不良債権の激増で、銀行は「ゼロ成長、ゼロ金利、コロナ不況」の三重苦に
LIMO / 2020年6月21日 20時0分
不良債権の激増で、銀行は「ゼロ成長、ゼロ金利、コロナ不況」の三重苦に
銀行は長引くゼロ成長とゼロ金利に加えてコロナ不況による不良債権増で苦しい状況だ、と筆者(塚崎公義)は考えています。
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新型コロナ不況の深刻化にともなって、金融危機の発生を心配する人が増え始めているようです。そこで、リスクシナリオとして金融危機を考えるシリーズを記すことにしました。第2回の今回は、銀行の置かれている苦しい環境についてです。
ゼロ成長で銀行のビジネスは縮む
一般企業にとって、日本経済がゼロ成長だということは、昨年と今年で売り上げも生産量も利益も同じだ、ということです。しかし銀行にとっては、そうではありません。
一般企業が稼いだ利益は、一部が配当され、残りは銀行借入の返済に充てられるからです。銀行の融資残高は経済がゼロ成長だと減ってしまうのです。
プラス成長であれば、能力増強投資のための設備投資資金の貸出が増加するわけですが、ゼロ成長だと維持更新投資が行われるだけなので、その分の資金は減価償却で賄われてしまうわけです。
融資残高の減少を補うために、銀行は貸出金利を下げてライバルから客を奪おうとしますが、ライバル行も同じことを考えるので、両行ともに貸出金利が下がるだけで客数は増えません。結局、融資残高減少と貸出金利低下のダブルパンチとなるわけです。
優良な借り手企業に対する金利の引き下げであれば、まだ問題は軽微です。せいぜい金利ですから。問題は、「借り手の返済能力が今ひとつだが、それがゆえに高い金利で借りてくれる企業」への貸出が増えてしまっている可能性です。
景気が良い時には、そうした企業も返済に困らないので、問題が表面化して来ませんでしたが、もしかすると今次不況でそうした企業が次々と倒産してしまう可能性もありますね。そうなると銀行の損失は金利ではなく元本になりますから、影響が深刻化するかもしれません。
なお、直近では、銀行貸出が増えているようです。しかし、それは決して明るい話ではありません。「売上減少で資金繰りに困った企業が泣きついてきたので仕方なく金を貸した」というケースも多いでしょうから、むしろ心配な話と言えるでしょう。
ゼロ金利で預金部門のコストが持ち出しに
通常では、預金部門が集める預金の金利は市場金利(他の銀行から借りるときの金利)より低いので、預金部門の諸コストを払っても、金融市場から資金を調達する(他の銀行から借りる)よりは安上がりです。しかし、銀行間の資金貸借の金利がゼロとなっている「ゼロ金利時代」には、預金部門のコスト分だけ持ち出しになってしまいます。
それならば、預金部門を廃止してしまえば良いかというと、それはできないのです。「将来市場金利が高騰した時に困る」というだけではなく、「借り手の預金口座を見ることで売り上げ代金が順調に振り込まれているか否かを確認することができるのに、それができなくなる」といった問題もあるからです。
ゼロ金利が長引くと、預金部門のコストが重くのしかかり続けます。せいぜい「顧客に退職金が振り込まれた時に投資信託の勧誘をすることができる」といったメリットを活かして少しでもコストの回収を試みるしかありませんね。
この点については、拙稿『ゼロ金利でも銀行が預金部門を廃止できない理由(https://limo.media/articles/-/15458)』をご参照いただければ幸いです。
新型コロナ不況で不良債権が激増する見込み
今次不況は飲食店等々にとって厳しい資金繰り難となります。政府が様々な支援策を用意していますが、周知徹底の度合いが心配なことと、手続き等に時間がかかることも心配です。
銀行が従来の基準で取引先を評価するとすれば、「到底貸せない先」が著しく増えるでしょうから、倒産の多発は免れないでしょう。倒産しなくても、延滞が多発して銀行の不良債権となるでしょうから、銀行は引当金を積む必要が出てきます。
それにより、銀行の決算は大幅に悪化するでしょう。長期にわたるゼロ成長とゼロ金利でボディブローのように苦しめられてきているところに激烈なパンチを食らった、という感じですね。
金融庁や日銀等々がしっかり見ているでしょうから、銀行が倒産することはないと信じていますが、金融が怖いのは倒産するかもしれないと人々が思うことで取り付け騒ぎが発生しかねないということです。取り付け騒ぎに関しては、次回詳述することにしましょう。
維持更新投資が減価償却で賄われる理由(初心者向け解説)
以下は、減価償却に関する初心者向けの解説です。設備機械の購入代金は、購入時に費用とされるのではなく、減価償却という作業が行われます。製品を100万個作れる設備機械を100万円で買ったとすると、製品を1個作るごとに1円分の機械が磨り減ると考えて、生産時に1円の費用を計上するわけです。
製品を売る時には、材料費や人件費に1円だけ上乗せして売ることになります。機械が磨り減った分は客に負担してもらう必要がありますから。
本当は利益も上乗せするのですが、ここでは利益のことは考えないようにしましょう。そうなると、決算上は利益がゼロになります。売値から材料費と人件費と機械磨り減り代を差し引くとゼロですから。
しかし、現金は手元に1円残ります。機械を買った時に代金は支払っているので、磨り減った時には現金は出て行きませんから。こうして、100万個の製品を作り終わった時には手元に100万円の現金が残りますから、銀行から借金しなくても壊れた機械を買い換えることができるわけです。
本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。
<<筆者のこれまでの記事はこちらから(http://www.toushin-1.jp/search/author/%E5%A1%9A%E5%B4%8E%20%E5%85%AC%E7%BE%A9)>>
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