入している半導体が将来的に調達できなくなるかもしれないリスクに備え、ファーウェイは半導体の内製化を進めると同時に、委託生産先を中国企業に切り替える動きを加速している。米国のファーウェイ制裁は、明らかにファーウェイや中国の半導体開発をかえって加速してしまった。

ファーウェイが19年秋に発売したフラッグシップスマホ「Mate30」

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「いかなる圧力にも屈しない」

 米中貿易戦争が激しさを増した2019年5月、米国政府は米国製部品が商品価値の25%を超えるハイテク製品をファーウェイが調達できないようにする制裁を課し、スマホ業界に激震が走った。実はこの約1年前にも似たような事件が起きていた。ファーウェイと同じく5G通信の基地局設備やスマホを主力事業とするZTE(中興通訊、深セン市)が同様の制裁を受けていたのだ。ZTEはこの時、8.9億ドル(約980億円)の罰金を支払って規制を解除してもらったが、この特別損失により大赤字に転落した。ファーウェイはこの窮地を横目で見ていたが、自分たちは妥協せず、あえて米国の圧力に徹底抗戦する道を選んだ。

 このファーウェイ・ショックの後、ファーウェイのレン・ジェンフェイ(任正非)会長は「今年(19年)は300億ドルの損失が出るだろう」との見通しを語った。証券アナリストたちは「ファーウェイは部品調達が十分にできなくなり、何よりもアンドロイドOSやグーグルアプリが使えなくなるので、ファーウェイのスマホ出荷台数は前年割れする」との厳しい予測を次々に発表した。

 ではその後、「最終的にファーウェイの19年のビジネスはどうなったのだろうか?」――この問いに対して結論から先に言うと、「スマホの出荷台数は約2.4億台(前年比約20%増)、売上高は8500億元(約12.2兆円、同18%増)で過去最高を記録した」(中国の証券アナリスト)。これまでのファーウェイの巡航速度を基準にすると、米国の制裁がなければ、スマホの出荷台数も売上高も40%くらい成長できたかもしれない。20年の新年祝辞に登場した輪番董事長の徐直軍CEOは社員に向けて「19年はこれまでにない1年だった」と振り返った。ファーウェイの社員たちは一致団結してこの難局を乗り越えた。

 スマホの出荷台数が前年割れしなかったのには、大きく3つの理由があるだろう。1つは、米国が制裁を準備しているとの情報をいち早く察知し、規制開始前から電子部品を先行調達していたからだ。「制裁の1カ月前に1年分の部品を持ってきてほしいと言われていた」(ファーウェイ向け部材ベンダー企業の営業担当)という。

 2つ目は、中国市場でのシェア拡大だ。ファーウェイの国内シェアは1年前は25%くらいだったが、19年は40%まで急拡大した。OPPOやvivo、シャオミーなどのシェアを少しずつ奪い、これらチャイナトップ4以外のシェアを大きく切り崩した。

 3つ目は、やはりスマホ自体の性能が優れているからだろう。「カメラの性能が群を抜いてよく、今度スマホを買い換える時はファーウェイにしようと決めていた」(30代の上海人女性)などと答える中国人ユーザーが多かった。また、中国はもともとグーグル検索やYouTube、フェイスブックなどのネットサービスが使えないので、中国人ユーザーは米国規制による不便を感じる人がほとんどいなかった。

ファーウェイの売上高とスマホ出荷台数

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拡大する(/mwimgs/3/8/-/img_38ec316934a82afccd7ead84d2cbddff298449.jpg)

スマホ用部品を中国製に切り替え

 もし半導体の輸入がストップしたら、ファーウェイはスマホを本当に製造できなくなるのだろうか? 事実上、中国企業に限らず、世界のほとんどのスマホメーカーがお手上げ状態になってしまう。スマホの心臓部ともいわれるアプリケーションプロセッサー(AP)は、米クアルコムが世界最大シェアを握っているからだ。

 しかし、ファーウェイはグループ子会社のハイシリコン(海思半導体、深セン市)でAPを内製している。ただ、ハイシリコンはファーウェイとグループ内の別ブランドのオナー(HONOR、栄耀)のスマホの全量分はAPを製造できず、以前はクアルコムにも依存していた。だが19年は内製比率を高め、ファーウェイのスマホにおけるハイシリコン製APのシェアは過半を超えるまでに成長。残りは台湾のメディアテック(MTK)から調達し、APでは米国依存から脱却している。

 メモリー(DRAMとNANDフラッシュ)は現状、一部スマホ機種で米マイクロン製を使っているが、韓国製(サムスンとSKハイニックス)のみにしてしまうことも可能だ。19年後半から中国でも国産メモリーの製造がスタートしたので、安定供給にはまだ時間がかかるが、将来的に中国製に置き換える可能性も考えられる。

