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「トイレットペーパーを買い急ぐのは愚かな人」だと言い切れない理由

LIMO / 2020年3月8日 20時20分

「トイレットペーパーを買い急ぐのは愚かな人」だと言い切れない理由

「トイレットペーパーを買い急ぐのは愚かな人」だと言い切れない理由

トイレットペーパーが突然品不足となりました。それは、人々が合理的に行動した結果なので、再発防止は容易ではない、と久留米大学商学部の塚崎公義教授は考えています。

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経済を理解するためには、暖かい心と冷たい頭脳が必要です。本稿では、主に冷たい頭脳を使いますので、読者の暖かい心が立腹するかもしれませんが、これを機に読者も冷たい頭脳を訓練していただければ幸いです。

以下、「本稿掲載時までに事態が沈静化していると誰も読んでくれない」と懸念しつつも、そうなることを祈りながら記します。

トイレットペーパーが突然品不足に

新型肺炎が流行し、人々がマスクを付けるようになりました。したがって、マスクが不足することは容易に理解できます。そして、マスクが不足しているという情報が広まると、「少し多めに購入しておこう」という消費者が増え、ますます不足する、ということが起きているようです。

それと比べると、トイレットペーパーの不足には意外感があります。新型肺炎がトイレットペーパーの消費量を増やすわけではないからです。

トイレットペーパーが不足する、という誤った噂が広まり、それを信じた人々が「通常より多めに購入しておこう」と考えたため、実際に品切れになり、それを見た消費者たちが不安になり、「さらに多めに購入しておこう」としたのでしょう。

そうした消費者の行為は、冷たい頭脳で考える限り、合理的です。多めに買わないことのリスクは結構あります。「品不足が長続きしたらどうしよう」という不安を抱えて過ごすだけでもストレスですし、もし本当に品不足が解消しなかったら、必需品なしで暮らすことになりかねませんから。

多めに買った国民は合理的だった

それに対し、メーカーは「在庫は足りているから、安心してほしい」と言っていますが、合理的な消費者は、それを信じて通常どおりの購入量を維持するのでしょうか。そんなことはないでしょう。

まず、本当に足りているのでしょうか。足りているという根拠は何でしょうか。「消費者が通常1週間に購入するトイレットペーパーの量は在庫として持っている」ということであれば、意味のないコメントですね。消費者が「いつもは1週間分の買い置きをしてあるが、今日からは2週間分の買い置きをしよう」と考えた途端に在庫不足になるからです。

実際、トイレットペーパーが店頭から消えて数日経ちますが(本稿執筆時点の水曜日現在)、多くの店で在庫切れとなっているわけです。そうだとすれば、多めに購入した消費者は正しかった、ということになるでしょう。

実はメーカーには大量の在庫があり、単にメーカー在庫が店頭に並ぶまでの流通に時間がかかっている、ということかもしれませんが、そうだとしても、「店頭に並ぶまでに時間がかかりそうだから、多めに買っておこう」と考えた消費者は、やはり正しかったことになります。

「デマを信じないで落ち着いて行動して」という声も聞こえてきますが、これも疑問です。最初に流れた情報はデマだったわけですが、人々がそれを信じて行動したことで、デマが真実になってしまったからです。

「賢い人」が「デマだから自分は買わない」と言っている間に、普通の人が購入量を増やしたため、賢い人が買えなくなって困っている、という笑えないことが起きているのです。

そうだとすると、政府が「デマを信じないで」と国民に依頼することにより、政府を信じてアドバイスに従った人が損をすることになります。これは政府としていかがなものかと思います。

皆が合理的に行動すると皆が酷い目に遭う

世の中には、皆が合理的に行動すると皆が酷い目に遭う、ということがよくあります。劇場火災の際に、個々人にとって合理的なのは非常口に向かって走ることでしょうが、皆が同じことをすると皆が酷い目に遭います。

株価暴落の噂が流れた時、株主が株を売る行為も同じですし、銀行破産の噂が流れた時に預金者が預金を引き出す行為も同じですね。

劇場主としては「走らないで」と放送しますが、効果は薄いでしょう。人々が合理的に行動している時に、人々の行動を変えるのは容易ではないからです。政府が「トイレットペーパーを大量に買わないで」というのも同じですね。

メーカーにも増産のインセンティブは小

メーカーが大増産してくれれば、品不足は短期間で解消するのでしょうが、それも望み薄でしょうね。

トイレットペーパーの使用量が増えているわけではないので、事態が収束した後は、消費者が自宅に買い置きしてある物を使うため、売れ行きが大きく落ち込むことが予想されるからです。

マスクのメーカーであれば、使用量が増えているので、「このまましばらく新型肺炎が収束しなければ、増産が大儲けに繋がる可能性もある」と考えるわけですが、トイレットペーパーにはそうした可能性が期待できないのです。

合理的な行動をとる人には暖かい心を説こう

つまり、人々の冷たい頭脳に期待していると、事態は改善しないばかりか、悪化していく可能性も大きいのです。

そういう時は、「人々に暖かい心に従ってもらう」という方が効くかもしれません。「自分だけ良ければ、と思わずに、皆のことも考えてください」というお願いをするわけです。

消費者には「困っている消費者のことを考えて、大量購入は控えて下さい」と頼み、メーカーには「消費者が困っているので、増産してください」と頼むわけですね。

国際的な品不足になっていると、マスクなどのように輸送コストの小さいものは「日本人が自粛しても外国人に買われてしまうだけ」といったことにもなりかねませんが、トイレットペーパーは外国に送るのにコストがかかるので、国際的な転売屋のことは考えなくても良いでしょう。

東日本大震災の時も、買い占めなどの動きが限定的で、人々は分け合い、譲り合ったと言われています。今回も、日本人の暖かい心に期待しましょう。

本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。

<<筆者のこれまでの記事はこちらから(http://www.toushin-1.jp/search/author/%E5%A1%9A%E5%B4%8E%20%E5%85%AC%E7%BE%A9)>>

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