銀行の融資基準が新規先に厳しく、既存先にはそれほどでもない理由
LIMO / 2020年5月24日 20時0分
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銀行の融資基準が新規先に厳しく、既存先にはそれほどでもない理由
銀行の融資基準が新規先には厳しく既存先には甘いのは、銀行にとって合理的である、と筆者(塚崎公義)は考えています。
銀行の新規融資には、返済能力の厳しい審査が必要
銀行は、新規先から借入申込を受けた時には、返済能力に関して厳しい審査を行います。その上で、返済がほぼ確実と思われる先にだけ融資を実行します。
さらに、必要に応じて担保や保証を要求し、返済が確実に行われるためにできるだけの努力をします。したがって、貸出金利はそれほど高くありません。
余談ですが、一方で消費者金融は、大した審査をせずに気楽に金を貸しますから、貸し倒れも多いわけですが、それを補って余りある高い金利を課しているので、それはそれでビジネスになっているわけです。
これも余談ですが、筆者は銀行と消費者金融の中間的なビジネスが発展すれば良いと考えています。少しリスクがある先に少し高い金利で融資するビジネスですね。
既存の貸出先については基準が緩い
新規取引に際しては、厳しい審査が必要ですが、既存の取引先に対する融資の基準はそれほど厳しくありません。融資を実行する際の判断基準が新規先と既存先で異なっているのです。
たとえば既存の融資先が小幅の赤字に転落したとします。「新規先がこの決算書を持参したら、融資を断るだろう」と思いながらも、銀行は融資の借り換えに応じる場合が多いのです。
理由は色々ありますが、借り手が倒産すると「銀行の回収額が激減する」「銀行の評判が下がる」「地域経済に悪影響が出る」といったことを懸念するから、といったところが主でしょう。
「銀行の回収額が激減する」というのは当該借り手と銀行の1対1の関係を考えたものですが、「銀行の評判が下がる」「地域経済に悪影響が出る」というのは銀行とその他の借り手の関係も併せて考えよう、ということですね。
借り手の倒産で銀行の回収額が激減しかねない
銀行が赤字の借り手に対して期日通りの返済を求めると、借り手は現金がないために破産する、といったことになりかねません。
そうなると、まだ使える設備機械がスクラップ業者に二束三文で叩き売られたりするので、銀行の回収額は非常に小さくなってしまうかもしれません。
そうであれば、返済を待ってあげたり返済額と同額を融資してあげたりして、借り手の回復を待つ方が遥かに銀行の利益になる(損が減る)かもしれません。
今回の新型コロナ不況では、急激な売上の落ち込みで資金繰りに窮している借り手が多いのでしょうが、収束宣言が出れば比較的順調に売上が戻る企業も多いでしょう。それなら、なおさら借り手の回復を待つべきでしょうね。
銀行は「冷たい」という評判を気にする
一般に民間企業は評判を気にしますが、銀行も例外ではありません。借り手企業は取引銀行を決める時に、「あの銀行は、借り手が窮地に陥っている時には優しく見守り、必要に応じて救いの手を差し伸べてくれる優しい銀行だ」という評判の銀行を選びたがるはずですから。
したがって、ある企業を見殺しにしたことによって「あの銀行は借り手が窮地に陥るとすぐに見捨てる冷たい銀行だ」という悪評が立つと、他の企業が取引してくれなくなってしまうからです。
余談ですが、筆者は日米安全保障条約を心強く思っています。日本が外国に攻め込まれたら、米国が必ず守ってくれると思います。それは、もし米国が日本を見殺しにしたら、世界中の国が「米国は冷たいから、同盟関係を結ぶのはやめよう」と考えてしまうからです。
これは、銀行や米国が「良い人」だからではなく、「もっと稼ごうとガメツく考えればそうするはずだ」、ということですね。経済学では、暖かい心ではなく冷たい頭脳で考えることが大事ですから。
地銀にとって地域経済は重要である
地銀にとっては、地域経済の動向が極めて重要です。ある借り手を見殺しにしたことで失業が増えて景気が悪化し、他の借り手の業況も悪化してしまえば、新しい貸出が見込めなくなり、既存の融資も焦げ付いてしまうかもしれないからです。
一方で、借り手を見守り支援することで借り手が元気になれば、地域経済も元気になり、焦げ付きが生じにくくなるほか、新規の貸出需要も出てくるかもしれません。
メガバンクの場合には、地域の経済というわけではありませんが、企業グループという単位で考えれば、やはり似たようなことは言えるような気がします。
さて、以上は「見守って支援してあげれば回復が見込まれる借り手」に関する考察でしたが、借り手の中には「支援しても回復が見込まれない借り手」もあるでしょう。
そうした借り手については、支援が無駄だと考える読者も多いと思いますが、実はそうした借り手であっても支援することが銀行の利益になるかもしれません。そのあたりのことについては、次回詳述します。
本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。
<<筆者のこれまでの記事はこちらから(http://www.toushin-1.jp/search/author/%E5%A1%9A%E5%B4%8E%20%E5%85%AC%E7%BE%A9)>>
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