金価格の上昇は歴史の中で最後の打ち上げ花火か
LIMO / 2020年7月29日 19時30分
金価格の上昇は歴史の中で最後の打ち上げ花火か
NY金期近が史上最高値を更新
NY金期近は、2011年9月につけた史上最高値1911.6ドルを2020年7月27日に突破しました。
1971年にドルと金の交換を停止して、1973年に為替が変動相場制へ移行、ブレトン・ウッズ体制が完全に終結してからも、インフレ局面や、中央銀行が量的緩和を拡大するような政策を実行する場面、ドルが弱くなるとき、金価格が上昇することになりました。
現在の金価格の上昇も、世界各国が量的緩和を拡大させて、お金の価値が薄れてゆく中、逃避先としての金に人気が集まっていると見ることができます。
過去の金の上昇局面
金価格が上昇しているときは、物価が上昇、政策金利を引き上げている場面か、ドルの量を増やしている場面がほとんどです。世界情勢や金融政策を映した値動きとなっているので、いったんはっきりとした上昇の流れができると、長く継続しやすい傾向があります。
1975年以降のNY金期近の過去の上昇局面は、「76年9月~80年1月」「85年2月~87年12月」「93年3月~96年2月」「04年5月~08年3月」「08年10月~11年9月」などの期間が挙げられます。
80年1月までの金の上昇は、インフレが強まったことによる上昇です。1970年代は、中東情勢の不安定化に伴い、石油が高騰しました。この影響もあり、70年から78年頃まで6~8%程度で推移していた米国10年債利回りは、急上昇を開始して、81年に15.8%をつけるに至っています。
85年は、プラザ合意により、急激な円高局面へ入ります。ドル・円相場は、85年2月につけた255.25円から88年1月につけた131.6円まで、120円以上の値幅の円高(ドル安)局面となっています。
94年から95年、04年から07年頃までは、政策金利を引き上げてゆく過程で、金が上昇しています。
09年から11年は、リーマンショック後、大規模な量的緩和を実施したことで、今回と同様、お金の量を増やして、お金の価値を下げる政策を実行しています。
仮想通貨の裏付けとなるものに金のような価値は必要ない
2019年6月、Facebook(フェイスブック)は仮想通貨「Libra(リブラ)」を発行する準備を整えていると発表しました。Libraは、法定通貨を裏付けとして、変動の少ない仮想通貨になるように考えられているようです。
個人的には、投機が一段落して、今後は、決済通貨として利便性の高い仮想通貨が発行され、実際に使われるようになってゆくと考えています。
もしそうなれば、中央銀行が仮想通貨を発行するようになるはずです。その際、まずは、自国の通貨を裏付けとした仮想通貨になる可能性があります。
この裏付けの意味は、「ドルが心配なので金を保有する」という意味と少し異なります。
ドルは、経済的にも軍事的にも強い米国が保証している通貨です。それでも、何か、とんでもない天災が起こり、米国政府がその価値を維持できない状況へ陥ることが完全にないわけではありません。ドルは、強いアメリカが保証してくれていますが、米国が衰退してしまえば、価値がなくなってしまいます。
金は、現時点で言えば、世界で共有の価値を持っています。金本位制が崩壊してもなお、全世界で近い価値として認識してもらえる金がドルの裏付けとなっています。だからこそ、米国が世界最大の金の保有国になっているわけです。
一方で、仮想通貨の裏付けとなるものは、その時点で安心を与えることのできるものであれば何でもかまいません。仮想通貨は、決済の主体が仮想通貨に置き換わってゆく過程で、いつでもどこでも何にでも、瞬時に交換できるようになるのですから、仮想通貨自体に価値を持つ必要がありません。取引所で交換できる程度の信頼を有していればいいだけです。
仮想通貨の裏付けとなる法定通貨や、他の仮想通貨、金、その他の資産は、仮想通貨を流通させるための手段として、使う側に安心を与えるものに過ぎないのです。
流通量が増える過程で、仮想通貨自体が全世界で共通の認識を持った媒体となるので、金本位制が崩壊したように、裏付けとなるものは、切り離されることになると考えられます。
金はドルの裏付けとして、ドルの代わりとしての資産価値を持つ
2020年3月、新型コロナウイルスの拡大防止のため、多くの国が人と物の移動を制限しました。この影響で株価が暴落し、ドル・円も円高の流れへ入りました。通常、有事の円高と呼ばれ、世界情勢に不安要因があると、ドルと円が高くなる傾向がありますが、今回の円高は一時的なもので終わり、3月9日頃からドルだけが高くなって、ドル・円が3月中、急速に円安へ向かいました。
3月のドルの全面高の理由は、経済活動が止まり、お金の流れが止まったことで、決済に必要なドルが不足したため、各国の金融機関がドルの手当てを急いだからです。現在のドルの基軸通貨体制は、ドルがないと困ってしまうのです。
だからこそ、自国通貨に信用のない国は、自国通貨の価値を高めるため、外貨準備としてドルを保有しています。ドルを現金で持っていてもしょうがないので、通常、米国債や金などのドルに交換できる資産を保有しています。
つまり、見方によっては、金の資産価値は、ドルの裏付けとしてドルの価値を高めるものであり、またドルの代わりとしての価値でもあったともいえます。
ドルを裏付けとした仮想通貨が決済通貨となる過程で、金の資産価値が消失する
さて、決済の主体が各国通貨の仮想通貨に変ってゆくと考えると、金は、先ほど見てきた理屈が正しいとすれば、ドルの裏付けとして、ドルの代わりとしての資産価値を失うことになります。
「中国人民銀行は、5月下旬、深圳、蘇州、雄安新区、成都、および2022年の冬季北京五輪の会場における「デジタル人民元」の試行実施を明言した」というニュースがありました。
各国中央銀行の仮想通貨の発行は、まだ現実味のない雰囲気がありますが、中国の動きを見れば、もう数年先に迫っていると推測できます。
今回の金の大幅上昇局面は、金が自らの存在をアピールする最後の打ち上げ花火になるかもしれません。
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