日本の高度成長終焉から考える、中国経済が「低成長」になる理由
LIMO / 2020年2月9日 20時20分
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日本の高度成長終焉から考える、中国経済が「低成長」になる理由
昨年の中国の経済成長率が6.1%と発表され、「低成長」と言われています。また、今年は新型肺炎などの影響で6%を大きく割り込みそうだと言われて話題になっています。日本より遥かに高い成長率なのに、なぜでしょうか。今回は、その理由を久留米大学商学部の塚崎公義教授が解説します。
日本は1%成長でも労働力不足なのに
バブル崩壊後の長期低迷期、日本はゼロ成長で失業に悩んでいました。「6%成長できたら失業問題が解決するのに」と思っていましたが、需要が不足していたので、そのような高い成長率は望めませんでした。
今の日本は一転して、1%程度の経済成長率なのに労働力不足です。仮に需要が6%増えたとして、6%成長しようと思っても、労働力不足が制約要因となって到底不可能でしょう。
経済成長は、需要と供給がバランスよく伸びないと、低い方に制約されてしまうわけですね。
ちなみに、生産可能量の伸び(=供給可能量の伸び)は、人口増加率や技術進歩率などで概ね決まるので、比較的安定しています。これを「潜在成長率」と呼びます。
需要が潜在成長率と同じだけ伸びれば、バランスの良い成長となります。需要がそれ以上に伸びると労働力不足やインフレになり、需要の伸びがそれ以下だと不況になります。
バブル崩壊後の長期低迷期に失業が問題だったのは、需要の伸びが潜在成長率よりも低かったからで、今は労働力不足が問題となっているのは、需要が潜在成長率以上に伸びているから、と考えて良いでしょう。
日本にも高度成長期があった
日本にも、高度成長期がありました。毎年10%近い経済成長を続けていたわけです。どうしてそんなことが可能だったのでしょうか。
それは、技術が進歩していたため、潜在成長率が高かったからです。別に新しい発明発見があったということではなく、使われている技術が新しいものになった、ということです。米国で使われているものを日本でも使うようになった、というわけですね。
農村では、田畑を手で耕していましたが、トラクターが導入されたので、農家一人当たりの生産量が飛躍的に増えました。農家で人が余ったので、余った人々が都会に働きに出ました。
都会では、針と糸で服を縫っていましたが、ミシンが導入されたので、労働者一人当たりの洋服生産量が飛躍的に増加しました。こうして日本経済の生産力が急激に増えていったのです。
一方の需要は、無限にありました。食べ物も着るものも不足していたからです。つまり、需要が無限にあるところに供給力がついたので、経済が高成長した、というわけですね。
ちなみに、当初は洋服を米国に輸出してドルを稼ぎ、それを使ってミシンやトラクターを輸入したわけですが、次第に鉄鉱石を輸入して鉄を作り、ミシンやトラクターを国内で作るようになっていった、というわけです。
少し前の中国も同じでした。農村にトラクターが導入され、洋服工場にミシンが導入され、生産量が飛躍的に伸びたのです。トラクターやミシンを国内で生産できるようになっていった、という点も日本と同様です。
技術進歩が難しくなった
問題は、一度トラクターとミシンが行き渡ってしまうと、技術進歩が難しくなる、ということです。古いトラクター等を最新式の物に買い替えたとしても、一人当たり生産量の増加はそれほど大きくないでしょう。
トラクター以外でも米国で使われている機械類が一通り日本中に行き渡ったことで、供給面の高度成長は難しくなりました。一方の需要も、どうしても欲しい物が一通り揃った段階で、無限に伸びるわけではなくなりました。
供給力も需要も伸び率が低下して来たことで、経済が高度成長期から安定成長期に移行したのです。たまたま石油ショックがあったことで移行が劇的になりましたが、石油ショックがなくても移行していたはずなのです。
今の中国は、日本が高度成長期から安定成長期に移行した頃の経済状態と似ているので、供給力の伸びも需要の伸びも低下しつつあり、従って経済成長率が低下していること自体は自然なことなのです。
問題は、昨年の経済成長率の落ち込みが、それ以前と比べて急だったので、米中貿易戦争等々に起因する需要不足による不況なのではないか、と思われていることです。供給力の伸び率低下は毎年緩やかに進む一方で、需要の伸び方は景気に大きく左右されるため、成長率が大きく変化するのは景気の変化による場合が多いからです。
今年については、工場の閉鎖等々によって生産力が制約されると同時に、行楽客などの減少で需要も落ち込み、ダブルパンチが懸念されていますが、今後のことを予想する段階ではなさそうなので、触れずに置きましょう。
日本はその後も成長率の低下が続いた
日本経済の潜在成長率は、その後も低下を続けました。その理由は3つあります。安定成長期から低成長期への移行も、たまたまバブル崩壊で劇的なものとなりましたし、バブル崩壊後の長期低迷期は需要が低迷していて潜在成長率の低下が見えにくかったわけですが、バブルが崩壊しなくても、移行していたはずです。
第一は従来の延長線上の話で、米国の技術を導入すれば良い時代が去り、新しい発明発見がなければ技術が進歩しない時代となったことです。
第二は産業構造の変化です。ペティ=クラークの法則により、産業構造が製造業からサービス業に移ってきましたが、サービス業の方が製造業より労働集約的で労働生産性が低いため、この移行が成長率を押し下げているのです。
美しくなりたいと考える女性は、当初は素敵な洋服を買いますが、洋服が揃うと美容院に通うようになります。美容院は労働集約的なので、経済成長率が下がる、というわけですね。
第三は、少子高齢化です。現役世代の人口が減少して働ける人が減れば、潜在成長率は低下しますから。少子高齢化で増えているのは高齢者で、彼らの需要は医療や介護といった労働集約的なものが多い、ということも潜在成長率を押し下げる要因となっているようです。
こうして日本経済の潜在成長率は低下を続けたので、中国よりもはるかに低い成長率でも労働力不足を招くようになっているわけですね。
中国も、これから上記の3つを経験して潜在成長率が低下して行くでしょうが、その頃には日本の潜在成長率がさらに下がっているかもしれませんね。なんとか技術進歩等々で低下を食い止めてほしいと願ってはいますが。
本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。
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