 現時点で米国製半導体に依存しているのは、SynapticsのタッチセンサーやブロードコムのWi-Fi IC、QorvoやSkyworksのRFアンプくらいだ。この分野もファーウェイは内製化の取り組みを強化している。タッチセンサーは中国のグディクス(匯頂科技、深セン市)に置き換えが可能で、すでに代替が進んでいる。Wi-Fi ICやRFアンプも自社内で開発に着手している。近い将来、これらの製品も内製化してしまうだろう。基本的にスマホ用ICは、完全自給か中国製でカバーできるめどがついている。

 また、その他の電子部品を見ても、ほとんどが中国製デバイスで事足りるようになってきた。ファーウェイはスマホのカメラ機能を重視しているので、フラッグシップ級スマホのCMOSイメージセンサーにはソニー製を採用しているが、ミドルクラス以下の機種では中国製を採用している。ディスプレーパネルは液晶パネルなら中国製で十分調達できるし、有機ELパネルも19年からBOE(京東方科技、北京市)の成都工場(B7)が供給を始めた。

 中国製に置き換えできない電子部品は、RFフィルターやカメラの機構部品のアクチュエーターなどに限定される(この分野は日本企業が強い)。その他、指紋センサーやアンテナ、マイク、リチウムイオン電池なども、ほとんどがオール・チャイナ連合で揃えることができる。中国はいつのまにかスマホ用の電子部品でも実力をつけている。

Mate20 Proの電子部品の構成

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スマホの次はサーバー

 ファーウェイの売上高は、およそ5割がスマホ、4割が基地局設備、1割が法人向けソリューションで構成される。今後はバランスの取れた事業拡大を目指し、法人向けソリューション事業を発展させていこうと考えている。このうちの基幹製品がサーバーだ。

 ファーウェイは中国のサーバー市場の15%、世界市場の6%のシェアを持つ。中国では3大通信キャリアがデータセンター建設を加速していて、中国のサーバー市場は210億ドル(約2.3兆円)のマーケット規模がある。今のところサーバーは年間350万台前後が出荷されているが、23年には500万〜600万台の市場に拡大が予測される。

 そして、ファーウェイはクラウドサーバー用のハイパフォーマンスCPUとエッジサーバー用のAIチップをすでに製品化した。19年に発表したサーバー用CPUの「クンポン(Kunpeng、鯤鵬)920」は、英アームの「v8.2アーキテクチャー」を採用して7nmで設計し、TSMCに生産委託している。CPUの処理速度は2.6GHz。AIチップの「アセンド(Ascend、昇騰)」は世界初のフルスタック、オールシナリオのエッジコンピューティング向けAIチップで、12nmで設計されている。ファーウェイはこれらのチップを内蔵したサーバーも売り出している。

 ファーウェイは19年12月、深セン市で「鯤鵬産業イノベーションセンター」の運用を開始した。クンポンを普及させるため、利用者にテクニカルサポートやクラウドリソースなどを提供し、システム全体の改善を図る。クンポン搭載のサーバーシステムはこれまでに中国の行政機関や金融、教育、医療などの産業分野で導入実績がある。深セン市に続き、天津市も「鯤鵬産業イノベーションセンター」の建設を決めた。

「Kunpeng」を搭載したファーウェイ のサーバー「TaiShan」

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ファーウェイの内製化は中国の半導体国産化を意味する

 米国は禁輸措置によりファーウェイを「兵糧攻め」のような状態にしようとしたが、今のところファーウェイを追い込むまでには至っていない。むしろ、ファーウェイは「脱アメリカ」戦略を掲げるようになり、以前よりも技術力を向上している。

 グーグル製のアンドロイドOSに替わる「ハーモニー(鴻蒙)OS」をすでに自社開発し、ファーウェイ初のスマートテレビ(19年10月発売)に搭載した。まずはIoT機器から「ハーモニーOS」を普及させ、次のステップでスマホでも採用を始めるだろう。

 また、ハイシリコンが設計する半導体の生産委託先も次々に中国メーカーに切り替える方針だ。「キリン(Kirin、麒麟)」シリーズの最新APは先端プロセスを採用しているので、中国ファンドリーでは生産できずTSMCに委託せざるを得ないが、組立・検査は中国3大OSAT(長電科技、通富微電子、華天科技)に切り替えを急いでいる。19年末にはこのファーウェイ特需により、中国OSATが製造装置を大量に発注した。

 スマホメーカーとしてのファーウェイは電子部品を大量に購入する立場にあり、ファブレスとしてのハイシリコンは大量の半導体を生産委託する立場にあるため、ファーウェイが内製化を強化することは、そのまま中国の半導体国産化を加速することに直結する。「やられたら抵抗する」というのが世の常で、ファーウェイと中国は半導体の国産化を必ず成し遂げるという決意をより強固なものにしている。

電子デバイス産業新聞 上海支局長 黒政典善

まとめにかえて

 記事にもあるとおり、サプライチェーン分野におけるファーウェイの実力はアップルに勝るとも劣らない面があります。心臓部を担うプロセッサーに関しては自社設計で、最先端プロセスを活用しており、サーバー分野でのポテンシャルも非常に高いものがあります。部品サプライヤーから見れば、すでに台数ベースではアップルを上回る規模となっており、今後もその支配力は高まっていくことでしょう。

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