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ワークマン、業績絶好調の背景とそのワケとは

LIMO / 2020年2月11日 19時0分

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ワークマン、業績絶好調の背景とそのワケとは

決算から業績と株価までを読み解く

ネットやマスコミでの露出が増え、「ワークマン女子」といったワードができあがるほどのブームを巻き起こしているワークマン。店舗への客足が急増することで業績も上々だ。今回はそんなワークマンの強みを解説するほか、投資家目線で見た懸念についても紹介する。

1月度既存店"21%"増

ワークマンは2月3日、1月度の月次業績速報を発表した。全店売上高は27.5%増、既存店売上高は21.1%増。小売業では多くの企業が月次業績を発表しているが、既存店で「21.1%増」という数字はなかなかお目にかかれない高水準だ。

振り返ってみると今期の月次はいずれの月も好調で、既存店で一番高い月は8月度の54.7%増。一番低い月の9月度でも16.1%増であり、今回発表された1月度までを含めた累計では26.3%増となっている。

売れ行きが好調な理由は後述するとして、こういった販売動向を背景にワークマンの業績も急拡大している。2018年3月期までは年間の売上高成長率1桁%台が長らく続いていたものの、2019年3月期には一気に19.4%まで急上昇。

2月4日に2020年3月期Q3累計決算を発表しており、2020年3月期の売上高は会社予想で905億円の見込みとなっている。それに伴って営業利益も近年強いペースで伸びており、また、営業利益率も上昇傾向にあることで収益性も改善している。

オシャレ・高機能・低価格が若者にヒット 原価率は驚異の"60%超え"

こういった業績拡大には、ワークマン商品のウリの強さと知名度の拡大が背景にある。ワークマンは1980年、株式会社いせやの一部門として「職人の店ワークマン」1号店をオープンしてから事業が始まる。

以降はそのコンセプト通り「働く男のための店」として、工場や建設現場向けの作業服や安全靴、手袋などを製造、販売してきた。その後、防寒服やレインウエア、アウトドアやスポーツ用のカジュアル衣料なども手掛けるようになり、事業を拡大。そして昨今、「デザインが可愛い」「機能性が高い」「値段がお手頃」ということで若年層から注目を浴びるようになる。

ワークマン側もテレビや雑誌といったマスコミへの露出増加や、ファッションショーの開催、著名なYoutuberやインスタグラマーなどとのコラボ企画を通じて若年層に向けて積極的にプロモーションしており、巷では「ワークマン女子」といったワードができあがるほどのブームとなっている。

加えてワークマンは長年にわたって仕事用の衣料を製造してきたため、高機能という領域においても強みを持っており、「暑くない、寒くない、蒸れない、雨を通さない」といった点も高い評価を受けている。

そして驚きなのは、「値段がお手頃」との評価を得て然るべき原価率の高さだ。ワークマンの2019年3月期の原価率は62.4%。安さをウリにする「ユニクロ」を運営するファーストリテイリングの51.1%を大きく上回っており、しまむらの68.2%には及ばずといった水準だ。

筆者は財務諸表を通じてこの事実を発見したが、ワークマン女子などはオシャレ・コスパに関する優れた嗅覚のもと、商品と値札を見比べながらその「お得感」を見出しているのだろう。

ワークマンの原価率は実のところ、2016年3月期の67.3%から年々低下しており、消費者から見た「割の良さ」は薄れてきているものの、依然ファストリを超える原価率を維持している以上、「値段がお手頃」という評価はそう簡単に崩れないだろう。

加えて、原価率の低下は前述したように営業利益率の上昇につながっており、投資家としても喜ばしい状況となっている。

このようにオシャレ・高機能・低価格が、ワークマンにとって未開拓市場だった若年層に刺さることで、近年売上高が急速に成長している。既存店売上高の好調に寄与しているのは前年比10~30%の増加を見せる客数だ。

「来店客の男女比」や「来店客の年齢層」といったデータは開示されていないが、昨今のブームから察するにワークマン店舗には若年層や女性の新規来店客が増えているのだろう。

自己資本比率"80%"&現預金比率"44%"の超安全運転経営ー投資家にとっては不満も?

