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吉野家が業績予想を上方修正も株価は下落。なぜ?

LIMO / 2020年2月29日 6時0分

吉野家が業績予想を上方修正も株価は下落。なぜ?

吉野家が業績予想を上方修正も株価は下落。なぜ?

厳しい事業環境と今後の打開策・見どころは

牛丼でおなじみの吉野家ホールディングス。その知名度の高さもあって個人投資家の中でも人気な企業だ。吉野家は1月に今期の業績予想を上方修正したが、株価は下落。今回は吉野家の置かれた厳しい事業環境を解説したうえで、それに対する打開策や今後の見どころを紹介する。

業績予想を上方修正も株価は下落

吉野家は1月10日、2020年2月期3Q累計(3-11月)の決算を発表するとともに、通期の売上高予想を従来の2080億円から2150億円、営業利益予想を従来の10億円から36億円へと上方修正した。純利益は従来の1億円を据え置き。

営業利益予想が引き上げられたことで一見するとポジティブに見える今回のリリースだが、株価はというとこれを受けて下落。1月10日終値の3025円に対し、織り込み後の14日終値は2736円と、10%の大幅下落となった。さらにその後も売りは継続し、2月中旬時点で株価は2500円前後で推移している。

今回の株価下落には、市場の高い期待が背景にある。2月中旬時点での市場コンセンサスは売上高2143億円、営業利益38億円、純利益12億円。売上高は会社予想が上回っているものの、利益予想は市場の期待する水準を下回っている。

純利益については、構造改革関連費用等の影響を精査中とのことで予想が据え置かれたため、市場コンセンサスとの比較は今のところはさほど意味はない。しかし、営業利益予想の修正値が市場コンセンサスに届いていない点が市場の大きな失望を誘い、売りが出たようだ。

営業利益率"2%"牛肉・人件費高騰のインパクトは甚大

吉野家の置かれている厳しい事業環境をおさらいする。まず、人件費の慢性的な上昇だ。日本国内で人手不足が問題視される中、人を雇うコストは高まっている。吉野家の営業利益は2019年2月期に前年比98%減の1億円にまで大きく減少したが、この一要因も人件費高騰に伴う販管費率の上昇だった。

次に材料費の高騰。牛丼の材料となる米国産ショートプレート(バラ肉)の価格は、中国や香港を中心としたアジア圏での需要拡大に伴って上昇を続けている。1990年代には1キログラム当たり300~400円だったが、2010年以降は600~800円となっており、倍の水準にまで上昇。

それに加え、年によっては900円を超えるなど価格の変動幅も大きくなっており、吉野家にとって取り扱いの難しいハイリスクな材料になってきている。短期的に見れば、米国産ショートプレートの価格は2019年5月以降、下落が続いている。

しかし、米中通商協議において中国側が米国産牛肉の追加関税を免除し、輸入を拡大する考えを示すなど、米国産牛肉の需要は今後もアジア圏で膨らみ続ける可能性は高い。それゆえ、米国産ショートプレートの価格は引き続き上昇トレンドを維持すると思われる。

これら人件費と牛肉の高騰は、営業利益率の低い吉野家の利益に甚大な影響を与える。期によって多少変動するものの、吉野家の営業利益率はだいたい2%だ。仮に、牛肉の値上がりによって原価率が、人件費の高騰によって販管費率がそれぞれ1%ポイント上昇した場合、営業利益はほぼゼロとなる。2019年2月期には実際にこれが起こり、営業利益は吹き飛ぶこととなった。

前期の減損損失"50億円超"積極的な投資姿勢には疑問も?

