非正規5割が「ノー」と回答。”同一労働同一賃金”で格差は是正される?
LIMO / 2020年6月12日 19時15分
非正規5割が「ノー」と回答。”同一労働同一賃金”で格差は是正される?
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、私たちを取り巻く社会に大きな影響を与え続けています。緊急事態宣言が全国的に解除されたとはいえ、経済の見通しが立ちづらい状態は依然として続いています。業務縮小や倒産・廃業を余儀なくされる企業も多いようです。
独立行政法人労働政策研究・研修機構が、総務省統計局の「労働力調査(基本集計)」などの統計をもとに更新している「新型コロナが雇用・就業・失業に与える影響(https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/covid-19/index.html)」によると、2020年4月時点で完全失業率は増加傾向にあり、有効求人倍率は減少傾向にあるという結果が出ています。COVID-19による業績悪化が、じわじわと雇用に影響を与えていることがわかります。
そんな中、4月から「同一労働同一賃金」制度がスタートしました(中小企業は2021年4月から)。ただ、このような経済状況であることを考え合わせると、非正規雇用者の現実はいばらの道であることは想像に難くありません。今回は改めて、雇用形態による格差の問題について注目していきます。
非正規雇用者数と共働き家庭割合の割合
総務省統計局の「労働力調査(https://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/tsuki/index.html)」によると、2020年(令和2年)4月の非正規の職員・従業員数は2019万人で、正規の職員・従業員数は3563万人です。これを男女別で見てみると、
男性…正規2359万人(78.7%):非正規640万人(21.3%)
女性…正規1204万人(46.6%):非正規1379万人(53.4%)
このように女性は非正規雇用が過半数となっていることが分かります。また、独立行政法人労働政策研究・研修機構の共働き世帯に関する調査(https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/timeseries/html/g0212.html)によると、2019年現在、専業主婦世帯は575万、共働き世帯が1245万世帯となっています。女性の非正規雇用の多さには、共働き家庭の増加が関わっているのかもしれません。
1980年代、専業主婦の世帯は約1000万~1100万世帯、一方の共働き世帯は約600万~700万世帯でした。この割合は1990年代に入ると逆転し、現在では共働きの家庭が専業主婦家庭の2倍以上となっています。正規雇用で働くことが難しい状況の女性だけでなく、男性にとっても、非正規雇用をめぐる諸問題は共通しています。非正規雇用を選択する事情は人それぞれ。しかし、いったん非正規になると、その後は勤続年数が昇給や賞与に反映される機会が極めて少なくなる可能性があるでしょう。
非正規の給与事情
ここで国税庁の「民間給与実態統計調査(https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2019/minkan/index.htm)(※)」(令和元年9月発表)から、非正規雇用者の給与がどれくらいなのかをみていきましょう。
2013年…非正規168万円:全体平均414万円
2014年…非正規170万円:全体平均415万円
2015年…非正規171万円:全体平均420万円
2016年…非正規172万円:全体平均422万円
2017年…非正規175万円:全体平均432万円
2018年…非正規179万円:全体平均441万円
※参考:同調査(第5表)「1年を通じて勤務した給与所得者の1人当たりの平均給与」
直近6年間の流れで見ると平均給与は増加傾向にありますが、非正規の平均給与は全体平均給与の半分以下であることが分かります。経済が減速する情勢の中、非正規で雇用されている人は「同一労働同一賃金」の導入や格差の現状をどのように受け止めているのでしょうか。
「同一労働同一賃金」で実感する“雇用格差の現状”
4月から施行された「同一労働同一賃金」に関して、旅行サイトエアトリ(https://www.airtrip.jp/)が20代以上の男女914名を対象に、直前にアンケート調査(https://www.airtrip-intl.com/news/2020/3655/)を実施しています。まず、待遇差については非正規の74.7%が「正規社員の方が待遇が良く感じる」と回答しています。一方、経営者・事業主では55.4%、正規社員では51.6%にとどまりました。格差の感覚に関して20ポイント以上の差がついていることから、非正規雇用者だからこそ感じる不公平感があることがうかがえます。
さらに注目したいのが「同一労働同一賃金」導入についての「認知率」。全体的な認知率は69.9%だった一方で、当事者であるはずの非正規社員の認知率は65.0%となり、全体よりも低い数字となっています。そして、経営者・事業主も4人に1人は「知らない」と回答していたのです。
では、実際に3月の時点で、4月からの雇用契約には変更があったのでしょうか。「変更はなかった」「まだ分からない」と答えた人は76.5%。変更ありと答えた非正規雇用者をみると、「納得のいく変更」が12.0%だった一方、「納得のいかない変更」が11.5%となりました。
納得のいく変更内容
非正規でも、慶弔金や交通費支給、半休などの待遇が増えた。
ボーナス的なものの支給が決まった。
業務ができる人・できない人での賃金区別がついた。
納得のいかない変更
賞与の設定と引き換えのように、月収が減少した。
3年で仕事が切られる非正規が続出。
「準社員」という契約になったが、賃金は微増で負担は大幅に増えた。
現在担当している業務に加えて、正規社員が担当していた業務をすべて引き継ぐことになったのに、時給のアップは20円。
改善された部分がある一方で、このような不満の声も上がっているようです。
これで格差は是正されるのか?
「同一労働同一賃金」の導入により、正規・非正規の格差は是正されていくのでしょうか。アンケート結果によると、非正規雇用者で「思わない」が55.3%で、「思う」は7.8%となり、肯定的な意見は1割以下。法律的には整備されても、働く人の実感が伴っていない現状が如実に表れる形となりました。さらなる景気の悪化が懸念されるこんにち、内定取り消しや雇い止めなどの問題にみられるように、雇用環境はかなり厳しい状況が続くことが想定されます。
まとめ
COVID-19の感染拡大により、多くの人の健康や生命が危険にさらされる日々が続いています。経済活動の縮小にともなう雇用環境の悪化は、ときに人の命を左右するほどの力を持ってしまうことも。抜本的な感染症対策はもとより、雇用と収入を適正に解決していく方法を、社会全体で模索していく必要があるかもしれませんね。
【参考】
「新型コロナが雇用・就業・失業に与える影響(https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/covid-19/index.html)」独立行政法人労働政策研究・研修機構
「労働力調査(https://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/tsuki/pdf/gaiyou.pdf)(2020年5月29日公表)」(6月10日閲覧)総務省統計局
「専業主婦世帯と共働き世帯(https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/timeseries/html/g0212.html)」「早わかり グラフでみる長期労働統計」独立行政法人労働政策研究・研修機構
「平成30年分民間給与実態統計調査結果について(https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2019/minkan/index.htm)」国税庁
「『同一労働同一賃金』に関するアンケート調査(https://www.airtrip-intl.com/news/2020/3655/)」エアトリ
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