「#GratefulForTheHeroes」騒動に思う、「正義」ってなに?
LIMO / 2020年4月25日 18時45分
![「#GratefulForTheHeroes」騒動に思う、「正義」ってなに?](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/toushin1/toushin1_17043_0-small.jpg)
「#GratefulForTheHeroes」騒動に思う、「正義」ってなに?
まだまだ新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の収束が見えず、世界中で不安な日々が続いています。
SNSでも毎日のように不安の声があがっていますが、その中で話題になった「#GratefulForTheHeroes」をみなさんご存知でしょうか?このタグをきっかけに、多くの賛否の意見が集まりました。
今回は、筆者の過去の経験も踏まえて、この騒動について考えたことをお話させて頂きたいと思います。
「#GratefulForTheHeroes」とは
まずは「#GratefulForTheHeroes」について、簡単に説明します。
事の発端はTwitterでした。COVID-19に関連して、混乱や多忙を極め、さらには死の恐怖とも隣り合わせの現場で働いている方々を応援する意味を込めて、その方々を表現した絵がこのタグとともに発信されました。
発案者はとある有名少女漫画家の方で、その方はただ「現場で頑張っている方々を応援したい、励ましたい」という思いから発信されたとのことでした。
多くの表現者がこの発信に賛同し、自らの絵とともに拡散しました。
ですが、実際に現場で頑張っている当事者の方、当事者に近しい方々から批判の声が相次いだのです。「ヒーローだなんて言わないで!自分達も単なる一般市民だ!!」「自粛できるものなら、自分だってしたい!」と。
その発言を受けて、多くの人が「安全な場所から祭り上げるだけの偽善」「きれいごとを言うな」という批判の声をあげたのでした。
似たような経験を思い出す
Twitterでのこの騒動を見て、筆者がまず思い出したのは、数年前に筆者自身が似たような経験をしたことでした。
筆者の産まれ故郷は、東日本大震災(3.11)で大きな被害を受けました。震災当時、筆者は他県に住んでおり、実家もすでに存在していなかったため、直接的には被害を受けていません。
ですが、筆者にとっては幼少期から青春時代までを過ごした場所で、まさに「故郷」と呼べるたった1つの場所でした。両親が離婚していたこともあって個人的な感情も影響し、唯一「帰る場所」という強い思い入れもある土地だったのです。
その大切な場所が、3.11により自分が知っている姿とは大きく変わってしまいました。
その衝撃は想像以上で、直接的な被害は受けていないとはいえ、心情的には大きなショックを受けました。
当時幼稚園児の子どもがいましたので、日中は子どもの世話や仕事に追われ平常心を保っていましたが、その期間の自分の記憶は曖昧でハッキリと覚えていません。
子ども達を寝かし付けた後、リビングでぼーっとしていたかと思うと、突然涙を流していた…というのは、夫から聞いた話です。夫曰く「当時はなんて声をかけて良いのか分からなかった」と言っていました。
ただただ、家族の生活を成立させるために身体を動かしていたような気がします。
そうして過ごしていた後、ママ友の中に同じような境遇の人がいることを知りました。震災前からの友人でしたが、たまたま隣県出身ということを知りました。話をしていると、お互いが「故郷のために何かしたい」という思いを抱えていて、ささやかながら被災地商品の購買促進活動を進めていくことにしました。すでに震災から半年以上の時間が経っていました。
ある日、その活動の一環として、被災前の故郷の写真を展示することになりました。そこで関東に在住していた同郷の幼なじみに「昔撮った写真が手元にあったら貸してほしい」と連絡をしたのです。この幼なじみとは年に数回ではありますが、結婚してからも変わらず連絡を取り合う、気心の知れた間柄でした。
しかしその友人から返ってきた言葉は、私の予想とは大きく異なるものだったのです。
『当事者じゃない人間が善意を振りまいて、巻き込まないで!』
友人の両親はご健在でしたが、実家は変わらず被災地にあり、まだまだ不自由で不安な暮らしを強いられていました。このような背景があり、彼女の気持ちが爆発した結果での言葉だったと思います。
その一件以来、お互いがしばらくの間連絡を取ることができずにいました。私は善意のつもりだったことが、大事な人を傷付けてしまった事実に、何が善で何が悪なのか分からなくなってしまいました。行動を起こすこと自体が怖くなってしまったのです。
現在、その彼女とは交流を再開しています。
再び連絡を取り合うようになったきっかけは、覚えていません。ただ、震災当時のことを「どちらがとか、誰がとか、何が悪かった…ではなかった」「悪かったとすれば、あの震災だった」「震災がなかったら、あんな感情をお互い知ることはなかった」と電話口で泣きながら話し合ったことを覚えています。
そして、言葉ですべてを表現することができない感情を共有した彼女は、今でも私のかけがえのない友人です。
正義とは何か
上記の筆者の経験が、なんとなく今回の「#GratefulForTheHeroes」の騒動と似ている気がしました。
発案者はあくまで善意による気持ちが発端だったと思います。それが今回、このような大きな批判の波となり、まさか応援したいと思っていた相手本人を傷付けることになるなんて、思わなかったと思います。
さらに怖いのは、当事者が批判の声を上げるのは仕方ないとしても、それに便乗して批判の声を上げ、さらに事を大きくする第三者の存在です。このように声が大きくなることはSNSの特徴と言ってしまえばそれまでですが、今回のように「正しいことを言っている」という正義感を前提として成立していることが、とても怖いと思ってしまうのです。
「正しいことをしている!何が悪い!」という大義名分を武器に、相手が傷付き、倒れてもなお殴り続けている様は、正義なのだろうか?正義の刃を向ける方向が違うのではないか?と疑問を感じます。
物事はとかく、正しいこととそれ以外に分類されがちです。正しいことが「善」であり、それ以外は「悪」と称されます。正しいことを正しいと言うことは大切です。ただ、正しいことだからといって、それで誰かを傷つけて良いということではないと思うのです。
まとめ
COVID-19に関しては、今まで誰も経験したことのない未知の世界です。まるで小説や映画の世界が現実になった…と感じている人もいることでしょう。先の見えない不安な状態が続いています。そのため、多くの人が気持ちに余裕を持てなくなっているように思います。
今回取り上げた「#GratefulForTheHeroes」の騒動に限らず、様々なところで大きな影響が出ているCOVID-19。ただその中で願うのは、溜まった不安から生じる負の感情を、人に向けないで欲しいということです。
欲しい物が買えなかったり、自由に出かけることができなかったり、いつもとは違う不自由な生活が強いられていますが、どうかそこで感じるイライラや不満を感情のままに他人にぶつけないで頂きたいのです。
1人1人が今できる最善の方法は「お家で過ごそう(STAY HOME)」です。COVID-19の感染拡大が収束し、1日も早くいつもの日常が戻ってくることを心から願っています。
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