「うがい薬が新型コロナに効果」大阪府の発表でインフォデミックが発生
LIMO / 2020年8月6日 6時45分
「うがい薬が新型コロナに効果」大阪府の発表でインフォデミックが発生
「インフォデミック」の加害者にならないために
「うがい薬がコロナの重症化防止になる」。大阪府と大阪市、大阪府立病院機構「大阪はびきの医療センター」は4日、「『ポビドンヨード』を含むうがい薬でうがいをしたところ、唾液中のウイルスの陽性頻度が低下した」との研究成果を発表しました。
この報道を受け、複数の医療関係者が反応。また、『イソジン』を取り扱う明治ホールディングスの株価は一時、7.7%高の8,990円、塩野義製薬は3.6%上昇しました(※1)(https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2020-08-04/QEIYFFDWX2QD01)。さらにメルカリではイソジン転売が起こり、海外メディアBloombergでもこの珍事を取り上げています。
現在、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染者数が増加しており、人々の緊張は広がっています。しかし、こうした情報に対して冷静な行動をしなければ、インフォデミック(真偽不明の情報や虚偽の情報を多くの人が真に受けて社会的パニック状態となること)が起きてしまい、経済的な損害を出すことになります。
今回はインフォデミックの怖さについて取り上げます。
Bloombergでは批判的な記事
Bloombergでは“Too Good to Be True? Osaka Says Gargling Formula Can Beat Virus”(https://www.bloomberg.com/news/articles/2020-08-04/gargling-medicine-touted-in-osaka-as-way-to-control-coronavirus)という記事で、この珍事を批判的に取り上げています。
「東京都内のドラッグストアを中心に『ポビドンヨード』を含むうがい薬が在庫切れ」
「日本Amazonでも在庫切れ」
「東京より人口が少ない大阪で感染者急増」
「データが不十分。製造元では効果検証の予定なし」
大阪府知事の吉村氏は「誤解なきよう、うがい薬でコロナの予防効果が認められるものではありません」と反論するも、会見の場にイソジンを置いて映像メディアで報道されると、視聴者は全会見をしっかり聞いて判断するというより、映像に写ったイソジンを見て「これは買っておかなければ」と買いに走ってしまうことは想像できることです。
同氏の意図としては、「少しでも有効な可能性があることは試したい」というものがあったかもしれません。効果のほどは、この原稿を書いている現時点ではまだ明らかではない部分も残されています。しかし、世界的にCOVID-19にセンシティブになっているタイミングでの発言としては、インフォデミックの発生防止への意識が必要だったのでは?といえるかもしれません。
メディア映像の力のすさまじさ
これまで、我々はテレビなどの映像メディアやSNSの影響力のすごさは繰り返し理解してきました。
有名番組で「バナナがダイエットに効く」「納豆で血液サラサラ」などと取り上げられるや否や、すぐさま店頭から商品が消えてしまう現象は何度も繰り返し起こってきました。SNSで作られたデマ映像が出ると、瞬く間に拡散されてしまうことも。
コロナ禍においても、トイレットペーパーの買い占めが話題になりました。計算社会科学や人工知能(AI)技術を専門とする東大の鳥海准教授によると、「トイレットペーパー品薄はSNSでデマが作られ、マスメディアによって拡散された」と分析しています(※2)(https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01353/070100001/)。「SNSでこのような話題があります」とテレビなどが報道することで、買い占め騒動が激化してしまい、結果的にインフォデミックを引き起こすことにつながるのです。
映像メディアはテキストデータに比べ、情報量が圧倒的に多いのです。
「町中でトイレットペーパーが買われています」
とテキストで読んだ場合と、
「大型カートいっぱいにトイレットペーパーをのせる人々が、店中で大行列を作っている映像」
を見る場合とでは、後者のほうが圧倒的に視聴者に深く届くのです。
インフォデミックの「加害者」にならないために
インフォデミックを防止することの難しさは「誰もが加害者になり得る点」にこそあります。
トイレットペーパー買い占め騒動についていえば、買い物に狂乱する映像が流れてきて「見てよ。買い占めする人は時間をムダにしているよな」と友人にこの騒動について冷笑するつもりで共有したことが、それを聞かされた側は不安になってしまい、今度は「大変だ。トイレットペーパーがなくなるかもしれない」とその友人や家族に広める可能性があります。
こうした情報の拡散がトイレットペーパーの買い占めの列に加わる人を増やしてしまうのです。そして、買い占めが間違っていると分かっている人も「デマに踊らされている人が買い占めてしまうと、本当に買えなくなってしまう」と自分が困らないために行列に加わってしまいます。
インフォデミックの加害者にならないためには、情報を鵜呑みにするのではなく、多面的に得る姿勢が重要です。
トイレットペーパー買い占め騒動についても、「大変だ!トイレットペーパーが品薄になる!」と騒ぐ人がいるなら、トイレットペーパーの製造を手掛ける団体の見解を検索してみることです。ちなみにこの騒動の際は、業界団体の日本家庭紙工業会が倉庫に山積みになったトイレットペーパーの画像を公開し、「トイレットペーパーの在庫は十分にあり、原材料の調達も問題ありません」と買い占めする必要がないことを呼びかけていました。
今回の大阪府知事の発言がきっかけで起きたインフォデミック。これにより、職業柄イソジンを必要としている医療関係者の手に届かなくなってしまったり、株価の乱高下で経済的損失を出す人も出てくると考えます。
コロナ禍で多くの人がセンシティブになっている今、影響力を持った人物は発言に気をつけてインフォデミックの発生を防ぎ、また我々消費者も踊らされないよう多面的に情報を精査する力をつける必要があると感じる出来事でした。
参考
(※1)「嘘のような本当の話、大阪知事発言でうがい薬消える-明治株急伸」Bloomberg(https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2020-08-04/QEIYFFDWX2QD01)
Bloomberg “Too Good to Be True? Osaka Says Gargling Formula Can Beat Virus”(https://www.bloomberg.com/news/articles/2020-08-04/gargling-medicine-touted-in-osaka-as-way-to-control-coronavirus)
(※2)『「新型コロナのSNSデマはマスメディアが拡散」、東大の鳥海准教授が分析』日経クロステック(https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01353/070100001/)
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