銀行に貸し渋りされた企業の運命~他行を当てにできないのはなぜ?
LIMO / 2020年7月19日 20時0分
銀行に貸し渋りされた企業の運命~他行を当てにできないのはなぜ?
コロナ不況のリスクシナリオ
銀行に貸し渋りされた企業は他行から借りれば良いというのが理屈ですが、それは実際には容易ではない、と筆者(塚崎公義)は考えています。
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新型コロナ不況の深刻化にともなって、金融危機の発生を心配する人が増え始めているようです。そこで、リスクシナリオとして金融危機を考えるシリーズを記すことにしました。第5回の今回は、貸し渋りを受けた企業の運命です。
コロナ不況で銀行が貸し渋りをする可能性あり
新型コロナ不況が深刻化すると、倒産が増えて銀行が赤字になり、自己資本が減って貸し渋りをするかもしれません。それは銀行が自己資本比率規制を課されているからです。そのあたりについては前回の拙稿『コロナ不況で銀行の貸し渋りは避けられない? 金融危機のリスクシナリオ(https://limo.media/articles/-/18168)』をご参照いただければ幸いです。
「貸し渋りを受けた企業は、他行から借りれば良い」と考える読者も多いでしょうが、理屈上はそうであっても実際問題としては、それは容易なことではないのです。
新規取引先については返済能力をじっくり調べる
銀行は、既存の融資先については状況がわかっていますから、融資に際しても最近の状況が激変していないことを確認するだけで簡単に融資を実行できます。
しかし、新規の取引先から借入の申し込みを受けた場合には、企業の返済能力をしっかり調べる必要があるので、融資の実行までに時間がかかります。
A銀行から貸し渋りをされたのでB銀行に借入を申し込んだ、という場合には、多くの中小企業が同様にB銀行に殺到している可能性もあります。そうなると、順番待ちで長い時間がかかる場合もあるでしょう。
待たされている間は材料仕入れ資金がないので生産が止まってしまい、倒産してしまう中小企業も多いかもしれませんね。
他行も苦しい場合が多い
A銀行が特殊要因で自己資本不足に陥って貸し渋りをしている場合はB銀行に余力があるでしょうが、不況による自己資本減少の場合には、B銀行も似たような状況にあるでしょうから、B銀行にも余裕がない場合が多いはずです。
そうなると、B銀行は従来の取引先への融資だけで手一杯で、新しい取引先に融資することができないかもしれません。
新規融資の基準は既存顧客より厳しい
既存顧客が小幅の赤字に陥った時、銀行は返済を無理強いせずに借り手の回復を待つ場合が多いようです。
無理に返済させて借り手が倒産してしまうと、設備機械が二束三文でスクラップ業者に叩き売られたり、企業が持っている技術やノウハウや信用などが雲散霧消してしまうので、わずかな額しか回収できないからです。それなら回復してから全額回収することを目指そう、というわけですね。
借り手が倒産した場合に、他の借り手が「あの銀行は冷たい。別の銀行と取引しよう」と考えて逃げてしまう、というリスクもあるので、無理強いは危険だ、ということも言えそうです。
借り手の小幅赤字が減価償却に起因するものであれば、決算は赤字でもキャッシュフローは黒字でしょうから、それで一部でも返済させる、という選択肢もあるはずです。その方が設備がスクラップされるより回収額が多くなるかもしれませんから。
このように、小幅赤字の企業は既存の取引銀行からは融資を続けてもらえる可能性が大きいわけです。しかし、ひとたび取引銀行から貸し渋りを受けてしまうと、別の銀行から新規融資を受けるのは極めて困難です。だから貸し渋りが問題なのです。
銀行が倒産すると問題が深刻化
銀行が貸し渋りを余儀なくされた場合、小幅赤字の借り手は貸し渋りの対象から除外しようと努めるかもしれません。小幅赤字の借り手は、「貸し続けていれば倒産しないだろうが貸し渋れば他行から借りられずに倒産しかねない」からです。
それならば、「貸し渋りをしても他行から借りられるので倒産しないであろう優良企業」に貸し渋りをした方がマシだ、という判断もあり得るからです。このあたりは銀行の方針もあり、ケース・バイ・ケースでしょうが。
ところが、銀行が倒産して清算されることになると、小幅赤字の借り手も返済を強要されることになりますので、倒産してしまう可能性も高いでしょう。地域金融機関が破綻すると、その地域の多くの小幅赤字企業が一斉に倒産してしまうことにもなりかねません。そうなると地域経済への影響が深刻ですね。
そうならないように、政府は日頃から銀行にハイリスク・ハイリターン業務をさせないように規制をしたりしているわけですが、今回のような深刻な不況が来ると、安全運転をしている地域金融機関も安泰とは言えませんから、そうした可能性もリスクシナリオとして頭の片隅に置いておく必要がありそうです。
以上色々と記して来ましたが、本シリーズは予測ではなくリスクシナリオですので、リスクの存在を頭の片隅に置いておこう、ということであって、過度な懸念は不要です。
本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。
<<筆者のこれまでの記事はこちらから(http://www.toushin-1.jp/search/author/%E5%A1%9A%E5%B4%8E%20%E5%85%AC%E7%BE%A9)>>
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