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レジ袋有料化施策に意味はある? プラごみ削減と環境意識の向上につながるのか

LIMO / 2020年7月26日 10時0分

レジ袋有料化施策に意味はある? プラごみ削減と環境意識の向上につながるのか

レジ袋有料化施策に意味はある? プラごみ削減と環境意識の向上につながるのか

7月から有料化されたことで話題になっているレジ袋は、何からできているのでしょうか? レジ袋はその便利さから大量に使われていますので、皆さんご存知でしょう。そう、ポリエチレンという化学物質です。

とはいえ、レジ袋についてある程度化学的に説明できる人は、そう多くないのではないでしょうか。レジ袋に限らず、身の回りでこれだけ化学製品や化学物質が使われているのに、意外と化学的な“からくり”を知らないで使用していることが多いように思います。

理屈はともかく、使えればいいのかもしれません。しかし、身の回りの生活と化学が遠く離れてしまっていることは、決していいことではないと、有機合成化学を専門として大学教育に関わってきた筆者は思います。この「かい離」が、環境問題への意識が高まらないことにつながっている可能性もあります。

そこで本稿では話題のレジ袋について、その化学をできるだけやさしい言葉で説明し、少しだけ環境問題について考えてみたいと思います。

化学物質としてのポリエチレンとエチレン

ポリエチレンのポリは高分子・ポリマー(Polymer)のポリです。原料のエチレンは気体で自然界にも存在する果物などが熟す時の植物ホルモンで、輸入したばかりの青いバナナを黄色くするのに使われます。

買ってきた黄色のバナナや熟したリンゴと一緒に、新鮮な野菜や果物を冷蔵庫に入れておくと野菜の萎れが速く、硬かった果物がより速く柔らかくなります。昔、リンゴとカーネーションを混載した夜行列車が朝、東京に到着したところ、カーネーションが一晩で一斉に萎れてしまっていたことは有名な話です。これはエチレンが原因の出来事です。

このエチレン分子を、いくつもつなげた(重合)ものがポリエチレンです。常温・常圧で、ある種の触媒(化学反応を促進させるもの)を用いると、目に見えないエチレンガスが雪のように白い粉末となってパラパラと落ちてくることが発見されたのは、今から60年以上前のことです。この画期的な化学反応を見つけた2人の化学者には、1963年ノーベル化学賞が授与されました。

これを薄いフィルムにしたのがレジ袋です。成型しやすく、軽くて丈夫、水濡れにも強いことから、1970年頃から紙袋に代わって買い物袋として大量に使われてきました。

それでは現在、エチレンはどのように入手しているのでしょうか? 自然界に存在するエチレンを集めているわけではなく、人工的・工業的に造っています。

原油は種々の炭化水素(炭素と水素からできている化合物の総称)の混合物ですが、これを沸点の違いによって分離することが可能で、ナフサ、灯油、軽油、重油などが得られます。ナフサは沸点の低い炭化水素の混合物で、これを精製するとガソリンになりますが、ガソリンも混合物で単一の化合物ではありません。

そして、ナフサをクラッキング(分解)するとエチレンが得られます。エチレンはこうして工業的に大量生産されており、日本はエチレンの輸出国です。これがポリエチレンの原料になります。

ごみとなっているレジ袋

上で述べた通り、ポリエチレンからできているレジ袋は炭化水素ですから、いわば燃料です。よく燃え、完全燃焼すれば二酸化炭素と水になります。この二酸化炭素は地球温暖化への影響が大きいガスです。しかし、レジ袋は家庭の可燃物のごみ袋として使われ、燃やされているのが実情です。

また、ポリエチレンは自然界、たとえば土の中や水中の微生物などで分解されず半永久的に安定なままに残留し、これがごみとなってしまいます。海に流れ、紫外線や波の作用などで微粒子に変化してマイクロプラスチックとなることも、現在、大きな問題になっています。

マイクロプラスチックが魚貝類に入り、食物連鎖によって人間の身体にも侵入することは脅威です。したがって、私たちは、いわゆるプラスチック類の過剰な使用を抑制し、賢く利用していく必要があります。

