治療中にお金の不安を抱えないために…「公的医療保険制度」のしくみ
LIMO / 2020年3月31日 19時15分
治療中にお金の不安を抱えないために…「公的医療保険制度」のしくみ
~「まさか」に備えて申請方法をチェック~
連日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の大流行に関するニュースが報道されています。
マスク・消毒液などの不足や、医療現場の受け入れ体制などが懸念されるなか、手洗い・うがいなど、日頃の健康管理の大切さを実感している人は多いのではないでしょうか。
同時に「自分が長期療養する立場になってしまったとき、お金のことが心配」などと感じている人もいるかもしれませんね。
今回は、そんな「まさか」に備えて知っておきたい「公的医療保険制度」を軸に、医療費の負担を少しでも軽くするための方法について考えてみたいと思います。
知っておきたい公的医療保険制度のしくみ
「高額療養費制度」~高額な医療費を払ったとき~
長期にわたり入院することになったり、手術を受けたりすると医療費が高額になります。
例えば心臓手術を受け入院した場合、医療費の総額としては400万円を超えることも。
会社員の場合であれば窓口自己負担割合は3割ですが、それでも金額的には非常に大きなものになりますよね。
そこで忘れずに手続きしておきたいのが健康保険組合の「高額療養費制度(https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat310/sb3030/r150/)」です。
この高額療養費制度は、同一月(1日から月末まで)にかかった医療費の「自己負担額」が高額になった場合に払戻しを受けることができるもので、年齢や所得に応じて負担額の上限が定められています。
たとえば、70歳未満で協会けんぽに加入している被保険者(年収約370~約770万円の人)の場合、
上限額は【8万100円 +(総医療費-26万7,000円)× 1%】
となります。
(ここでいう総医療費とは、保険適用される診察費用の総額10割)
加入している公的医療保険(健康保険組合・協会けんぽの都道府県支部・市町村国保・後期高齢者医療制度窓口・共済組合など)に、高額療養費の支給申請書を提出または郵送することで手続きができます。
申請には期限があり、診療を受けた月の翌月の初日(自己負担分を診療月の翌月以後に支払ったときは支払った日の翌日)から2年となります(※(https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g6/cat620/r304/#q2))。
例として、入院手術で治療に3カ月かかったと仮定して計算してみましょう。
最初の月(月初~月末まで)の医療費が300万円、その翌月が100万円、3カ月目が10万円だった場合、
1)8万100円 +(300万円-26万7,000円)× 1% =10万7,430円
2)8万100円 +(100万円-26万7,000円)× 1% =8万7,430円
3)8万100円 +(10万円-26万7,000円)× 1% =7万8,430円
となります。
このように、月をまたいで治療した場合は各月ごとの上限が適用されますが、それでも制度利用のおかげで、ほぼ一定の負担で治療を受けられることが分かります。
「世帯合算」
また、高額療養費制度では、被保険者本人と同様、被扶養者の自己負担額も「世帯合算」できます。
ただし共働きの夫婦など、別々の健康保険に加入している場合は合算の対象とならないため注意が必要です。
のちに「世帯合算」となる可能性もありますので、各自の病院・薬局の領収書は必ず保管しておくようにしましょう。
「多数該当高額療養費」
さらに、同一世帯で1年間(診療月を含めた直近12カ月間)に3回以上、高額療養費の支給を受けている場合(「多数該当高額療養費」)、4回目からは自己負担限度額がさらに引き下げられるため負担が軽くなります。
「限度額適用認定証」~医療費が高額になることが事前に分かっているとき~
高額療養費制度の申請手続きにより自己負担限度額を超えた部分は払い戻しを受けることができますが、その場合でも窓口では一度、負担部分(3割など)全体を支払わなければなりません。
医療費が高額になることが事前に分かっている場合は、事前に「限度額適用認定証(https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat310/sb3020/r151/)」の手続きを済ませておくことも可能です。
健康保険証と限度額適用認定証を提示することで、窓口では自己負担額上限までの支払いで済むことになります。
(ただし、入院時の食事代や差額ベッド代などは自己負担限度額の対象には含まれません。)
「傷病手当金」~病気やケガで仕事ができないとき~
上記以外の公的な制度として、会社員には「傷病手当金(https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat310/sb3040/r139/)」があります。
