「ブーマーリムーバー」って何?コロナ禍のアメリカで起こっていること
LIMO / 2020年4月8日 18時45分
「ブーマーリムーバー」って何?コロナ禍のアメリカで起こっていること
世界中で一向に収まる気配を見せない「新型コロナウイルス(COVID-19)」。毎日新しい情報が飛び交っています。アメリカでは国家非常事態も宣言され、人々の反応は様々です。
ハイリスクでありながらもなぜか自信過剰な「ベビーブーマー」と、環境問題を根に持つ若者との間の不和からアメリカ社会の共感の欠如を指摘する有名コラムニストの見解を参考にCOVID-19で動揺するアメリカの様子をお伝えします。
COVID-19の別名は「ブーマーリムーバー」
一部のミレニアル世代や特にZ世代の間で、COVID-19を「BOOMER REMOVER(ブーマーリムーバー」(団塊世代除去ウイルス)と名付け、ネット上で一時盛り上がっていたことが話題になりました。
これは、ブーマー世代以降がCOVID-19の感染リスクが高いということから、若い自分達には関係なくブーマーだけの問題と見下した気持ちを表しています。
外出禁止令が出る前には、ソーシャル・ディスタンス、つまり「人と6フィート(約1.8m)以上の距離を保つことや、人が集まることはしないよう」という呼びかけを無視しパーティを開いたりバーにあつまったり、感染拡大防止に協力をしない若者の態度が批判されました。
どうやら、この背景には、私利私欲を優先し格差社会を作り、地球環境問題の現実を受入れようとしない一部の欲深いブーマーに対する怒りが込められているようなのです。
「OK ブーマー」 あなたは危険カテゴリーに属している
また逆に、「自分は大丈夫」と危機感を持っていないブーマーも多く、自信過剰なブーマーである親に頭を悩ますミレニアルズが多いということも話題になっています。
自分や友人達の親が、無防備に遊び歩いていることに業を煮やしているとSNSに投稿したところ、1,000件以上ミレニアルズから共感の反応があったと、タイムズのベストセラー作家であるマイケル・シュルマン氏は「The New Yorker」(※1)につづっています。
ミレニアルズである子供達が、COVID-19の危険性をブーマーである親に言い聞かせ、家にいるように「叱りつけ」ても親達は「(忠告)ありがとう”ママ”」等とふざけた返事をしたり、全く真剣に聞いていない態度だと嘆いています。
消費者観察会社のSTAANCEが2,000人のアメリカ人を対象に行った調査(※2)で、「COVID-19の感染を恐れている」と答えた世代別割合をみると、ブーマー43%、ミレニアル53%、Z世代48%との結果。やはりブーマーが一番心配していないことが分かります。
終戦後、経済成長の中、ヒッピー文化やアメリカの自由主義文化をつくり、未だにまだ現役で世界を動かしていると思い込んでいるブーマーが多いようだ、ということも記事の中で指摘しています。
いい意味でも悪い意味でも自由主義を築いてきたブーマーは、自由をとりあげられることを何より嫌い、現実を受け入れて生活パターンを変えることに抵抗する傲慢さがあるのかもしれません。とくに、トランプ大統領については『ブーマーの隊長』と、シュルマン氏は批判しています。
現実逃避で自信過剰の「ブーマーの隊長」が2018年に米国パンデミック対応費の予算を大幅カットしたり、優秀な専門家チームを解雇したりしていなければ、今回のパンデミックに対してもっと早く適確な対応ができたのではないか、という批判の声も高まります。
「共感の欠如」が怒りを植え付けた
もちろん、すべての若者が「ブーマーリムーバー」に賛同しているわけではないし、すべてのブーマーが自信過剰なわけではありません。ただ、アメリカでは極端な偏見を持つ人が増えている傾向は目立ちます。
ビジネスコラムニストのラナ・フォルーハー氏はファイナンシャルタイムズに掲載した記事(※3)に、「ブーマーリムーバー」のような発想は「社会での共感の欠如」を反映しているとも言えるといい、自身が以前に書いた記事の下記のような興味深い見解を紹介しています。
・「今の時代を理解するには心理学の用語が分かりやすい。心理学的に人は2つのタイプに分けられる。誰かが勝てば誰かが負ける、ゼロサム式と割り切る人(被害妄想型)、正誤をはっきりさせず、人との繋がりを大切にする人(鬱型)。そして前者の世界には、「共感」の存在は薄いと言える」
・「これは、人だけではなく国家でも言えることで、アメリカは被害妄想型の傾向が強く、その中でも被害妄想型の人は2つのタイプに別れる。1つは、嫌悪を植え付けようとする保守派の人。もう一方は、神に祈りを捧げる人達を小バカにするような進歩主義の民主派の人。どちらもが互いを気にかけず、どちらも互いに対して激怒しているのだ」(※4)
今回の「ブーマーリムーバー」については環境問題を訴え続ける若者の意見を理解しようとせず散々無視してきた強欲なブーマーが、若者に共感より嫌悪感を植え付けた結果といえるかもしれません。
同時に若者は、自分達自身もブーマーが築きあげた物質的に恵まれた環境の恩恵を何かしら利用しているということも認めず、また、ブーマー以外にも持病で感染ハイリスクの人もいるということを配慮しない身勝手さも否定できません。
日本でも「老害」という言葉で高齢者を嫌う人もいます。それなりの理由があるのでしょう。どの国でも、社会での共感が欠如しているのかもしれません。
(※1)“Convincing Boomer Parents to Take the Coronavirus Seriously(https://www.newyorker.com/culture/culture-desk/convincing-boomer-parents-to-take-the-coronavirus-seriously)” The New Yorker
(※2)“Coronavirus Reactions(https://www.staance.com/post/coronavirus-reactions)” STAANCE, Inc.
(※3)“Covid-19 and the generational divide(https://www.ft.com/content/6a880416-66fa-11ea-800d-da70cff6e4d3)” The Financial Times
(※4)“Are you paranoid or depressive?(https://www.ft.com/content/e7e166ce-a516-11e9-974c-ad1c6ab5efd1)” The Financial Times
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