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新型コロナウイルスへの政策対応、各国の動きは? <HSBC投信レポート>

LIMO / 2020年4月12日 19時45分

新型コロナウイルスへの政策対応、各国の動きは? <HSBC投信レポート>

新型コロナウイルスへの政策対応、各国の動きは? <HSBC投信レポート>

新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大は、世界の公衆衛生上の緊急事態であり、世界経済に前例のないリスクをつきつけている。企業活動や家計所得が厳しいリスクに直面している中で、各国政府には革新的な解決策を見出すこととそれを迅速に実行することが求められている。しかしそれだけではなお十分ではない。

新型コロナウイルスが供給サイドならびに需要サイドの両面から世界の経済活動に打撃を与えている兆候が表れ始めている。供給サイドでは感染拡大を抑制する対策によって工場が閉鎖されサプライチェーンが混乱している。需要サイドでは旅行産業や娯楽産業への打撃が特に大きく、また消費者が所得の減少を懸念して高額商品の購入を先送りする可能性も高まっている。

各国の政策当局の喫緊の課題として以下の4点が考えられる。それは、①企業への直接的支援、②家計所得への支援、③需要全体への安定化策、④新型コロナウイルスが供給全般に与える打撃の最小化、である。

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こうした新たな政策課題は、平常時には個々に独立して役割を果たしてきた金融政策や財政政策、規制政策の垣根を超えるものである。これまで各国政府は、新型コロナウイルスが国内経済に与える打撃を抑えるために、図表1に想定する政策手段のいくつかを打ち出すことを約束している。

1. 企業への直接的支援

世界各国の政策当局は、実体経済において現金不足が生じれば、避けられるべき事業閉鎖や企業倒産が引き起こされかねないことを即座に認識し、そうした事態を防ぐことを最優先課題に据えている。

図表1の1列目にこうした課題に対応する政策手段を列記した。市中銀行へ流動性を供給する支援策や、中小企業を対象とする公的融資あるいは融資保証などが代表例である。

世界で最初に新型コロナウイルスの問題に直面した中国は、政策的支援において先行している。規制当局は経営不振に陥る企業のローン支払いの遅延を容認し、また中国人民銀行(中央銀行)は市中銀行に対し感染の影響を受けている企業への融資に回すことを条件に、3,000億人民元(約4.6兆円)の資金を注入した。

他国も中国に追随し、日本は中小企業への無金利無担保融資を1兆6,000億円規模で実施するとし、韓国は給与支払いが困難になっている企業に3兆ウォン(約2,600億円)の支援を約束している。マレーシア、インドネシア、シンガポールでも類似の対策が提示されている。

銀行から企業への低利融資は、銀行が企業倒産リスクの多くから保護される政府保証が備われば一段と有効に機能すると考えられる。

イングランド銀行(中央銀行)が市中銀行から企業への低金利融資を促進する新しい資金提供策を発表したことを受けて、英国政府はGDP比15%に相当する3,300億英ポンド(約44兆円)規模の融資保証基金の創設と、深刻な影響を受けているセクターを対象とする減税を約束した。

フランスのマクロン大統領は「いかなる企業倒産も防ぐ」としてGDP比12%相当の3,000億ユーロ(約36兆円)の基金を設けることを約束し、企業ローンの保証、公共料金支払いと賃貸料の支払い猶予を支援する方針を示した。

スペインでも同じような政策が発表され、ドイツでは大手州立銀行の融資能力を強化することを通じて少なくともGDP比15%前後に相当する5,000億ユーロ(約59兆円)規模の中小企業融資が行われることと、納税の遅れも容認されることが発表された。

イタリアでは、政府と国内大手銀行とが連携して小規模企業の融資返済を猶予することが計画されている。それによって既存のローンに政府保証が付されるだけでなく、不良債権の認識に関する規則も緩和される見通しである。

欧州中央銀行(ECB)は、こうした各国政府の計画を有効に機能させることを念頭に、市中銀行への支援策を段階的に強化するとして、借入金利を中銀預金金利よりも低く誘導することや、企業への融資を増やす銀行にはより有利な条件で流動性を提供する対策などを打ち出している。

また米政府は、感染拡大に影響されている航空産業や直近の原油価格の急落が打撃となっているシェールオイル生産企業に対する支援額を引き上げ、少なくとも500億米ドル(約5.4兆円)とした。

さらに米国連邦準備制度理事会(FRB)は、コマーシャルペーパー市場に最大1兆米ドル(約107.5兆円)規模の支援を行うことで企業への短期クレジットを十分に下支えするとしている。

2. 家計所得への支援

世界各国の政策当局のもう一つの喫緊の課題は、新型コロナウイルスが消費者所得に与える打撃を抑えることであり、住宅ローン返済や食費、公共料金支払いといった主要な出費を家計がまかなえる状態を担保することである。その対応策としては、直接的現金給付や減税、主要出費項目の繰り延べなどが挙げられる。

2月に香港政府は、新型コロナウイルスが労働者給与に及ぼす影響の緩和策として、成人1人当たり10,000香港ドル(約13万9,000円)の現金支給を実施した。タイ、シンガポール、オーストラリアも低所得家計を対象に類似の施策を提示している。

