コロナ不況下、失業増に手をこまねくより最低賃金を引き下げよう
LIMO / 2020年8月9日 20時0分
コロナ不況下、失業増に手をこまねくより最低賃金を引き下げよう
最低賃金は均衡賃金の変化を反映して柔軟に変更すべきで、不況期には引き下げも当然だ、と筆者(塚崎公義)は考えています。
神の見えざる手を活用すべし
アダム・スミスは、神の見えざる手に任せておけば経済はうまく回る、と説きました。王様が手出ししなければ需要と供給が一致するところに価格が決まるので、その価格を使うべきだ、というわけです。その価格のことを均衡価格と呼びます。
労働力の価格である賃金についても例外ではなく、労働力の需要(求人数)と供給(求職数)が一致するところに賃金が決まるべきだ、ということになります。その賃金のことを均衡賃金と呼びます。
最低賃金が均衡賃金よりも低ければ、均衡賃金が実現するので原則として失業も労働力不足も生じませんが、最低賃金が均衡賃金を上回っていると、労働力の需要が十分ではなく、失業が生じてしまいます。
新型コロナ前は、労働力不足であって均衡賃金が高かったので、最低賃金が引き上げられても失業は増えませんでしたが、新型コロナ不況によって労働力需要が大幅に落ち込んだため、今は均衡賃金が大幅に下がっています。したがって、最低賃金がそれに応じて引き下げられないと、失業が生じてしまうのです。
失業が生じる要因として、労働者が賃金の引き下げを嫌うから、ということが言われています。これを「名目賃金の下方硬直性」と呼びます。「賃金を引き下げることができないなら、仕方がないから雇用者数を減らそう」と考える経営者が多いから失業が増えるのだ、というわけですね。
もっとも、それは主に正社員の給料のことであって、最低賃金が問題となるのは非正規労働者の時給でしょうから、比較的柔軟に変動するはずです。したがって、本稿では名目賃金の下方硬直性については考えないことにしましょう。
ちなみに筆者は新型コロナ不況の前には最低賃金の引き上げを主張していました。様々な理由で均衡賃金より低いところに賃金が決まっていて、それが労働力不足の原因となっていたからです。
しかし、事情が大きく変わったわけですから、主張を転換するべきなのは当然のことです。
弱者保護策が弱者を困らせることも多い
最低賃金は弱者である労働者を保護するためのものであるのに、それを引き下げるとはケシカラン、と考える読者も多いでしょうが、じつは弱者保護策が弱者を困らせることも世の中には多いのです。
たとえば、最低賃金を一気に10倍に引き上げたら、「それなら雇わない」という経営者が激増して労働者の多くが失業してしまうでしょう。そこまで極端ではなくても、均衡賃金が下がったのに最低賃金を下げないことによって、質的には同じようなことが起きるわけです。
余談ですが、弱者保護策が弱者を困らせかねない事例を挙げておきます。たとえば女性保護のために女性の深夜労働を禁止するとしたら、「それなら男性を雇う」という企業が増えて、女性の失業者が増えてしまうかもしれません。
貧しい人を保護するために「狭いアパートの家賃は安くしろ」という法律を作ったら、大家たちが「そんなことなら、金持ち用の広いアパートを建てよう」と考えるので、貧しい人たちは住む家が見つからずに大変困った事態に陥るかもしれないわけです。
アダム・スミスが神の見えざる手を重視したのは、「心の優しい王様が貧しい民のために法律を作ることもやめてください」という意味だったのですね。
雇用が増えないリスクはあるが・・・
通常は、最低賃金が下がると「安い時給でアルバイトを雇えば、メニューの値下げができるから客が増えるだろう」と考えた飲食店が大勢のアルバイトを雇うことになるはずです。
しかし、今次局面に於いては「メニューを値下げしても、どうせ客は増えないのだから、アルバイトの人数は増やさない」と考える飲食店が多いかもしれません。
そうなると、アルバイトの時給が下がっただけでアルバイトの人数が増えず、労働者全体としてのアルバイト収入がかえって減ってしまい、彼らの消費が減って景気がさらに悪くなってしまうかもしれません。
さすがに飲食店以外の会社が雇用を増やすと思いますので、そうした懸念は小さいとは思いますが、どれくらい雇用が増えるのかを見極めながら慎重に最低賃金を引き下げて行くことが必要かもしれませんね。
本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。
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