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”どこから買っても同じ”胡蝶蘭ビジネスを差別化できた「障害者雇用・社会貢献」のストーリー

LIMO / 2020年7月4日 8時0分

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”どこから買っても同じ”胡蝶蘭ビジネスを差別化できた「障害者雇用・社会貢献」のストーリー

NPO法人AlonAlon 那部理事長に聞く(後編)

「障害者雇用」という社会課題を、胡蝶蘭ビジネスで解決することを目指している「NPO法人 AlonAlon(https://www.alon-alon.org/)」那部智史理事長へのインタビュー。

前編(https://limo.media/articles/-/18008)では、重度の知的障害のある息子を持つ那部氏が、売上400億円規模のネットビジネスを売却して社会起業家となった経緯、そして障害者雇用と胡蝶蘭ビジネスを結びつけるきっかけについて聞きました。

後編では那部代表が打ち出す「ストーリー」による差別化戦略と、コロナショックを乗り越える工夫についてお伝えします。

ファンになってリピートしてもらう「ストーリー戦略」

大竹:皆が社会課題だと思うことを解決すれば、ファンや応援団になる方が増えるでしょうが、支援などに頼るだけでは持続できないのではないかと思います。

那部:社会課題の解決はずっと続けていかなくてはいけません。お金持ちからの単なる富の移転で始まった場合、それはビジネスではないので、資金が途絶えたら事業が頓挫してしまいます。それでは意味がないので、「エコシステム」にする必要があると考えています。

大竹:事業そのものが補助に頼らず収益力を確保できるモデルが必要ですね。

胡蝶蘭を実際に贈答品として利用していた私としては、実際にどのような花が贈られているのかはモノを見たことがありませんでした。つまり金額だけでしか価値を認識できないわけだったのですが、胡蝶蘭の贈答ビジネスというのは、ほとんど差別化要素がなかったと思います。

企業からの注文を受ける中で、どのような違いを打ち出したのですか?

那部:個別に営業をして、契約成立後はインターネットやカタログからFAXで注文を受けていきます。応援してくださる方が数十人いて、カタログを配ってくれています。

ライバルは大手の花き販売会社ですが、購入してくれそうな企業にお邪魔して「名の知れた花屋さんの包装紙と、障害者雇用を生んでいるというストーリーのどちらが大切ですか?」と社長やご担当者にお聞きすると、ほぼ100%の受注できます。

(/mwimgs/d/9/-/img_d9fd97b63f653eb7abc6ff136ded3d0d146282.jpg)

拡大する(/mwimgs/d/9/-/img_d9fd97b63f653eb7abc6ff136ded3d0d146282.jpg)

AlonAlonウェブサイトより

大竹:その通りだと思います。実際に私も、障害者雇用を生み出すことで社会課題を解決しているAlonAlonの胡蝶蘭にすべて切り替えました。

贈る花には社会課題への取り組みを支援しているメッセージも添えられていて、他社との違いが打ち出されています。もう他社に戻ることはないですね。つまり、完全にストックビジネスになると思います。

継続率はストックビジネスの根幹ですので、このストーリーのある胡蝶蘭ならば継続率はこれからも高いだろうと思うと、このストーリーこそAlonAlonの強みだと思います。

花持ちがいいという商品力を生み出す直販体制

那部:あと、少し話が変わりますが、うちの胡蝶蘭自体にも花持ちが良いという商品力があります。

大竹:特殊な栽培をしているんですか?

那部:いいえ、直販がその理由です。胡蝶蘭の99%は花き市場への卸売販売なのですが、胡蝶蘭の花の寿命は2~3カ月なのでお花屋さんの倉庫で在庫として保管される可能性があります。

大竹:直販だと保管期間がないから花持ちが良い。

那部:はい。実は、誰もが知っている大手音楽系企業さんから、胡蝶蘭を指名で発注をいただいています。

というのは、以前、会社に届いた胡蝶蘭で1カ月後に花が一輪も落ちなかった3鉢が同じブランドだった……ということで、社長命令で秘書の方からうちに連絡があり、それからずっとご注文をいただいています。

