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世界コロナ不況で中小企業向け金融支援が急務。フィンテックには何ができる?

LIMO / 2020年3月31日 20時15分

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世界コロナ不況で中小企業向け金融支援が急務。フィンテックには何ができる?

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大を受けて世界各国では経済不況とその長期化が心配されています。中でもSME(中小企業)を救うべく、まずは各国政府による緊急対策が重要ですが、中長期的には「金融」の真価が問われてくると思います。

また、経済不況が長引くシナリオにおいては、世界最先端のフィンテックはどれほど貢献できるか、一つの重要な論点にもなってくるでしょう。

各国政府によるSME向け緊急対策

各国政府は、まず金融支援で苦境に陥っているSMEを救済することが先決です。とにかく出血を止め、資金繰りを安定化させることです。

特にスタートアップの場合は、運転資金を銀行から借入できるわけでもなく、キャッシュフローが逼迫してランウェイ(runway)が短くなれば、事業が軌道に乗る前に資金ショートしてしまい致命的です。ランウェイとはスタートアップがキャッシュ不足に陥るまでの残存期間のことです。

現在、各国政府は様々なMSME(micro, small, and medium-sized enterprise、零細・中小企業)向けの緊急金融支援を検討、実施しているところです。ただ、今のところ、従業員やフリーランサー個人向け支援を先行して実施しているようです。

たとえば、英国では3月23日よりビジネス支援の一環として、「コロナウイルス事業中断ローン・スキーム(The Coronavirus Business Interruption Loan Scheme)」というSME向け制度融資が始まっています。

対象は売上4,500万ポンド(約60億円)以下のSMEです。融資上限額は500万ポンド(約6.7億円)で、当初12カ月間は金利や諸経費は免除されます。取扱い金融機関は指定された40機関で、政府が融資額の80%につき信用保証します。

また、ドイツ、イタリア、フランス、スペイン等でも、従業員向けの給与補助などとともに、SMEを含む企業向け融資・信用保証のための予算措置が発表されています。

緊急時に政府ができることは、日本のように中小企業専門の政府系金融機関が存在しなければ、市中金融機関を経由した「代理貸」、あるいは「信用保証」というスキームを活用することになります。政府が金利や保証料をどこまで肩代わりするかは、各国の方針や財政事情によります。

ちなみに日本では、政府系金融機関である日本政策金融公庫から、直接「生活衛星新型コロナウイルス感染症特別貸付」が供給されており、「実質無利子化」という設計になっています。1.6兆円規模の金融措置です。

経済不況の長期化に伴うSMEのクレジット・クランチ?

中長期的には、グローバル経済に統合されてきた各国の国内経済は長引く景気後退に晒されるシナリオも懸念され、世界のSMEにとって決して楽観できる金融環境とはならないかもしれません。

長年、先進諸国を中心として世界的な低金利・金融緩和期にありますが、今後、コロナ不況に伴いSMEのローン返済遅延や倒産が多発すれば、金融機関にとっては不良債権が増加し、世界各国のSME向け融資現場で金融収縮が発生する不安があります。

それは、バブル崩壊後の日本で不良債権問題により金融危機が深刻化したときに起きた「貸し渋り」や「貸し剥がし」と言われたような現象です。そうなれば、世界の多くのSMEの資金繰り逼迫感が強まるでしょう。

一方、発展途上国に注目すると、経済・産業インフラが脆弱な諸国では、そこに存在する無数のSMEでも世界的な不況による悪影響が徐々に大きくなるかもしれません。

国際金融公社(IFC)による「MSME Finance Gap 2017」(2018年10月発表)によれば、世界の途上国全体で企業登録しているフォーマルなMSMEは3.1億事業者存在し、うち41%に相当する1.3億事業者が資金調達難に直面しているそうです。

その資金ギャップ(潜在資金需要額と資金供給額との差額)は約4.8兆ドルで、途上国全体のGDPの18%に匹敵します。さらに、(企業登録していない)インフォーマルな零細企業の資金ギャップは約2.8兆ドル(GDP比11%)です。合計すれば、もともと約7.6兆ドル(GDP比29%)もの資金ギャップが生じている状況なのです。