話は変わるが、ワークマンは資金調達面での負債の活用が少ない。2020年3月期第2四半期末(2019年9月30日)時点での自己資本比率は79.7%と、ファストリの40.9%、アダストリアの57.4%、AOKIの62.5%、ミズノの64.7%などと比べると高水準だ。ちなみにしまむらも84.9%と、ワークマン同様自己資本の比率は高い。

負債の活用が少ないということは、財務レバレッジ効果を享受できていないことを意味する。財務レバレッジ効果とは平たくいうと、負債を多く活用することでROEが上昇するという作用を指す。ゆえに、ワークマンにはROEの上昇について、大きな改善余地があると考えられる。

また、ワークマンは総資産に占める現預金の比率も44.3%と高い。調達した資金の約4割が運用されていないということになる。買掛金の決済といった日々の資金繰りを理由に多少の現預金は必要となるが、現預金比率についてしまむらの6.1%、AOKIの11.6%、良品計画の12.4%、アダストリアの15.7%といった数値を踏まえると、キャッシュの効率運用という点でも改善余地はあるように感じる。

負債が少ないという点と組み合わせると、ネットD/Eレシオ(有利子負債から現預金を差し引き、それを純資産で割ったもの)は長年-0.6倍と、実質無借金での経営を行っている。

負債を活用せず、手持ちの現預金も多いという要素は安全運転経営につながり、一見すると良い企業に見える。しかし、不特定多数の投資家から資金の効率的運用を任される「上場企業」ともなれば、事情は違う。

ワークマンは現時点で負債の比率が低く、また業績が拡大する中で営業キャッシュフローも年々増加している。加えて、定期預金投資の影響を調整した投資キャッシュフローは各期で営業キャッシュフローに収まる水準であり、銀行や社債投資家からすれば非常に負債を提供しやすい状態だ。この場合、負債による財務レバレッジを活用し、ROEを高めるべきだと投資家は思うだろう。

現預金についても、「寝かせておくのであれば優良な投資先に回し、収益をより多く稼げ。投資先がないのであれば自社株買いを通じて株主に資金を還元しろ」という不満の声が上がるのがむしろ自然な流れだ。

会社側のリリースを見ると、負債の活用や大規模な自社株買いによる資本効率の改善策計画は確認できない。この状況では、キャッシュリッチと資本構成の改善余地に目をつけた投資ファンドが、株主提案や取締役の派遣を通じてメスを入れてくるといったシナリオも否定はできない。

現在のPERはさすがに手が出しづらい水準か

「ワークマン女子」などのワードができ、月次売上高も驚異的なペースで伸びているだけに、株式市場での評価も高まっている。2月上旬での今期予想PERは50倍台と、しまむらや良品計画、ABCマート、AOKI、アダストリアを圧倒する。ファストリの36倍と比べても絶対値としては高く見える水準だ。

これほどの高いPERには、過度に楽観的な業績拡大シナリオが背景にあると考える。今の時価総額である約7000億円と、2020年3月期の会社予想である純利益134億円をベースに、仮に今後5年間、当期純利益が対前年度比+25%で成長すると、PERは18倍に落ち着く。決して可能性としてない話ではない。

しかし、ワークマンの今後の事業リスクの存在も意識すると非常に高いハードルに感じる。若年層にヒットする中で「オシャレさ」もウリのひとつとなった以上、ワークマンは今後ファッション市場での「流行り・廃れの波」と闘わなくてはならない。

アパレル業界は多産多死の代表産業であり、流行り・廃れが業績に与える影響は非常に大きい。加えて、今後は低価格の観点ではしまむらなど、高機能の観点ではアルペンやミズノ、スノーピークといった競合を相手にすることとなる。

若年層向けファッション市場はワークマンにとって新市場であり、そもそも市場に関する経験・知識は他社と比較して乏しく、分の悪い競争にも見える。そのため、今後も強いペースで業績が拡大すると決めてかかるのは非常に危険であり、足元の売れ行きが一過性のブームに過ぎないのかという点も含めて、売上高の動向を慎重視する姿勢は引き続き求められる。

また、株価のバリュエーションをシビアに見る機関投資家は売買には参加しにくいという側面もあるであろう。

ワークマンが上場する市場は東証JASDAQであり、TOPIXの構成銘柄には加えられていないので、指数をベンチマークとして運用する機関投資家には大きくは買われない。また、保険会社や投資信託、年金基金などについても投資先を選定するうえで業績規模や上場市場などに関する制約を多数持っており、視野には入りづらい。

ワークマン株式の1日当たりの売買代金や時価総額対比をみても流動性は低く、この辺りの流動性リスクも機関投資家から敬遠されるポイントだ。こういった点から、ワークマンの株価は機関投資家によるシビアな目にさらされることなく、上昇を続けてきたとも考えられる。

今からワークマン株の購入を考えるならば、この「アパレル業界独特の事業リスク」と「機関投資家不在の中で形成された50倍近いPER」という点について特に熟考する必要があると考える。

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