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「日銀が全上場企業の100%株主になる日」は来るのか? フィクションで考える金融政策の蹉跌

LIMO / 2020年3月17日 20時15分

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「日銀が全上場企業の100%株主になる日」は来るのか? フィクションで考える金融政策の蹉跌

はじめに

3月15日、「コロナショック」を緩和するため米連邦準備制度理事会(FRB)は今月2回目の政策金利の引き下げを発表しました。これにより、リーマンショックに引き続き、米国は実質的なゼロ金利政策で金融市場の安定と景気底入れを目指すことになりました。

一方、日本銀行もFRBの決定後、3月16日に前倒しで金融政策決定会合を開き、金融市場や経済の動揺をおさえるための措置を決定。具体的には、現在年6兆円としている上場投資信託(ETF)の購入目標額を12兆円に倍増することや、量的緩和を通じた資金供給も拡充するとしています。

日本銀行は3月に入り、すでに4回のETF買い入れを発表。その額は4回とも1014億円で過去最高額です。このETF購入等の施策はどこまで持続可能なのでしょうか。今回は想像をたくましくして、もはや手段が尽きたと仮定し、そのときのことを考えてみました。

※以下はフィクションであり実在の組織や人物とは関係ありません。

20XX年、金融市場に再びクラッシュがきたら…

20XX年初、大発会。年末のニューヨーク市場が一日で45%も下落する未曾有の暴落を受け、すでにシカゴの日経平均株価先物価格も40%ほど下落した。それを引き継いだ東京市場で、日経平均株価は寄り付きで6000円近辺をウロウロしている。

原因は、昨年9月に米国の超大手IT企業のGAFE(ガーフェ)が仮想通貨取引で500兆円の損失を出し破綻したことに端を発した、ガーフェ・ショックだ。日本でも100を超える金融機関がガーフェ仕組債に手を出し、軒並み大損失を出した。メガバンク最大手・三野銀行も破綻間近と囁かれている有様だ。

正月明け早々、日銀総裁の三重山は眉間に皺を寄せ副総裁の黒口を総裁室に呼んだ。 

三重山総裁:黒口くん、日本経済が死に瀕している。なんとか手はないか。

黒口副総裁:三重山総裁、もうすでに手は打ってきました。2014年からの国債買い入れ、ETF買い入れ、マイナス金利導入・・・。国債の買い入れ額は1000兆円、ETFは200兆円にもなります。国債金利もマイナス3%、もうこれ以上は何も・・・。

三重山:そうか。もう何もないか。そうだよな。俺たちは手を尽くしたよな。阿比政権からやいのやいのつつかれ、効果はないと分かっていても国債もETFも買いまくったもんな。黒口、お前にも無理を言って悪かった。許してくれ。

黒口:総裁、気にしないでください。所詮私も公務員。政権には盾つけません。もっとも自分のカネで株を買ったわけではないので、気は楽で・・・。

三重山:おい、黒口。お前、今なんて言った? 自分のカネで株を買ったわけではない、って言わなかったか。

黒口:はい。

三重山:それだ、黒口。あったぞ手が。自分のカネだ。自分のカネで株を買えばいいんだ。買いまくれば。

黒口:でも総裁、そんなカネどこにあるんですか。ひょっとして、総裁、昨年のボーナスを全額つぎ込んで底値買いするってわけですか?

三重山: アホ。俺たちは誰だ。天下の日銀だぞ。カネは唸るほどある。なければ輪転機を回してもいいし、今はやりのブロックチェーンとやらを使った“日銀コイン”を発行してもいい。

黒口:で、何を買おうと? また国債とETFですか?

三重山:ちがう。そんなチンケなことはもう金輪際だ。景気にも金融にも全く効果がないことが証明されたろう。むしろ逆効果だ。

黒口: すいません。

日銀が全上場企業に株式公開買付を宣言!?

三重山:いいか。俺のプランはこうだ。日銀のカネで日本の全上場企業のすべての株を買うんだ。日銀が全上場企業に株式公開買付を宣言する、略して日銀TOBだ。

黒口: は? 総裁、正気ですか。

三重山:昨日飲みすぎたが、正気も正気だ。トヤタ、NNTドッチ、NNT、ソフタバンカ、サニー・・・、全部だ、全部。全部買うんだ。

黒口: ・・・。

三重山:いいか。日銀だって市場参加者で投資家だ。すでにETFはバンバン買っているし、個別株を買っちゃいけないなんて、どこにも書いていない。そこにチャンスがある。全上場企業の株を買ったって、今じゃ300兆円くらいの出費で済む。ETFには200兆円もつぎ込んだしな。

黒口: ・・・。

三重山:カネがなけりゃ刷るか日銀コインを発行すれば済むんだ。いいか、全上場企業にTOBを掛けるんだ。バーンと広告打って。広告は電博堂にでも頼めばいい。報道はNJKにまかせよう。もちろんただのTOBだけじゃ社長連中は相手にしないだろう。

黒口: はあ。

三重山:でも俺には秘策がある。TOB価格は市場価格の5割増しでオファーする。これに乗らないやつはいないだろう。

上場企業でも大手企業の経営者は所詮サラリーマン社長さ。TOB成功の暁には特別ボーナスを支払うってちらつかせれば、役員連中をまとめられるだろう。同族上場企業でも、昨今は後継者不足で困っている。TOBをかければサンキューベリマッチで乗るさ。

個人投資家だって万々歳だ。この株安でピーピー泣いている投資家に5割増しで買うといったら泣いて喜ぶぞ。日銀様々だってな。

TOBをした後はどうする?