先行き、先進諸国のみならず、途上国でもSME救済策の必要性が叫ばれ、財政基盤の弱い現地政府に対して国際機関などによる支援協力も必要になってくるかもしれません。

金融収縮時にフィンテックはSMEを救えるか

さて、今回のようなコロナ危機、長引く経済不況に伴うSME向け金融収縮というシナリオにおいて、フィンテックには何ができるのでしょうか。世界ではコロナ危機に対応して様々なアイデアが出現しているようです。たとえば、英国では一つの興味深い取り組みがあります。

Trade Ledger社(デジタル融資プラットフォーム)、Wiserfunding社(デジタルSMEクレジット・スコアリング・プラットフォーム)、Nimbla社(貿易信用保険)およびNorthRow社(対顧客プロセスのデジタル化)が共同で、銀行・オルタナティブレンダー(フィンテックを駆使して伝統的な金融仲介機関を代替する貸出事業者)などに向け、迅速な融資サービスのためのプラットフォームの提供を開始しています。

緊急時に何より重要なことはサービスの迅速化です。融資手続きが遅れればSMEには命取りになりかねません。実際、市中銀行で融資手続きに数週間かかるところ、このプラットフォームを活用すれば数日で融資する仕組みになっているようです。

世界的に経済不況が長引けば、各国のSME向け融資現場で貸し渋りが発生することが心配されます。そんな中、金融機関の融資行動を底支えするようなフィンテックを集めて融資プラットフォームを構築・運営することは面白いアイデアです。

私個人の理想像はというと、SME内部の経理・会計、資金繰り、金融機関内のKYC(顧客確認)、SME顧客の預金・入出金データの入手・分析、審査データの入手・分析、クレジットスコアリング、融資判断、モニタリング、債権回収など一連の融資実務フローを支えるような、最先端のフィンテックを総動員したプラットフォームです。

基本的には、金融機関やオルタナティブレンダーなどが、それぞれ独自に取り組むべき課題ではあります。これまでにも複数の地方銀行が共同でフィンテックの共同研究・開発を行うといった事例はありますが、今後、経済不況が長引く不透明なシナリオにおいては、フィンテックに疎い金融機関やSMEが即座に利用できる融資プラットフォームの緊急性・必要性が一段と高まっていくのではないでしょうか。

SMEクレジット・スコアリングの設計など様々な課題はありますが、統合的なプラットフォームの構築は技術的には可能です。英国の事例のように、多くのフィンテックが得意技を持ち寄って一つのプラットフォームを構築するというのも、一考に値するかもしれません。

今後は「チャレンジャーバンク」の大きな波も

さらに、今回のコロナウイルス感染拡大による外出制限(日本では今のところ「自粛」ですが)の影響でSMEの行動パターンが変化し、世界中でデジタルバンキングサービスを選好するSMEが増えていくかもしれません。

そうなれば、銀行業務ライセンスを取得して金融サービスをモバイルアプリ上で提供する「チャレンジャーバンク」(例:英国Monzo、米国Atom、ドイツN26)の大きな波が世界中に押し寄せてくるでしょう。

つまり、今回のコロナウイルス危機を一つの契機として、金融サービスのデジタル化が加速し、世界中のSME向け金融サービスのあり方が劇的に変容する可能性があると思います。そして、それが新たなエコシステムとして厳しい金融環境に晒される多くのSMEを救うことにつながればとも期待しています。

【参考資料】
”Coronavirus - Business support to launch from today(https://www.gov.uk/government/news/coronavirus-business-support-to-launch-from-today)” (英国政府ウェブサイト)
「生活衛生新型コロナウイルス感染症特別貸付(https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/covid_19_seiei_m.html)」(日本政策金融公庫ウェブサイト)
”MSME Finance Gap Report 2017(https://www.ifc.org/wps/wcm/connect/03522e90-a13d-4a02-87cd-9ee9a297b311/121264-WP-PUBLIC-MSMEReportFINAL.pdf?MOD=AJPERES&CVID=m5SwAQA)”(IFC、国際金融公社)

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