なぜトイレットペーパーは買い占められるのか〜賢い人でも周りに流されてしまう理由
LIMO / 2020年3月31日 11時20分
![なぜトイレットペーパーは買い占められるのか〜賢い人でも周りに流されてしまう理由](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/toushin1/toushin1_16649_0-small.jpg)
なぜトイレットペーパーは買い占められるのか〜賢い人でも周りに流されてしまう理由
現在、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で日本全国の多くのお店において、マスクやトイレットペーパー等の紙製品が品薄になっています。
これらの製品が買われている理由は、「これから紙製品の製造・流通がストップする」「店頭で品薄になり手に入らなくなる」というような情報が流れ、またその情報を信頼した人が多かったからでしょう。しかし、トイレットペーパー等の製造業者は、新型コロナウイルスの影響で製造がストップすることはないと明言しているのです。
このように、インターネットで多くの情報を手に入れられる現代においては、私たちは「どの情報が正しいのか」ではなく、「どの情報を信頼している人が多いか」という判断基準で情報を取捨選択してしまう傾向にあります。それもそのはず、行動経済学では判断材料が複雑になればなるほど、人は物事を正しく判断できなくなるとされているのです。
情報が錯綜する現代では、物事を判断する基準は「どの情報を信頼している人が多いか」になっており、言い換えると「自分以外のみんなはどのように考えているのか」という同調性を重視しているとも言えるでしょう。
そこで今回は、私たちがどのくらいの同調性を持っているのかについて、3つの実験をもとに紹介していきます。
同調性に関する実験:その1
1つ目は、心理学者ソロモン・アッシュ氏が1951年に行った同調性に関する実験です。
この実験は、7~9人のグループに「これと同じ長さの線を選んでください」と言って1本の線を見せ、3本の線の中から同じものを選んでもらうというものです。
この実験の答えは単純明快で、誰でも答えられるような問題なのですが、グループ(被験者1人を除き、全員がサクラ)を一部屋に入れて、サクラが「間違った線」をワザと選んで回答したところ、被験者も最初は「正解の線」を選んでいたにもかかわらず、自分以外の人の回答を聞いた後には「間違った線」を選ぶようになったのです。
この実験を、被験者を変えて何度も行ったところ、36.8%もの人が間違えた回答をしたそうです。
つまり、人は何が正しいのか分かっていても、周りに流されてしまう同調性を持っていると言えるでしょう。
同調性に関する実験:その2
2つ目の実験は、アメリカのミネソタ州当局によって納税者を対象に行われた実験です。
まず納税者を4グループに分け、それぞれ税金に関する4種類の情報を1つずつ伝えました。その情報の内容は、「税金の使い道」、「納税しなかった場合の罰則」、「申告書の書き方」、「ミネソタの納税率は90%である」という情報です。
すると、「ミネソタの納税率は90%である」という情報を得たグループが、最も納税に協力的になったそうです。
この結果から、「みんながやっているから」という同調性は何らかの行動を促す強い原動力となることが分かります。
同調性に関する実験:その3
3つ目は、1958年にトルコの心理学者ミュザファー・シェリフ氏が行った同調実験です。
この実験では暗闇で光を動かし、後で「光が何センチ動いたか」を質問します。
実験結果として、1人で実験された人たちはバラバラの回答をしましたが。3人で一緒に実験された人たちは次第に同じ回答をするようになりました。
このことからも、本来はバラバラの見解を持っているにもかかわらず、何人かで意見を交わすと全員が同じような見解に落ち着くという同調性を見ることができるでしょう。
まとめ
「みんながやっているから」という理由で物事を判断してしまう同調性について、いくつかの実験を交えながら紹介してきました。現在の新型コロナウイルス拡大に起因する騒動を読み解くヒントがあったのではないでしょうか。
インターネットが普及し、多くの人が多くの情報を瞬時に手に入れられる時代だからこそ、物事の判断が難しくなり、私たちは同調性に従って行動してしまう傾向にあります。
上記3つの同調性に関する実験からも、私たち人間にはもともと同調性が備わっているということが分かります。したがって、どんなに頭がいい人でも深く考えないと同調性が強く現れ、デマ情報に流されてしまう危険性が潜んでいるのです。
今こそ多くの情報や多数派の意見に流されずに、一度立ち止まって情報の真偽を考え、行動していく力が求められているのかもしれません。
【参考資料】
「Studies of independence and conformity: A minority of one against a unanimous majority(http://www.cynlibsoc.com/clsology/pdf/people-will-conform.pdf) Psychological Monographs, 70 (Whole No. 416)」(Solomon E. Asch)
「実践 行動経済学(https://books.google.co.jp/books?id=I9OjDwAAQBAJ&pg=PT86&lpg=PT86&dq=%E3%83%9F%E3%83%8D%E3%82%BD%E3%82%BF%E3%80%80%E7%B4%8D%E7%A8%8E%E3%80%80%E5%90%8C%E8%AA%BF&source=bl&ots=sRGFeH2l_Z&sig=ACfU3U1980oO0Udx1HcnJjrPfEyVsnLcgQ&hl=ja&sa=X&ved=2ahUKEwi305fo7KXoAhVaed4KHWg_DPEQ6AEwAHoECAoQAQ#v=onepage&q=%E3%83%9F%E3%83%8D%E3%82%BD%E3%82%BF%E3%80%80%E7%B4%8D%E7%A8%8E%E3%80%80%E5%90%8C%E8%AA%BF&f=false)」(リチャード・セイラー、キャス・サンスティーン、遠藤真美)
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