黒口:では、TOB後の経営はどうされますか。

三重山:年寄連中で役に立たない奴らはサッサと引退してもらう。イキのいい若手を抜擢してもいいし、外人を引っ張ってきてもいい。これがホントの資本と経営の分離ってやつだ。ただ日銀職員の役員派遣はありえない。官僚に経営は無理だ。

雇うやつらに外資系企業並みの給料を払えば、バンバン働いて業績も伸びるだろう。業績が伸びなけれ即交代させられる。おまけに経営者連中はがっぽり税金を払ってくれるから、税務署も喜ぶ。

黒口: 確かに。

三重山:日銀も例外じゃない。上場企業だからTOBの対象にはなる。もっとも政府が過半数の株を持っているのがネックだ。はっきり言って、買う魅力はない。

黒口: 寂しいですね。

三重山:現実だから仕方なかろう。ま、TOBが成功して、日銀が唯一無二の全上場企業の株主になった暁には、毎年10兆円くらいの配当が入ってくる。300兆円投資して、配当利回りは3.3%。このマイナス金利下で年3.3%の利回りはデカイ。

おまけに、全上場株は日銀が持っているから、ニューヨークが下がろうと、ロンドンが下がろうと、売らなきゃ株価は下がらない。世界株のベンチマークからは常に超過収益が出るって寸法だ。

黒口: 総裁、頭いいですね。

三重山:当然だろ。

黒口: キャピタルゲインはどうされます。株を売らないとすると、値上がり益は取れません。

三重山:なあに。簡単だ。キャッチボールをすればいいんだ。つまり、日銀の中に投資口座を2つ持っておく。仮に株主ワンと株主ツーとしよう。5%の値上がり益がほしければ、株主ワンで持っている株を株主ツーに5%上乗せして売るのさ。株主ツーが株を買う資金は輪転機か日銀コインを発行すればOKだ。これで株主ワンの値上がり益は5%取れる。

株主ツ―は5%割高な株を持たされるが、日銀全体ではチャラさ。5%上乗せした時点で、株価全体も5%上げるって寸法だ。キャッシュフローは全体の5%、つまり総投資額対比で15兆円儲かるってわけだ。

それでもクラッシュが来たときは?

黒口: 仮にまたクラッシュが米国から来ればどうされます。

三重山:死んでも売らないだけさ。上場しているといっても、売り手は日銀だけだから、ガイジンであれ機関投資家であれ個人であれ、欲しがったとしても売らなけりゃ損もしないし、値崩れも起きない。なんとかショックがいつ来ても怖くはない。

黒口: 総裁、お金がある、いや、お金を刷れるっていうのは最強ですね。

三重山:その通り。ただの紙切れや電子データでも、本当の価値があると錯覚させることができるのがこの世の中さ。日銀ブランドでお金を発行するのだから最強だ。でも怖いのはな・・・。

黒口: 怖いのは・・・。

三重山:その紙切れに価値がないってマジで思われた時だ。米ドルやビットコインのほうが、円より価値があると思われた瞬間、円は売られる。いまは有事の円高で、1ドル=50円くらいに値上がりしているが、このTOB作戦が失敗したら、間違いなく円は売られる

黒口: では、リスクヘッジはシカゴで円為替先物を売っておくってことですね。対ドルか対ビットコインで。

三重山:ま、そんなところだ。TOB作戦が成功すれば、超安定株主の日銀が持っている全株価は下がらないし、買えない株としてプレミアムがつくかもしれない。失敗しても、円ショートで儲かるって仕組みさ。

黒口: では、さっそく電報堂とNJKの記者連中を呼びましょう。明日の日経新報の一面は「日銀、全上場企業にTOB実施」でいきましょう。

三重山:黒口、おまえはマーケティングのセンスがあるな。フェイスブックとインスタにも上げといてくれ。インスタに載せる写真も撮っておこう。スマホある?

黒口:では総裁、はい、チ〜ズ!

※以上はフィクションであり実在の組織や人物とは関係ありません。

おわりに

冒頭に述べたように、3月16日午後1時過ぎに日本銀行による金融緩和政策が発表され、その後しばらく日経平均株価は前日比+300円ほど買われました。市場関係者はこの措置を一応前向きにとらえ、買いを入れたものと見られます。しかし結局は終値で前日比マイナス2.5%、429円安の17,002円で引けています。

それを引き継いだ欧州市場は、軒並み7〜8%の下落で始まりました。まさに暴落です。すでに大規模な金融緩和政策を進めている欧州中央銀行に、新たな手は残されていないと言っても過言ではありません。さらに米国ニューヨーク株式市場でも、16日の取引開始後直後に今月3回目のサーキットブレーカー発動となっています。

もうこうなったら、なりふり構っていられない政策でしか金融市場を再起させることはできないのではないでしょうか。

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