傷病手当金は、病気やケガで働けなくなったときに健康保険組合から支払われるもので、まず、以下の4つの条件を満たすことが必要です。
業務外の事由による病気やケガの療養のための休業であること
仕事に就くことができないこと
連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかったこと
休業した期間について給与の支払いがないこと
また、支払われる金額は、それぞれの報酬額をもとにして、以下のように算出されます。
1日当たりの支払額
【支給開始日以前の継続した12カ月間の各月の標準報酬月額を平均した額】÷30日×2/3
(その他、条件により支給停止(支給調整)となるケースなどがありますので、事前に確認しましょう)
医療費の助成や減額をするしくみとは異なり、療養中の休業期間の生活全般を支えてくれる制度です。
なお、受給には「医師の意見」などが書かれた申請書の提出が必要となります。
公的な保障に「プラスアルファ」で備える方法
これらの公的医療保険制度で自己負担額が抑えられるのであれば、10万円程度を何口か医療費用に貯蓄しておくことで相当な病気やケガにも対応できるのでは、という考え方もあるでしょう。
一方で、万が一のときの金銭的・心理的な負担を考えて、必要最低限の医療保険には加入しておきたい、という考え方もあると思います。
「いつ病気やケガになるか」「どれくらいの治療期間が必要か」は事前に分かるものではありません。
先にお話ししたように、高額療養費制度が利用できるのは一定以上の自己負担額を支払った場合のみです。
何カ月にもわたって治療が続き、それぞれの月では自己負担限度額に達しないため、高額療養費制度が使えないというケースも考えられますよね。
そんな「まさかの事態」を想定して民間の医療保険に加入している人は多いと思います。
そこで、医療保険で留意しておきたいのは「契約内容のみの支払い」となる点でしょう。
入院・手術の保障であれば、退院後の通院で費用がいくらかかったとしても、支払われるのは「入院・手術分のみ」です。また給付対象となる疾患・手術などは保険商品によって異なります。
入院するとその期間の食費、身の回り品の費用、よく耳にする「差額ベッド代」など、諸費用は健康保険が使えず、全額自己負担となります。
収入面の不安が少なく、家族などの支えが確実だという人もいれば、一家の大黒柱である場合などは、仕事や収入への影響に不安を感じる人もいるでしょう。
これらをリスクと想定して、備えていくかどうかは、個人の判断次第です。人により、医療保険があった方が安心だという面もあるといえます。
ただし、医療保険にも保障に限界があります。入院日額5,000円の保険契約の場合、毎月数千円の保険料を何年も払い続けたとしても、7日間の入院であれば給付金は3万5,000円です。(保険によっては5日以上で一定額を給付するタイプの保険などもあります。)
家計とのバランスを考えて、割安感のある掛け捨て型の保険も検討するなど、自分と家族に合う保険を選んでいくと安心なのではないでしょうか。
医療保険の保険料を想定して、毎月「払ったつもり貯金」をしていくのも一つのアイデアかもしれませんね。
さいごに
みなさんいかがでしたか。
「病気やケガになってしまったとき、頼りになる公的な保障って結構多いんだな」と感じた人もいるかもしませんね。
利用に申請が必要となるものが多いので、知らずにいると損をしてしまう可能性があります。
まずはこれらの公的医療保険制度のしくみを活用することを前提としたうえで、民間の医療保険や預貯金でさらなる備えをしておけば、万が一のときに安心できるかもしれませんね。
年齢・健康状態・家族構成なども考えながら、ベストと思われる方法で「もしもの事態」に備えていきましょう。
【参考URL】
高額療養費制度:「高額な医療費を支払ったとき(https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat310/sb3030/r150/)」
※高額療養費の申請期限:「Q2:健康保険給付の申請に期限はありますか?(https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g6/cat620/r304/#q2)」
限度額適用認定証:「限度額適用認定証をご利用ください(https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g5/cat550/1137-91156/)」
傷病手当金:「病気やケガで会社を休んだとき(https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat310/sb3040/r139/)」
以上、すべて全国健康保険協会(協会けんぽ)HP(https://www.kyoukaikenpo.or.jp/)より
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