こうした苦境にある中で、吉野家の積極的な投資姿勢に疑問を持つ投資家は少なくなさそうだ。吉野家は店舗用不動産などの有形固定資産に投資することで、投資キャッシュフローは毎年90億円前後となっている。保有している現預金の約4割を毎年投資していることになる。

一方で、吉野家は長年、毎年のように減損損失を計上している。2019年2月期に関しては、減損損失は50億円超にものぼる。減損とは、平たくいえば「取得した資産が将来的に投資家の期待するリターンを上げられないと判断された際、その分だけ簿価を切り下げる」行為だ。裏を返せば、投資家にとっては吉野家の投資の多くがそれだけ「割の悪い」投資だったことを意味する。

減価償却費60億円前後、減損損失10億円超という非資金費用のおかげで、営業キャッシュフローは毎年純利益よりもはるかに高水準だ。それゆえ、投資キャッシュフロー分はおおむねカバーできている。

しかし、事業環境が厳しい中で減損が続くなど投資の旨味が失われつつある中、「毎年90億円も投資する必要はあるのか?株主還元に回した方がいいのでは?」と感じる投資家は少なくないと思われる。牛肉・人件費高騰は収益性以外にも、投資・株主還元といった領域にも大きく作用しそうだ。

市場開拓・集客に注力で既存店売上高プラスを維持できるか

事業環境が厳しく、投資も報われづらいといった状況で、吉野家は主力の牛丼事業で既存店売上高の増加を図っている。既存店売上高はここ数年1%前後の増加率で推移していたものの、今期に入ってからは客数・客単価どちらも好調で、3Q累計で7%の伸びを見せている。

奏功しているのは、市場開拓と集客を軸に据えた施策だ。市場開拓については「客層を変える」をキーワードに、改装による店舗内雰囲気の転換や、フライ定食やから揚げ定食といった新メニューの拡充、テイクアウトの導入などにより、若年層や女性客の獲得を進めている。

また、集客についても創業120周年施策として牛丼の新サイズ「超特盛」「小盛」の販売を開始したほか、各種割引キャンペーンも月ごとに実施。特に新サイズ「超特盛」「小盛」の効果は大きかったようで、月次の既存店売上高を見ると導入前の2月までは前年割れの低空飛行が続いていたものの、導入後の3月からは一転して5%前後の好調な伸びが続いている。

コスト上昇が続く中で、吉野家は店舗やサービス内容に工夫を凝らし、高付加価値化を図ることで対応している。実際に、牛丼事業での店舗当たり売上高は年々増加基調にある。1月に発表された業績予想の上方修正もこうした取り組みに由来する既存店売上高の伸びが大きく寄与してのものだ。

しかし、牛肉・人件費高騰という着実に進展する問題に対し、店舗のイメージチェンジや新メニューの導入、市場開拓といった成功確度の読みづらいハイリスクな策で対応している点には、危うさも感じる。今後は国内での人件費動向や米国産ショートプレート価格の推移を追いながら、「牛丼事業で既存店売上高のプラスをどれだけ維持していけるか」が注目を集めそうだ。

はなまるや海外への投資拡大で牛丼依存から脱却できるか

牛丼の材料である米国産ショートプレートは脂身が多く、現地である米国での需要は大きくなかった。そのために安価で仕入れることができ、それが「安い牛丼」へとつながり、吉野家の業績拡大にこれまで寄与してきた。

しかし昨今、前述したようにアジア圏での需要拡大に伴って値段が上がり、結果として牛丼ビジネスの旨味の低下につながっている。こうした背景もあり、吉野家は徐々に「脱・牛丼依存」を進めている。

牛丼事業の店舗数は近年ほぼ横ばいとなっているものの、うどんを提供しているはなまる事業の店舗数は年5~10%のペースで増加している。また、海外での店舗も年10%前後のペースで増加。結果として、会社全体の売上高に占めるはなまる事業と海外事業の売上高比率は年々高まっており、牛丼事業への依存度は低下しつつある。

うどん事業であれば牛肉高騰の不利を回避でき、海外事業であれば日本国内での人件費高騰の不利を回避できるというわけだ。また、直近ではステーキ・しゃぶしゃぶレストランを運営するアークミールの株式を全て売却する計画を発表している。事業リストラクチャリングも進める中で、「積極的に投資するならどの事業か?」という投資先の選別もより一層活発になりそうだ。今後、はなまる事業や海外事業の売上高・利益がどう増えていくのか、それら事業が牛丼事業に取って代わる収益柱に育つのかといった点も要注目と考える。

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