「中国標準2035」、技術覇権の次は国際標準化の覇権争いへ
LIMO / 2020年5月8日 20時15分
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「中国標準2035」、技術覇権の次は国際標準化の覇権争いへ
「中国製造2025」の後継計画の策定作業を完了
本記事の3つのポイント
中国はハイテク技術戦略をまとめた「中国製造2025」に次ぐ、中国の技術規格を国際標準化させる「中国標準2035」戦略を発表する
しかし、情報量は少なく、分かっているのは20年1月に第1次作業の完了報告会が開催された程度。今後1年かけて専門分野ごとの策定作業を行う
国内標準化を狙う分野は5G通信やAI対応監視カメラ、産業ロボット、自動運転など
米中貿易戦争の背景には中国のハイテク技術の台頭があり、両国の技術覇権争いは長期に及ぶものと考えられている。中国はハイテク技術戦略をまとめた「中国製造2025」という言葉を最近はあまり使わなくなったように思うが、次は中国の技術規格を国際標準化させる「中国標準2035」戦略を発表するものとみられる。この策定チームは先ごろ、2年に及ぶ準備作業を終えたばかりだ。今後、中国が国際標準を取りに来ると考えられる重点分野について考察した。
15年に「中国製造2025」開始
2013年に発足した習近平政権は2年後の15年に「中国製造2025」を発表し、「世界の工場」から脱却して世界水準の製品とサービスを生み出す「製造強国」への転換を目指す国家戦略を打ち出した。
文書のタイトルには「2025」とあるが、実際は中華人民共和国の建国から100年後にあたる2049年までのロードマップが示されている。25年までのステップ1で生産性とイノベーション力を十分に向上させ、35年までのステップ2で重点分野において技術ブレークスルーを果たし、ステップ3の50年までに世界トップに立つという長期目標が設定されている。わかりやすくいえば、ステップ1で世界の「上の下」、ステップ2で「上の中」、ステップ3で「上の上」にランクアップしていくというイメージだ。
「中国製造2025」では、世界の頂点に立つべく重点的に成長させる10大分野を指定している。半導体や5G通信設備などが含まれる情報・通信技術はその筆頭に挙げられ、中国はこの計画の発表以降、先端半導体の国産化の歩みを加速した。
「世界の工場」となった15年ごろから中国は「安かろう、悪かろう」のイメージから脱却し、ファーウェイ(スマホや通信機器)やレノボ(PCやサーバー)、DJI(民間用小型ドローン)など独自ブランドを世界マーケットに供給する企業が目立つようになった。この成長には当然、中国企業自身の努力もあったが、中国政府の優遇政策や補助金などに支えられていた側面も大きかった。それが18~19年に米中貿易戦争というかたちに発展し、「中国製造2025」戦略は再び世界の注目を集めるようになった。中国はその後、米国との摩擦を肥大化させないよう「中国製造2025」というフレーズを露骨にアピールしなくなった。
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21年に「中国標準2035」発表か
中国は15年、米国を除く世界に向けて中国経済圏を共同構築する「一帯一路」戦略も掲げた。中国国内で飽和しつつあるインフラ建設を周辺国に押し広げ、ASEAN諸国や中央アジア、東欧、南米、アフリカなどの社会インフラ構築を積極的に推進していく考えだ。この社会インフラ建設に沿って、中国スタンダード(中国標準)の技術を世界に流入していく狙いがある。
中国政府は、その中国仕様の標準(スタンダード)を制定するための「中国標準2035」プロジェクトを策定し、18年にその政策チーム(国家標準化委員会)を発足させた。「中国製造2025」によく似たネーミングであることから、「中国標準2035」はその後継計画とも考えられている。
しかし、グーグルでネット検索しても、「中国製造2025」のように多くの情報は出てこない。いや、中国版グーグルのバイドゥ(百度)で検索しても、出てくる情報はわずかだ。18年3月に国家質量検査局が中国工程院を中心にプロジェクトを発足させたことや、20年1月にこの第1次作業の完了報告会が開催されたことくらいだ。しかし、国家標準化委員会はすでに3月ごろに「2020年の国家標準化作業の要点」をまとめており、今後1年かけて専門分野ごとの策定作業を行う。おそらく、およそ1年もしたら「中国標準2035」戦略は正式に発表されることになるだろう。
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国際標準化は「守り」から「攻め」へ
国家規格は、どの国でも海外製品の流入から自国の産業を守るという側面を持つ。しかし、いま中国が取り組んでいるのは世界市場に打って出るために必要な「国際通用規格」づくり、つまり「守り」のためではなく「攻める」ためのツールだ。中国はすでに特許申請数で世界トップになり、18年には30年ぶりに標準化法を改正し、「知財強国」への転換を進めていることは明らかだ。
技術覇権競争とは、ハイエンド製品で世界マーケットのシェアを競い合うことだけではなく、自国の規格を世界の標準規格として普及させる争いでもある。技術覇権争いの行き着く先は、おのずとして標準化競争ということになる。中国もそう認識しており、改正した標準化法には「中国標準を国際標準にする」と明記されている。
技術力を向上させた中国企業が日米欧韓などのエレクトロニクス企業と国際市場で競合するようになり、「メード・イン・チャイナ」の製品は日常的に目にするようになったが、今後は「メード・イン・チャイナ」製品の世界浸透から「チャイナ・スタンダード」をかけた覇権争いが加速していくことになるだろう。
最近の事例では、新型コロナウイルスの対応でも中国は世界で最初に封じ込めに成功し、ウイルスの隔離や治療法に関する情報を海外に発信する立場になっている。世界の多くの国が中国の事例を学び、中国流の対策法を採用した。ワクチンが一般流通するようになるまでにしばらく時間がかかるが、ワクチン開発でも米中はしのぎを削っている。中国が世界に先駆けてワクチンを開発したら、そのワクチンが一種の国際標準として多くの国で迎えられる可能性もある。中国にとってこれは国際標準化に向けた大きなチャンスとなるかもしれない。
電子デバイス産業新聞 上海支局長 黒政典善
まとめにかえて
中国が推進するハイテク産業戦略が次のステージに移行しようとしています。当然のことながら、視線の先に対立する米国との覇権争いが念頭にあります。先ごろ米国商務省も軍事転用の阻止を目的に、さらなる規制強化を打ち出しました。新型コロナウイルスのパンデミックからいち早く立ち直った中国は今後、ますます世界での存在感を強めていく可能性が高そうです。
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