また、米政府は、数百万人規模の成人を対象に1人当たり1,000米ドル(約10万8,000円)の現金給付、連邦税課税の延期、傷病手当の積み増しなどを検討している。

一方、イタリア政府が計画しているローン返済猶予は住宅ローンにも拡大され、日本と韓国では学校休校措置によって自宅にとどまらざるを得なくなった働く親に対する給与補償を行う。

3. 総需要の安定化策

3つ目の政策課題は、雇用と総需要を安定化させる伝統的な政策手法だが、目標を定めた企業支援や家計支援を超えるものとなる。

英国およびマレーシアで発表された財政刺激策にインフラ支出の積み増しが盛り込まれたことや、中国当局が昨年暮れに、地方政府が起債する1兆元(約15.2兆円)規模のインフラ債を前倒しする方針を打ち出したことは時機を得たものと考えられる。

ドイツ政府は2008年の金融危機直後にも効果を発揮した「短時間シフト」を再び導入することを検討している。これは企業労働者の所得減少分の3分の2を上限として補助金を支給する政策である。

金融政策に関しては、今年に入りアジアをはじめとする世界各国の多くの中銀が政策金利を引き下げた。米国は3月に政策金利を150bp引き下げた。それにより新興市場国に一段の利下げ余地が提供された(図表2)。

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政策金利の引き下げと米FRBによる新たな7,000億米ドル(約75.3兆円)規模の債券買入れ計画とが相まって、長期的な実質金利に下押し圧力が掛かれば、政府借入コストが低下するため一段と大規模な財政政策が実施される可能性が出てくる。

また欧州中銀(ECB)が新たに取り組む7,500億ユーロ(約89兆円)の債券買入れスキームによって公債残高のGDP比が高水準にあるイタリアやスペイン、ポルトガルの債務コストが低下することも考えられる。

イングランド銀行は、3月19日に政策金利を過去最低の0.1%へ引き下げるとともに、国債と社債を合計2,000億英ポンド(約26.7兆円)買い入れることを約束した。また、市中銀行へ低利で資金を提供する枠組みの拡大も実施しつつ、当初準備した1,000億英ポンド(約13.4兆円)の資金供給では不十分との見方を示した。

重視すべき新しいトレンドとして、英国政府は金融政策と財政政策の発表を連携させる異例の対応を見せ、政策が総需要に与える効果の最大化を目指している。直近では先進7ヶ国(G7)首脳が協力して対応することを約束し、国際協調への取り組みも進展している。

アジア地域では、政府当局が直接的に株式市場に介入し、市場での株価変動が家計資産に与える打撃を緩和しようとしている。例えば中国政府は中国本土市場の株式を買い支え、日銀はETFの買入額を増加させている。

4. 新型コロナウイルスが供給サイド全般に与える影響の抑制

直近の政策方針は、新型コロナウイルスが供給サイドに与える影響を抑制することに主眼が置かれている。経済への影響を抑える最も効率的な方法は感染を早期に沈静化し、感染拡大を最小限に抑制することである。また感染拡大抑止策が経済にさらに大きく長期にわたって悪影響を与える事態を回避することである。

韓国では財政対応策の大半を医療支出に振り向けた結果、国内での感染拡大が抑制されつつある。対照的に新型コロナウイルスの検査の実施率の低い米国は感染者の確認数が実際よりも少ないと考えられるため、米国政府も欧州のような一段と厳格な感染抑制策を打ち出すことが必要になるとみられる。

供給サイドへの悪影響を抑制するその他の対策としては、金融の安定を維持するために市中銀行へ十分な流動性を供給することが実施されている。市場の変動性が拡大する中で、中国や日本、米国は流動性の増加に取り組んでいる。

また米FRBは他国の中銀に対して「通貨スワップ協定」の締結を呼びかけ、他国の企業や銀行が十分な米ドルを調達できる体制を担保しようとしている。

一段の対策が求められる可能性

主要国の多くが前例のない危機に対応し大規模な政策を打ち出している。世界各国の政策当局は金融政策に大きな役割を求めてきたが、経済見通しが悪化すれば一段の政策対応を求められよう。

最悪のシナリオとして、各国政府が「最後の買い手」となることが考えられる。その場合には政府は国内全般の事業支出を肩代わりして企業に従業員の維持を促し、倒産を回避することになる。世界的に超低金利でありインフレ率も低いため、多くの国には財政拡大を打ち出す余地があるが、中銀からの支援も必要とみられる。

HSBC投信の投資戦略

世界各国の政策当局が、感染拡大が経済に与える打撃を和らげる対策を強化している。しかし、かつてないほど緩和的な政策が広がる時代となった現在においても、経済見通しがなお極めて厳しく、不透明感の強い状況が続く中で金融市場の変動性は高まっている。当面はこれまで以上に慎重な投資戦略が必要と考えられる。

投資家心理は、新型コロナウイルスが企業経営の基盤に与える打撃への懸念と、財政・金融両面からの対応策が経済コストを抑制する期待感との間で板挟みの状態にある。

HSBC投信は、積極的かつ革新的な総合的政策によって新型コロナウイルスによる経済への悪影響についての恐怖心はある程度緩和され、感染が沈静化した後に経済活動が反発すると確信している。また直近の市場変動によりリスク資産のバリュエーションは大幅に改善したことから、6ヶ月以上を想定期間とする投資戦略においてリスク選好の投資方針を維持したいと考えている。

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