アニメ頼み脱出が今後の課題? 過去最高を更新した2019年の映画興行収入
LIMO / 2020年3月21日 8時15分
アニメ頼み脱出が今後の課題? 過去最高を更新した2019年の映画興行収入
2019年の映画興行収入は3年ぶり過去最高を更新
やや古いニュースになりますが、昨年(2019年)の日本国内における映画興行収入は約2,611億円となり、過去最高を記録しました(全作品の興行収入発表を開始した2000年以降)。これは前年(2018年)から+17%強増の記録的な増加です。また、従前の最高記録は2016年の2,355億円でしたので、それを約+11%上回る金額となりました。
2017年~2018年は高水準ながらも減少傾向となっていたため、再び勢いを取り戻したと言っていいでしょう。ちなみに、直近5年間の興行収入は以下の通りです(カッコ内は前年比)。
2015年:2,171億円(+4.9%増)
2016年:2,355億円(+8.5%増)
2017年:2,285億円(▲2.9%減)
2018年:2,225億円(▲2.7%減)
2019年:2,611億円(+17.4%増)
2019年の快進撃を支えた「天気の子」など相次ぐ大ヒット作の誕生
まず、2019年の快進撃を支えた要因を振り返ると、何と言っても、大ヒット作が連発したことが挙げられます。「天気の子」が記録的大ヒットになったことに加え、「アナと雪の女王2」「アラジン」「トイ・ストーリー4」などが立て続けに大ヒットしました。
また、2018年11月に公開された伝説のロックバンド・クイーン(Queen)の活動記録映画「ボヘミアン・ラプソディ」も異例のロングランとなって貢献した模様です。
ちなみに、歴代興行収入の上位5作品は以下のようになっています(2000年以降~、一部は上映中)。
第 1位:「千と千尋の神隠し」(2001年) 308億円
第 2位:「タイタニック」(1997年) 262億円
第 3位:「アナと雪の女王」(2014年) 255億円
第 4位:「君の名は。」(2016年) 250億円
第 5位:「ハリー・ポッターと賢者の石」(2001年) 203億円
第12位:「天気の子」(2019年) 141億円
第17位:「ボヘミアン・ラプソディ」(2018年) 131億円
第19位:「アナと雪の女王2」(2019年) 128億円
第22位:「アラジン」(2019年) 122億円
鑑賞料金引き上げや消費増税などのマイナス影響を吸収
こうして見ると、メガヒット作までは行かなくとも、「天気の子」を始めとして数多くの大ヒット作が上映されたわけですから、記録更新の最大要因が人気作品にあったことは間違いありません。
実は、2019年は大手映画館が揃って入場料を引き上げ(例:TOHOシネマズが映画鑑賞料金を1,800円から1,900円へ+100円値上げ、一般料金)、10月からは消費増税による影響を受けるなど、厳しい環境下だったのです。それにもかかわらず、過去最高を大きく上回ったのですから、相次ぐ人気作品の上映開始による部分は圧倒的に大きいでしょう。
一方で、前掲の通り、近年の映画興行収入は高水準で推移してきました。実際、2019年ほどヒット作がなかった年でも、相応に大盛況だったことがわかります。ただ単に人気作品の有無だけで片付けていいのでしょうか?
高水準の興行収入が続く要因は? 映画館のハイテク化も一因に
この背景として、リピート客を増やそうとする業界の努力が見逃せません。現在、映画館では様々な割引サービスを実施しています。レディースデーやレイトショーの割引はすっかり定着しました。また、ポイントカードシステムも広く普及しており、無料観劇など様々な特典を受けることができます。
さらに、IMAXデジタルシアター(注:日本は2009年から導入)に代表される映画館の“ハイテク化”も一因と言えそうです。こうした高性能上映による鑑賞は、家庭でのDVD鑑賞では決して味わえない臨場感があります。高性能上映の料金はやや高めに設定されていますが、それでも人気は衰えないようです。
一昔前まで斜陽産業の代名詞だった映画産業
振り返ってみると、戦後の日本では映画が庶民の娯楽として人気を博し、1950年代に黄金期を迎えました。しかし、カラーテレビの普及とともに客足が遠のき、一時は斜陽産業の代名詞となったのも事実です。しかし、「完全復活」という言葉を使っていいのかわかりませんが、近年の高水準な興行収入実績を見ると、勢いを取り戻したと見てよさそうです。
また、結果論になりますが、映画産業はその黄金期の成功体験にどっぷりと浸ってしまい、一時期は営業努力を怠っていた可能性も否めません。
近年の大ヒット作はアニメ映画や一部の洋画に限られる現実
さて、ここまで書くと、どん底から立ち直った映画業界の将来は明るいと思われるかもしれませんが、不安要素がないわけではありません。
まず、2019年の実績を見て分かる通り、近年大ヒットした作品はアニメ映画が大半であり、時たま「ボヘミアン・ラプソディ」のような洋画が含まれる状況です。
アニメ映画を否定するつもりは全くありませんし、筆者も観に行くことがあります。ただ、一部の時事社会派アニメ映画を除くと、鑑賞者の多くは子供を中心とした若年層と推察されます。若年世代の絶対数が減っていく中、彼らの嗜好が大きく変わりやすいことに注意が必要でしょう。
日本の映画産業界が、現在の邦画不振にさらなる危機感を持ってもらいたいと思います。
新型コロナウイルスの影響を甘く見てはいけない
また、足許では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大による一連の影響(外出自粛、公開延期など)を大きく受けています。
3月第2週末(14~15日の2日間)は、観客動員と興行収入ともに昨年同期比で▲73%減の壊滅的減少に陥ったという結果が出ています。現状を踏まえると、少なくとも3月一杯は回復が見込み難く、下手をすると書き入れ時のGWにも影響が残るでしょう。
もちろん、“ウイルス感染が収束すれば全然問題ない”という見方もあると思います。しかし、娯楽産業というのは、いったん客離れが始まると雪崩式に続き、なかなか元に戻らない性質があります。いい流れを継続すべき時に、今回の事態は大きな痛手になるかもしれません。
こうした点に注意しながら、今後の映画産業の動向に目を向けていきたいと考えています。
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