ニューヨークに増える「隠れ富裕層」その実態とは
LIMO / 2020年2月13日 19時45分
![ニューヨークに増える「隠れ富裕層」その実態とは](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/toushin1/toushin1_15935_0-small.jpg)
ニューヨークに増える「隠れ富裕層」その実態とは
「Working Rich」の意識と「Inconspicuous Consumption (目立たぬ消費)」から読み解く
ニューヨーク・タイムズに寄稿した「What the Rich Won’t Tell You」(https://www.nytimes.com/2017/09/08/opinion/sunday/what-the-rich-wont-tell-you.html)(※1)というオピニオン記事の中でThe New School の社会学教授レイチェル・シャーマン博士は、ニューヨークの富裕層達には富を誇示したがらなかったり、自分が「リッチ」であるということを認めようとしなかったりする傾向が顕著だと述べています。
富裕層の価値観や行動はどのように、またなぜ、変化しているのでしょうか。その実態を探ります。
プライスタグを隠す富裕層
シャーマン博士は、ニューヨーク在住の子持ち夫婦約50人にインタビューを実施しました。彼/彼女らのほとんどは大卒以上で、金融関係の仕事をしている(またはしていた)か、数百万ドル(数億円)の財産相続があるという、富裕層の中でもトップ数パーセントに入る人達です。
その内の1人、世帯年収約$250,000(約2,700万円)に数百万ドル(数億円)の相続財産があるという女性は、$6のパンの値札を家に持ち帰る前に取り外すといいます。
また、ニューヨーク在住の富裕層向け専門のインテリアデザイナーは、富裕層顧客の模様替えでは家具等を配達する際に値段がどこにも表示されてないか必ず確認する、と話したそうです。ベビーシッターや家政婦に値段を見られたくないということです。
400万ドル(約4.5億円)以上のマンハッタンのペントハウスに住む夫婦は、郵便住所にPH(ペントハウス)とは明示せず、他と同じようフロワ数で住所表示するように変更したといいます。
彼/彼女らのほとんどが、自分達の家計状況やライフスタイルを話したり、誇示したりすることに消極的だとのこと。自分達が富裕層とみられることに抵抗を持ち、あえて「普通」と位置づける人も多いといいます。
もちろん、富を隠しきれないような超富裕層や派手好きな富裕層も多く存在します。しかし、1世紀以上前に経済学者のソースティン・ヴェブレン博士が『The Theory of the Leisure Class(有閑階級の理論)』という本の中で「Conspicuous Consumption(誇示的消費)」と表現したような、富や社会的地位を見せびらかす為に物質的消費をするアメリカ富裕層独特の行動には変化が見られるのです。
「Working Rich」という富裕層
富裕層と見られたくない理由には、道徳心や品格を疑われるのではないかという恐れもあるようです。2008年のリーマンショック後、2011年の「ウォール街占拠運動」で格差拡大への不満が爆発して以来、富裕層を中傷する声があからさまになっていることから、道徳心に敏感なエリートが増えています。
シャーマン博士はアメリカでは第二次世界大戦後、富裕層の構成が徐々に多様化していると指摘しています。20世紀の富裕層は準貴族的なWASP(白人・アングロサクソン・プロテスタント)が占めていました。しかし、教育システムが平等になったことから、学位を取得して高給な職につけるチャンスが誰にでも与えられ、実力主義になったからだとしています。
ちなみに、このような実力主義の社会で、価値の高い人的資本を活かし一生懸命働いて財を成す人々を「Working Rich」といいます。そして、彼/彼女らが富裕層のトップを占める割合は年々増えています。
彼/彼女らは、仕事、家事、子育てに忙しく振り回されるという点では「ミドルクラス」と同様です。そして、特権の上に胡坐をかき、社会的地位や物質的な富を見せびらかす強欲で非人道的な資本家や、苦労知らずで余暇を持て余す資産家のような、常識に欠けた富裕層と同様にみられることに抵抗をもっているようです。
富を公にひけらかすことは、下品で洗練されていないというイメージも広まっています。
「Inconspicuous Consumption(目立たぬ消費)」という贅沢
このような背景から、Working Richや道徳心に敏感なエリート達は「Inconspicuous Consumption (目立たぬ消費)」という、注目を浴びにくい贅沢や知的な活動にお金をかけているようです。
米The Atlantic誌では、彼/彼女らの潤沢な消費資金は他人を感心させるように誰にでも目につくモノやサービスに消費せず、自己や家族の内面的な成長や幸福感を満たすために使っているようだと述べています(※2)。
高級車を乗り回すというよりも、家の中を快適に過ごせるようリノベーションしたり、フィットネスパーソナルコーチを雇ったり、良質な睡眠のために高級ベッドマットを購入するなどを好むとのこと。
また、知識層と交流するような排他的で高価なミーティングやセミナーに参加したり、クラブに入会したり、知的好奇心を満たす自己投資や教養費には糸目をつけないということです。
一方、英The Economistは、シェアリングサービスなどによって贅沢品への敷居が低くなった昨今では、あえて無駄な高級品を誇示せずに、簡単に真似できない多額寄付で社会的利益を実証することこそ、成功や富、品格を誇示する上で、最も目立つ方法となっているのかもしれないと述べています(※3)。
富裕層は格差社会の中で複雑な立場にいるようです。見せびらかさず、勤勉で、道徳心の強い富裕層であることを証明しなければならないのでしょう。しかし、こうして富裕層であることを目立たないようにすることは、格差問題を解決しているのではなく、「格差社会自体を隠すことで問題を悪化させている」という批判もあるようです。
それについてはまた別の機会で取り上げたいと思います。
【参考】
(※1)“What the Rich Won’t Tell You”(https://www.nytimes.com/2017/09/08/opinion/sunday/what-the-rich-wont-tell-you.html)The New York Times
(※2)“Inconspicuous Consumption”(https://www.theatlantic.com/magazine/archive/2008/07/inconspicuous-consumption/306845/)The Atlantic
(※3)“Inconspicuous consumption”The Economist
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