幼児の車内置き忘れ事故の悲劇、「やっぱり父親じゃダメ」と言わないで!
LIMO / 2020年6月24日 10時0分
![幼児の車内置き忘れ事故の悲劇、「やっぱり父親じゃダメ」と言わないで!](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/toushin1/toushin1_17930_0-small.jpg)
幼児の車内置き忘れ事故の悲劇、「やっぱり父親じゃダメ」と言わないで!
茨城県つくば市内で6月17日、在宅勤務中の父親が2歳の次女を熱中症で死なせてしまう悲しい事故が起きました。父親は車で長女を小学校に送った後、次女を保育園に預けることを忘れ、そのまま帰宅して仕事をしていました。約7時間後に長女を小学校に迎えに行った際に、車内でぐったりした次女を発見したそうです。
このニュースが報道されると、「ありえない」と父親に対する批判が多く集まりました。たしかにいくら仕事が忙しいとしても、我が子を車に置いたままにして死なせてしまった結果は一般的には信じがたい出来事かもしれません。しかし、父親を責める前に考えてほしいことがあります。
「やっぱり父親に育児は無理」という風潮は子育て世代にマイナス
その日、母親は朝早く仕事に出かけていたため、在宅勤務中の父親が長女を小学校へ送り、次女を保育園へ送るはずでした。
仕事で忙しい夫が保育園の送迎に常にノータッチのため、2歳の息子をワンオペ育児しつつ在宅勤務で働く筆者と同じ状況です。筆者は子どもが1人ですが、この父親は子ども2人の子を見ながら仕事をしていたのだから感嘆してしまいます。
今回のような車への置き忘れに限らず、父親と一緒に出かけた海や川で子どもの死亡事故が起こると、「母親と違って父親は危機管理が足りない」「男に育児は無理」といった声が少なからず出てきます。しかし、こうした論調は建設的とは言い難いもの。というのは、男性の育児離れをどんどん加速させかねないからです。
今でこそ口にしなくなりましたが、以前は筆者の夫も、子どもの世話を任せると口グセのように「男だからこれはできない」「子どもは父親ではなく母親じゃないとダメ」と言っていました。
「僕」という一人称ではなく、「男」や「父親」という言葉を使っていた夫を見ても、個人の経験や能力、やる気ではなく、世間の風潮や先入観で育児を捉えていたことは明らかです。
父親による子どもの事故について、男女差や夫婦による役割分担の視点から語ることは、「やっぱり男性に育児はできない」という世間の空気を醸成し、これからの育児をより困難にする流れを助長するものでしかないと感じてしまいます。
どんなにマルチタスクが得意な人でもアクシデントは起こり得る
取り調べの中で父親は、「仕事のことを考えていて保育園に送るのを忘れた」「保育園に預けたつもりだった」といったことを話しているといいます。
筆者はこの言葉を聞いた時に、ハッとしてしまいました。自分では、仕事とワンオペ育児、さらには家事というマルチタスクをこなしていると考えていた筆者でさえ、仕事のことを考えていて日常の物事を忘れてしまうことはゼロではないからです。
在宅勤務中、洗濯をしていたことを忘れて仕事に没頭し、干さないまま数時間も洗濯機の中に洗濯物を放置してしまう。保育園に持っていく持ち物や提出物を忘れてしまう。子どもと一緒にベビーカーで出かけ、大きな荷物を抱えて帰宅した際に、子どもを数分間だけ玄関前でベビーカーから降ろし忘れたこともあります。
荷物を家に置いた後に子どもを家に入れようと思っていたものの、仕事の電話や急な来客などが重なり、それらを終えて一段落した後に子どもの存在を思い出したのです。当時はひどい寝不足だったため、集中力や思考力が落ちていたことも原因の一つだったかもしれません。
どんなにマルチタスクが得意でも、毎日のルーティンがあっても、育児を頑張っていても小さなミスは絶対に起きます。今回の事故については批判ではなく、「どんな人にも小さなミスは起きてしまうから、そのための対策をする」という育児の大前提を再認識することが求められていると思います。
自分事として考えることが悲しい事故を繰り返さないことにつながる
緊急事態宣言が解除されてもなお、新型コロナウイルス感染拡大防止のため可能な限り登園自粛をお願いしている保育園は少なくありません。
通常であれば連絡なく欠席をした子どもについて家庭に確認の連絡を入れている園でも、今はその連絡が流動的になっているところもあるでしょう。しかしこうした事故が毎年のように起きていることを考えると、これから熱中症の可能性が高まる夏に向けて、連絡のない欠席については園が必ず家庭に連絡することも必要になってくると思われます。
さかのぼれば2016年7月、栃木県で2歳の男児が父親の運転する車の中で熱中症により亡くなる事故が発生しています。父親は保育園に預けるのを忘れ、勤務先の駐車場に次男を乗せた状態で車を駐車。約8時間後に妻からの電話で車内に次男がいることを思い出したそうです。
父親による車内置き忘れ事故が頻発しているような印象のため、今回の事故についても、メディアなどでは「また父親か」といった声が多数見られました。
しかし、2017年には宮城県で祖母が、同年には山口県で母親がそれぞれ子どもを車内に置き忘れて死なせてしまう事故は起きています。性別に関係なく、こうした事故は起こり得ることを肝に銘じておく必要があるはずです。
「子どもを車に置き忘れてしまう可能性は自分にもある」という認識を本気で持つかどうか。「自分だったら絶対にありえない」「この父親はおかしい」と責めるよりも、よっぽど事故を繰り返さない現実的な対策になるのではないでしょうか。
【参考資料】
「つくば女児死亡 『保育園預け忘れた』 仕事忙しかったと父親(https://ibarakinews.jp/news/newsdetail.php?yj=15924669416071)」(茨城新聞クロスアイ 2020年6月19日付)
「2歳児を保育園に預け忘れ、車内に8時間放置して死なす 『仕事のことを考えていた』と言うけれど…(https://www.sankei.com/premium/news/160807/prm1608070023-n1.html)」(産経ニュース 2016年8月7日付)
「民家の車内で3歳男児死亡 祖母が失念か、仙台(https://www.sankei.com/affairs/news/170802/afr1708020028-n1.html)」(産経ニュース 2017年8月2日付)
「車内に乳児5時間半放置…熱射病で死亡 容疑で23歳母親を逮捕 山口県警(https://www.sankei.com/west/news/170512/wst1705120116-n1.html)」(産経WEST 2017年5月12日付)
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