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株主利益より従業員の雇用維持を! コロナ不況に学ぶROE重視経営の危険性

LIMO / 2020年4月26日 20時20分

株主利益より従業員の雇用維持を! コロナ不況に学ぶROE重視経営の危険性

株主利益より従業員の雇用維持を! コロナ不況に学ぶROE重視経営の危険性

ROE重視経営は危険なので、行き過ぎないように企業と銀行に慎重さが求められる、と筆者(塚崎公義)は考えています。

ROEを高める手段は高収益とレバレッジ

ROE(Return on Equity)の高い会社は良い会社だ、と言う人は大勢います。ROEというのは利益を株主資本(または自己資本、純資産)で割った値のことですから、「同じだけ資本を使っているなら利益が多い方が良い」ということですね。当然のことのように聞こえますが、実はそうでもないのです。

会社は株主資本(株主から集めた資金等)と負債(銀行から借りた資金等)を使ってビジネスをして利益を稼いでいます。利益を総資本(株主資本と負債の合計。以下同様)で割った値をROA(Return on Assets)と呼びます。これは、高い方が良いですね。

では、ROEとROAの違いは何でしょう。それは、総資本に占める株主資本の比率が違うのです。

負債がなければ、ROAとROEは同じになりますが、総資本の半分が負債ならばROEはROAの2倍になります。分子は同じで分母が半分になるからです。同じ理屈で、総資本の90%が負債ならばROEはROAの10倍に、99%が負債ならば100倍になるのです。

ROAを高めるのは大変なことです。素晴らしい製品を開発したり生産工程を合理化したり、まさに会社の実力が問われますので、社長が全力で取り組む必要があります。

しかし、ROEを高めるだけであれば、財務部長1人で簡単にできます。銀行から借金をして自社株買いをして、A社をB社やC社にすれば良いのですから。

A社:ROAは1% 総資本は100 負債は0 ROEは1%
B社:ROAは1% 総資本は100 負債は50 ROEは2%
C社:ROAは1% 総資本は100 負債は90 ROEは10%

株主が経営者に高ROEを求めるのは当然

株主が経営者に高いROEを求めるのは、当然のことです。「私が投資した資金を効率よく用いて高いリターンを戻してくれよ」ということですから。したがって、社長がROAの向上に全力で取り組む必要があるのは当然です。

しかし、財務部長がROEを上げるためにC社を目指すことに関しては、問題があります。借金をして自社株買いをするということは、企業が倒産した場合のリスクを銀行に押し付けるということになるからです。

A社は、赤字になれば、それは全て株主の損になります。B社も、赤字が50以下ならば、それは全て株主の損になります。しかし、C社は、赤字額が10を越えると、超えた部分は銀行の損になるのです。株主有限責任の原則により、株主は出資額以上の損失を負担する必要はないからです。

これは、株主にとって非常に都合の良い一方で、日本経済にとっては都合の悪い状況です。

倒産は日本経済にとって大きな損失

A社よりB社、B社よりC社の方がROEは高いので、経営者がROE向上を目指すと日本企業がC社的になっていくわけですが、当然ながら、倒産リスクはC社の方が高いわけです。

企業が倒産すると、経営者や従業員が失業するだけではありません。まだ使える設備機械がスクラップ用に叩き売られたり、会社が持っているノウハウや信用や顧客リスト等々が雲散霧消してしまうわけです。

これは、日本経済にとって大きな損失です。「株主が利益を追求すると倒産確率が高まって日本経済が不利益を被る」というわけですね。

さらに問題なのは、会社が危険なビジネスに手をだしかねない、ということです。50%の確率で20儲かるか20損する、というビジネスがあったとします。

A社やB社は特に興味を示さないでしょうが、C社の株主は大いに興味を示すでしょう。50%の確率で20儲かり、50%の確率で10損する(残りの損は銀行が被る)わけですから。

そうなると、会社が高いROEを求めてC社に転換したことで、日本企業が従来より危険なビジネスに手を出すようになり、倒産リスクがダブルパンチで高まる、ということにもなりかねません。

銀行貸出の金利を引き上げるのが筋だが

企業がC社に転換したがり、しかも危険なビジネスに手を出すようになる、というのは株主の論理です。それによって倒産が増加して日本経済が損失を被るのは愉快なことではありません。じつは、それを防いでくれると期待されるのが銀行なのです。

理論的には、C社に貸すのはA社やB社に貸すよりも危険な行為ですから、銀行としてはC社向けの貸出はA社向けやB社向けよりも高い金利を要求するべきです。

見方を変えると、銀行にとってC社への融資は損な賭けです。C社が儲かれば自分はわずかな金利収入だけで儲けの大半は株主のもの、会社が大損すれば株主の損は限定的で残りは自分の損、ということになるからです。その分だけ、C社への融資には慎重になるべきで、貸す場合でも高い金利を要求するべきです。

そうすれば、企業もC社への転換を思いとどまるかもしれません。銀行には大いに期待しています。

新型コロナ不況で人々がROE重視の危険性に気づいてくれれば

残念なのは、超金融緩和が進み、借り手が見つからない時に、A社やB社が「自社株買いをしてC社になりたいので、融資を頼みたい」と言ってきたら、今まで通りの金利で喜んで貸す銀行も多いかもしれない、ということです。それが今次新型コロナ不況で変わってくれるかもしれません。

今回の不況は、想定外の売り上げ減少を多くの企業にもたらしたはずです。倒産する企業も多いでしょう。そのこと自体は大変不幸なことで、当事者にはお見舞い申し上げます。

そうした中で、今回の不況で人々がROE重視の危険性に気づいてくれるなら、それは不幸中の幸いと言えるかもしれません。これを機に銀行がC社への融資に慎重になり、経営者も株主利益より従業員の雇用の維持を重視するようになってくれることを期待しています。

本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。

<<筆者のこれまでの記事はこちらから(http://www.toushin-1.jp/search/author/%E5%A1%9A%E5%B4%8E%20%E5%85%AC%E7%BE%A9)>>

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