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マスクの高額転売を禁止すると起きる「困ったこと」とは?

LIMO / 2020年2月16日 20時20分

マスクの高額転売を禁止すると起きる「困ったこと」とは?

マスクの高額転売を禁止すると起きる「困ったこと」とは?

マスク不足に乗じて高額転売で儲けようという人がいます。これを禁止すべきと考える人もいるでしょうが、久留米大学商学部の塚崎公義教授は「不愉快ではあるが、禁止すべきでない」と説きます。

温かい心と冷たい頭脳で経済は動く

マスクが売り切れて困っている人が大勢いるのに、それを利用して買い占めたマスクを高値で転売して儲けようとする人がいるようです。ひどいことをする人だ、ということで批判が集まっているようですね。心情的には全く許せないことです。筆者は高値転売などしませんし、する人を快く思いません。

しかし、経済を考える際には、温かい心だけではなく、冷たい頭脳もフル稼働させる必要があります。じつは、ケシカランと言ってマスクの高値販売を禁止してしまうと、困ったことが起きかねないのです。

本当は、マスクを売っている店に値上げをしてほしいのですが、店としては値上げをして客の恨みを買うことは避けたいと思うでしょうから、店に値上げを期待するのは難しいでしょう。そうなると、悔しいですが、高値転売を認めざるを得ないのです。

高くても買いたいという人がいる

100人が毎日1枚ずつマスクを買うとして、店は在庫を200枚持っているとします。ある時新型肺炎が流行し、不安に思った人が10枚マスクを買うとします。20人買った所で店の在庫が底をつき、80人はマスクが買えないことになります。

たとえば人々が「1枚10円なら10枚買いたいけれど、1枚20円なら2枚買いたい」と考えているとします。そうだとすると、先に購入した人々が10円で買ったマスクを20円で高値転売して儲けようとするでしょう。

それにより、人々は2枚のマスクを入手することになります。不満は残りますが、とりあえず感染の恐怖が和らぎますし、世の中全体としても新型肺炎の流行を予防することができるでしょう。

そんな時に、高値転売を禁止してしまったら、先に10枚買った20人だけがマスクをして、残りの80人はマスクなしで生活することになります。不安でしょうし、罹患するかもしれませんし、罹患したら他の人を罹患させてしまうかもしれません。つまり、新型肺炎が流行してしまうかもしれないわけです。

もしかしたら、持病があって「何としてもマスクを買いたい」という人がマスクを買えないかもしれません。それは、転売屋がマスクを大量に買ったからではなく、転売が禁止されている場合ですね。

転売が認められれば、その人は高い値段で転売屋からマスクを買うので、不愉快ではあるでしょうが、最悪の事態は避けることができるはずですから。

経済がグローバル化していることに要注意

日本人の常識と倫理観では、マスクの高値転売は悪いことなのかもしれませんが、世の中には異なる常識と倫理観を持った人も大勢いるはずです。たとえばA国の人々は、転売して儲けることは全く問題ない、と考えているかもしれません。

そうだとすると、条約で転売を禁止することはできないでしょう。そんな時に日本だけ転売禁止法を作ってしまったら、A国の転売人が日本で大量にマスクを買い、A国で高値転売して儲けることになるでしょう。

経済がグローバル化していなければ、日本人が200枚のマスクを使うことができたのに、グローバル化した経済では、そもそも日本人が使えるマスクが減ってしまうのです。これは、ぜひとも避けたい事態ですね。

このように、悔しいですが、人々が欲張りであることを利用する方が、経済はうまく行くのです。

冷たい頭脳で経済を考える訓練をさらに続けたい人は、拙稿『人々が欲張りな方が経済はうまく行く。強欲商人でさえも役に立つ(https://limo.media/articles/-/3979)』をご参照ください。江戸時代に、凶作の年を狙ってコメを買い占めた強欲商人がいましたが、彼らでさえも経済活動の一員として貢献していた、という話です。読むと温かい心が邪魔をして腹が立つと思いますが(笑)。

政府が配給制を採用するという選択肢も

経済学の祖であるアダム・スミスは「神の見えざる手」を重視し、政府は経済活動に介入すべきでない、という基本姿勢を採りました。上記のように「転売規制をすべきでない」という主張をしたわけです。

もっとも、マスクの場合には、マスクが入手できない人がいると新型肺炎が流行してしまうというリスクがありますから、政府が介入するのも選択肢かもしれません。マスクを政府が買い上げて、国民に「配給」するのです。

アダム・スミスが本気で怒りそうな政策ですが、流行が日本でも本格化して、マスクが本当に入手困難な状況になった場合には、検討の余地があるかもしれません。政府関係者には、頭の片隅に入れておいていただきたい選択肢ですね。

ある程度の利益は転売屋に認めるべき

小売店にとっては、マスクの大量仕入れはリスクです。新型肺炎の流行が終わればマスクの需要が激減するでしょう。人々は買い置きのマスクがあるので、当分マスクを買わないでしょうから。

そんな中で、小売店がマスクの仕入れに慎重になり、店頭で品切れが相次ぐようなことになれば問題です。さらに問題なのは、日本の小売店が仕入れない分を外国の小売店が仕入れてしまうことです。

そうした事態を防ぐためには、転売屋がある程度の利益を稼ぐことはむしろ必要だ、ということになります。リスクに見合った利益が見込めなければ、転売屋をやる人がいなくなってしまいますから。

あとは、情報弱者をどう救うか、という点が問題です。転売屋が相互に健全な競争をしていれば、法外な値段で売ろうとしても買い手が見つからないはずです。しかし、法外な値段を付けても買いに来る「情報弱者」がいると話が違ってきます。

自分が情報弱者とならないように気をつけることはもちろんですが、法外な値段だけは禁止しても良いのかもしれませんね。

マスクの先物市場を作るという奇策も

ここからは余談です。小売店が安心してマスクを仕入れることができるためには、マスクの先物市場を作るという奇策もありでしょう。小売店はマスクを大量に仕入れる一方で先物を売り立てれば良いのです。

理論的には悪くない話だと思いますよ。まあ、そんな先物市場が実際に作られるとは思いませんが(笑)。

本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。

<<筆者のこれまでの記事はこちらから(http://www.toushin-1.jp/search/author/%E5%A1%9A%E5%B4%8E%20%E5%85%AC%E7%BE%A9)>>

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