大竹:福祉の世界では全く新しいストーリー性がありながら、花落ちしない商品力……本当によく考えられた仕組みですね。 

コロナショックで需要が蒸発! 個人向けにシフト

大竹:万全の仕組みとはいえ、新型コロナウイルスの影響は当然あったと思います。

那部:会社間のお祝い需要が突然蒸発してしまったので、これはさすがに花が余ると考え、法人がダメなら個人向けに!とクラウドファンディングに動きました。

通常、贈り物にする胡蝶蘭は3本立てですが、家庭では大きすぎます。それで本数を減らして1本立てで「母の日」需要を目指しました。

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拡大する(/mwimgs/6/5/-/img_6594a4a5c6d09fc0737d8ac7e557aedd113293.jpg)

クラウドファンディング「CAMPFIRE」より

大竹:個人消費者への販売経験はあったんですか?

那部:ありません!(笑)

大竹:でも、1本立てと言いながらすごく豪華で大好評ですね。

那部:1万円相当の花を5千円で販売したこともありますが、おかげさまで多くのお客様からご賛同を得られました。これからも個人のお客様に向けた商品開発をしていきます。

大竹:ITの仕組みを上手に活用されながらも、人間味が感じられて心にグッときて応援したくなりますね。

胡蝶蘭ビジネスの根底にある理念

大竹:売上100億円というのが数値目標だということですが、最後にAlonAlonの理念についてお聞かせください。

那部:ちゃんと皆が同じように職に就ける、経済的な安定を図れる世界――「どんな人も置き去りにされない社会」が、理念的な目標ですね。

以上、ストックビジネスアカデミー(http://otaketakahiro.com/jissen?fbclid=IwAR3rLHW3Ja4zlZqOfL2GMsJ_1EI8NJK2GgpuRYv_DFp9HvnIpUyvEPApZZc)発刊、実践企業インタビューより一部抜粋

対談から得たビジネスヒントのまとめ

私も友人や取引先の開店などの折に、何度となく胡蝶蘭を贈っていました。いわばこれは日本の商習慣に近いものがあります。その時、私は胡蝶蘭のお店を意識したことがありませんでしたが、たぶんほとんどの方が同じ感覚ではないでしょうか。

贈答品は本来お祝いの「思い」を贈ることが本質的な価値です、そこに気づけば今回の事例を表面ではなく本質的価値の次元で解読できると思います。

私がこの胡蝶蘭ビジネスの話を聞いたのは、ある交流会でした。そもそも花というものは美しさで喜びを与える価値がありますが、必ず枯れしまう。そのビジネスの根底にあるのは、自家消費に基づく「消費・劣化」モデルです。そこをベースにしてサブスクリプションを実現すると大きなストックビジネスになる。

一方、胡蝶蘭ビジネスは贈答商品であり、美しさで喜びを得たい人の自家消費ではありません。ところが、AlonAlonの話を聞いた時に一瞬でこのビジネスは成功する、ストックビジネスになる要素があると感じました。

ある事象(お祝い事)が起これば、必ず発生する消費(胡蝶蘭贈答)。このある事象が定期的に発生するならば、そして、ここに市場規模が存在するならば、リピート率を高める設計次第では素晴らしいストックビジネスの可能性があります。

そこで、他社と圧倒的に違う何かと、リピート率を高める何かがあればいい。AlonAlonの場合は「ストーリー」によるファン化と、「長期間花持ちする高品質」でそれを実現しました。

多くの人が疑問を感じることへの解決、購入すること自体を社会貢献として見える化して、心理的には未来への投資という長期的価値を提供する。ここまででも、ストック思考の事例として気づきが大きいと思います。

さらに、那部代表はこのビジネスを作る順番にこだわりました。まず市場規模を測ったうえで、自分自身が販売できる量の確保をいち営業マンとして4年かけて検証しているのです。

市場を確認

需要と供給と立ち位置を確認

差別化となるストーリーを作る(これは作りものではなく心から社会に必要だとして実行した結果です)

直販により花持ち期間が長い高品質を実現

あえてビジネス視点に寄せて解説しましたが、この経緯をビジネス視点だけで解説することは申し訳ないと思います。なぜなら、AlonAlonの取り組みは日本の福祉が抱える問題解決であり、次世代への贈り物だからです。

私は、社会課題の解決という壮大なテーマに挑むAlonAlonをこれからも応援し続けたいと思います。読者のみなさんにとって本稿が事業拡大のヒントとなれば幸いです。

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