食糧不足? 物流崩壊? コロナ不況の中でインフレが起きるリスクシナリオ
LIMO / 2020年5月3日 20時20分
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食糧不足? 物流崩壊? コロナ不況の中でインフレが起きるリスクシナリオ
新型コロナは需要を減らしてデフレを招く要因ですが、供給減などによりインフレを招く可能性もある、と筆者(塚崎公義)は考えています。
新型コロナ不況でデフレになるのも困りますが、インフレになってしまうと「景気対策とインフレ対策を同時に進めざるを得ない」という大変困難な事態に陥りかねません。予測ではなく、あくまでリスクシナリオとしてですが、そうした可能性について考えてみましょう。
仮の需要がインフレの要因になる可能性
トイレットペーパーが不足したのは記憶に新しいですが、あれは仮の需要によるものでした。
トイレットペーパーが不足するという噂を聞いた人が「それならば、通常よりも多めに買っておこう」と考えて多めに買ったことで、実際に店頭の在庫がなくなり、それを見た人々が「噂は本当だったのだ」と考えて多めに購入するようになった、ということですね。
トイレットペーパーの使用量が増えたはずはないので、最初の噂は誤り(あるいはデマ)だったのでしょうが、それが実現してしまった、ということになります。
問題なのは、冷静に「トイレットペーパーの使用量は増えないから不足するはずがない」と考えて買わなかった人がトイレットペーパー不足に悩むことになり、「多めに買っておくべきだった」と考えているかもしれない、ということです。
多めに買った人が反省するのであれば、次から繰り返されることはないでしょうが、そうでないので、同じようなことが繰り返されるかもしれないわけです。
しかも今度は、世界的な規模で重要物資で似たようなことが起きるかもしれません。可能性が高そうなのは、食料品でしょう。
「農業生産を外国人労働者に頼っている国は、労働者不足で農作業が滞っているかも」といった話も聞こえてきています。実際に食料の輸出を禁止した国がある、という話も聞こえてきます。
真偽のほどは不明ですが、重要なことは真偽ではなく、人々が信じるか否か、なのです。トイレットペーパーの時がそうであったように。
世界的に不安心理が高まると、「とりあえず最重要の食料品だけは確保しておこう」と考える国や人が増えるかもしれない、ということもあり得ます。それと「足りなくなる」という情報が相乗効果で本格的な不足をもたらすかもしれません。
日本国内のトイレットペーパーは、不足しただけで値段は上がらなかったようです。しかし、世界の食料の需給バランスが崩れれば、値上がりは必至でしょう。国内のマスクでさえも、消費者物価統計を見ると少しは値上がりしているわけですから。
部品不足で完成品が作れないリスクも
サプライチェーンがグローバル化しています。多くの国で作った部品を多くの国で組み立てて一つの製品ができ上がるわけです。もしかすると、重要な製品の重要な部品の生産が一つの地域で独占的に行われているかもしれません。
たとえば、自動車のエンジンに不可欠なネジを独占的に生産している地域または工場があるとして、その地域または工場で感染が拡大し、生産が止まってしまったら、世界中の自動車工場が止まってしまいます。そうなれば、自動車の価格は上がりますね。
筆者は自動車のサプライチェーンに詳しくありませんので、そうしたことがないように願っていますが、何かの製品でそうしたことが起きる可能性は否定できないでしょう。
余談ですが、新型コロナが収束した後、世界的なサプライチェーンの見直しが起きるかもしれません。「世界中で一番安く作れるところで生産する」というのは、何事もない時には良いですが、災害や疫病等々のリスクがありますから、多少コストが高くても、生産拠点を分散しておくという「保険」ですね。
国内では運送業者の感染がボトルネック化するかも
国内では、運送業者の感染が懸念されます。部品工場から組立工場へ、組立工場から小売店へ、という物流が労働力不足で滞ってしまうと、すべての商品が品不足になってしまいます。
小売店に物が届かず、当然ながらネット通販も機能せず、ということになると、「高くても買いたい」という消費者が数少ない店頭商品に殺到することになるでしょうから、幅広い品目で価格が高騰する可能性があります。
工場は売り上げ減少に悩み、消費者は値上がりに苦しむ、というのは最悪の事態ですね。リスクシナリオとしては頭の片隅に入れておく必要がありそうです。
金融緩和がインフレを加速するかも
金融を緩和すればインフレになる、という学説がある一方で、これだけ緩和してもインフレになっていない、という現実があります。
筆者の理解は、金融緩和はインフレの原因とはならないが、インフレが起きた時にそれを加速する要因にはなり得る、というものです。
これまでは、インフレの火種がなかったので、燃料だけ十分にあったけれども温度が上がらなかった、というだけで、上記のような火種ができると燃料に点火してインフレが加速するかもしれません。
人々が「インフレが来そうだから、買い急ぎをしよう」と考えた時に、世の中に十分な資金がある場合の方が世の中の資金が乏しい場合よりも買い急ぎが容易でしょうから。
深刻な不況の時にインフレになると、災難としか言いようがありません。インフレ対策と景気対策の板挟みに遭うからです。本稿はリスクシナリオです。実現しないことを祈りながら、筆を置くこととします。
本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。
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