コロナを抑え込んだニュージーランドの留学事情〜国境封鎖で教育面・経済面両方のメリットを失うことに
LIMO / 2020年7月17日 19時0分
コロナを抑え込んだニュージーランドの留学事情〜国境封鎖で教育面・経済面両方のメリットを失うことに
ニュージーランドは2018年、1年間で約12万人の留学生を受け入れました。治安も良く、素朴でフレンドリーな国民、緑豊かな自然環境など、留学生が安心して楽しく学ぶのにぴったりの国です。
そのため、例年、日本人を含め多くの国の若者がやって来ます。留学中、この国に馴染み、皆、ニュージーランドと母国の架け橋となって帰国します。
しかし、今年はわけが違います。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が発生・拡大したからです。同ウイルスは社会の至るところに影を落としています。留学もその1つ。ニュージーランドと各国の交流が妨げられただけではありません。国内経済にも大きな影響を与えています。
入国したものの、あっという間に国境封鎖
ニュージーランドでは、新学年は夏休みを終えた2・3月に始まります。留学生は暮らしに慣れるよう、夏休み中に到着するのが一般的です。今年も留学生たちは例年通りのスケジュールでやって来ました。しかし間もなく新型コロナウイルスが、楽しいはずの学生生活を妨げることになります。
人口わずか7万人という筆者が住む小都市でも、毎年留学生をホストしています。大学はないので、留学生は高校生が主です。夏休み中の1月に入国し、2月の頭から留学生活をスタートさせたものの、3月20日には国境が封鎖されました。
これは、ニュージーランド国籍保有者・在住者以外は入国が禁止ということを意味します。国境封鎖は現在も継続中です。
”コロナを封じ込めた国” ニュージーランド
相次いで今度は高校をはじめとする学校が閉鎖になりました。3月26日から5月18日までと、2カ月に少し欠ける長さの間、滞在している留学生も自宅待機となりました。短期留学生はまったくこれでは勉強にならず、早々に帰国する一方で、長期留学生の多くは帰国せず、ホストファミリー宅に留まりました。
母国に帰るチャンスがなかったわけではありません。日本人長期留学生に話を聞くと、親御さんたちは、「心配だから早く戻りなさい」ではなく、「ニュージーランドの方がきっと安全だから」と口をそろえ、帰国に待ったをかけたそうです。
新型コロナウイルスに感染する可能性は、ニュージーランドの方が少なくて済むと判断したのでしょう。ニュージーランドの留学先としての従来の魅力に、今回は「コロナを抑制した国」という強みも加わったようです。
留学生がいなければ、文化交流も止まる
短期と長期のちょうど間ぐらいの期間、半年の予定でやって来た留学生も、7月初めに母国に戻っていきました。留学生が在籍したことで、他文化を許容する姿勢や、人種を超えた友人関係についてを、在校生もずいぶん学びました。
留学生の数がもうわずかになった今、留学生クラスのある校舎は静まりかえっています。国境封鎖もすでに4カ月近く続いており、今度いつ留学生がやって来るのだろうかと在校生は漠然とした寂しさを抱えているようです。
国境封鎖が継続する限り、人の行き来はなくなります。海外の文化と生で接し、交流を行うのは不可能です。インターネットを通したり、VRを経験したりすれば、疑似体験はできるでしょう。でも、実際の経験にはかないません。
国境封鎖で失うのは文化交流に留まりません。留学生を受け入れてきた学校や国は財源を失うことにもなるのです。
財源を失っても、国境封鎖続行
2018年の留学生は約12万人。この数は前年と比較すると全体で6%減となっています。
しかし、授業の質が高くない教育施設を閉鎖し、永住権目当てに学生を装う入国者を食い止めた結果、人数が減ったとクリス・ヒプキンス教育相は話しています。過去6年間で初めて、大学で学ぶ留学生数が約3万2000人になり、私立専門学校への留学生数を上回りました。
留学者数は減っていますが、授業料として国にもたらされた収入は11億6000万NZドル(約812億円)に増えました。これは前年比で6%増になります。学生1人あたりにすると、約960NZドル(約6万7000円)増えていることになります。
留学者の授業料がニュージーランド経済上、重要な位置を占めることはヒプキンス教育相も認めるところです。それでも、政府は断固として国境封鎖をやめないと明言しています。
一方、7月に入って、留学生が学ぶ教育施設の1つである大学では、学内で隔離ができるよう施設の整備をするなど、学生の受け入れの準備を始めています。どんな思惑があるのでしょうか。
チャーター機を飛ばしてまで来てほしい留学生
「全大学で来年、合計で約4億NZドル(約280億円)の損失が出ることになるだろう」と、国内の全大学を代表する組織、ユニバーシティーズ・ニュージーランドの最高責任者、クリス・フェラン氏は語気を強めます。
国境封鎖がこれ以上続くことになれば、受け入れ先となる大学などの教育施設だけでなく、国全体で約50億NZドル(約3500億円) と、雇用約4万5000人が失われると言われています。
大学側は政府が受け入れの際に満たすべき基準を示してくれれば、それに従う旨を表明していますが、ヒプキンス大臣は、国内には全留学生が隔離を行えるだけの施設がないと言い張ります。
それに対し、どの大学も学生寮を使って、厳しい隔離を行うことが可能だと主張します。24時間体制で毎日、隔離中の留学生がきちんとルールを守って隔離しているか確認できると言います。
首都ウェリントンにあるビクトリア大学は、市内のほかの教育施設と共同で留学生を連れてくるためのチャーター機を飛ばすことまで画策しています。
留学生には安全かつ簡便にウェリントンまで来てもらい、そのまま2週間の隔離を経て、正式にキャンパスで学生生活を始めてほしいという考えです。大学にとって、留学生がもたらす授業料はのどから手が出るほど入ってきてほしい収入であることが見てとれます。
ニュージーランドで勉強したい留学生たち
こうした大学のラブコールに応えたわけでもないでしょうが、ニュージーランドへの留学を考える海外在住の学生はこのところいつも以上に増えています。新型コロナウイルスがうまく抑制されていない国の学生からは特に熱い視線が送られていると言います。
オークランド・ユニバーシティ・オブ・テクノロジーでは、入学を目的とした問い合わせが、世界中でパンデミックになってから倍に増えたそうです。ほかの大学でも同様の傾向が見られるようですが、本当にコロナがこの風潮に影響しているかどうかはわからないといいます。
エデュケーション・ニュージーランド(ENZ)は毎年全国約1000人の大人に対し、国際教育についての意識調査、「ニュージーランド人の国際教育に対する考え方」を行い、報告書としてまとめています。ENZは、ニュージーランドの教育の良さを世界に広める活動を行う、政府公認機関です。
2019年版の調査報告書には、国際教育が国にプラスになっていると考える人は58%、地域レベルでもプラスになっていると考える人は51%に上ることが記されています。
お金なしには、良い施設を用意し、優秀な教師陣を揃えられないことはわかります。それでもやはり、この国にはない文化や習慣を持つ留学生との交流には、お金では買えない価値があるのではないでしょうか。
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