レジ袋有料化は削減が目的だが、抜け道も

レジ袋削減を目指して、7月1日から我が国でもレジ袋の有料化が始まりました。他国ではすでに有料化され、あるいは使用禁止になっている国もあります。

さて、このレジ袋有料化に抜け道があるのが気になります。植物に由来するバイオマス素材の配合率が25%以上のバイオポリエチレン製のレジ袋は、法律により無料で渡せるため有料化を回避することが可能です。その理屈は、次のとおりです。

植物は大気中の二酸化炭素と水を原料に、光合成により、でんぷんなどのバイオマスを作っています。このバイオマスが入ったレジ袋を燃焼させた場合、排出される二酸化炭素は植物に吸収されるので、結局のところ大気中の二酸化炭素の濃度を上昇させないことになり、地球温暖化の防止や化石資源への依存度低減にもつながると解釈されます。

これが、バイオマスのもつカーボンニュートラル性ですが、バイオマスが含まれていたとしてもレジ袋はポリエチレン製ですので、燃やせば二酸化炭素が発生、燃やさなければ分解されないごみとなり、環境への負荷が高いことに変わりはありません。

新型コロナウイルスの影響でテイクアウトが伸びる外食産業では、バイオポリエチレン製のレジ袋導入が相次いでいます。しかし、レジ袋有料化を謳う一方でこのような抜け道を作るのではなく、環境負荷を減らすのであれば一律に使用抑制や禁止などの措置を取るべきではないかと思います。

レジ袋有料化がプラごみ削減につながらない現実

我が国で年間排出されるプラごみは約900万トンで、そのうちレジ袋は2~3%です。

したがってレジ袋の有料化だけでは、プラごみ削減につながりません。環境省はプラごみの削減に向け、2030年までの数値目標として使い捨てプラスチック排出量の25%削減を打ち出していますが、今回のレジ袋有料化は、自然環境保全の視点から見れば、まだ道半ばで不十分もいいところです。

レジ袋以外にも、むしろそれ以上に、たくさんの使い捨てプラ製品が身の回りに溢れています。また、ポリエチレン以外にも多くのポリマーが開発され使用されています。

日本は1人当たりの使い捨てプラごみの発生量が米国に次いで世界で2番目に多い「プラごみ大国」です。我が国ではプラごみの分別・回収が進んでいるとはいえ、再生樹脂などへのマテリアルリサイクル率は25%です。

その他は、火力発電、RPF(廃プラスチック類を主原料とした高品位の固形燃料)、セメント燃料などの熱回収率が57%、焼却・埋め立てが18%と、結局75%は焼却されています。焼却すれば、上述のように二酸化炭素が発生します。

問題はそればかりではなく、塩素原子を含んだプラスチック(ラップやパイプ、ポリ塩化ビニルやポリ塩化ビニリデン)を焼却することの是非もあります。かつて大きな問題になったダイオキシン類発生の懸念があります。

レジ袋有料化の本当の狙い〜ライフスタイルの転換を

経済産業省のウェブサイトには、レジ袋有料化の目的について、「普段何げなくもらっているレジ袋を有料化することで、それが本当に必要かを考えていただき、私たちのライフスタイルを見直すきっかけとする」と書かれています。レジ袋有料化とプラスチックごみ削減は、あくまで別問題だということでしょう。

変えなければならないのは、プラスチックを使い捨てる習慣そのものです。長いこと当たり前のように続いてきた「大量生産・大量消費・大量廃棄」の悪循環をどこかで断ち切る勇気が必要な気がします。繰り返しになりますが、過剰な使用を抑制し、賢く利用していくことが必要です。

長年染みついた人間のライフスタイル、ものの考え方と言ってもいいでしょうが、これを変えることはなかなか難しいものです。しかし、現在のプラごみ問題を解決するには、小手先の対応では不可能であり、広く人間社会の転換、環境問題への意識向上が不可欠と思います。

災害には、「天災」と「人災」がありますが、もう一つ、文明の進歩による災害「文明災」を忘れてはなりません。プラごみによる環境汚染は、化学の進歩による「文明災」、とりわけ「化学災」と呼んでもいいかもしれません。

人間のライフスタイルを変えることが必要な時代を迎えています。コロナパンデミックを経験している現在、コロナ専門家会議(現在の分科会)が提唱するものとは別の意味での「新しい生活様式」が求められているのではないでしょうか。

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