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「大学にかかるお金」~奨学金を利用する前に心得ておきたいこと~

LIMO / 2020年8月27日 11時45分

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「大学にかかるお金」~奨学金を利用する前に心得ておきたいこと~

文部科学省が公表している「令和元年(2019年)度学校基本調査(確定値)(https://www.mext.go.jp/content/20191220-mxt_chousa01-000003400_1.pdf)」によれば、高等教育機関への進学率は82.8%(大学・短大進学率は58.1%、学(学部)進学率は53.7%)と、昨年に引き続き過去最高を記録しています。

一方、高等学校を卒業した後にかかる学費は、年々増加の傾向にあるともいわれています。進学を考えている人の中には、奨学金の利用を視野に入れている人もいるでしょう。今回は、ある家庭のエピソードから、奨学金について、少し考えてみることにしましょう。

娘さんを大学に進学させたMさんの話

数年前、Mさんは娘さんを大学に進学させました。Mさん世帯の年収は決して高くはなく、本来ならば娘さんの希望を叶えることは難しい状況でした。しかし学校の勧めもあり、貸与型の奨学金を利用することで、なんとか娘さんに4年間の学生生活を送らせることができました。

娘さんは大学卒業後に就職。会社に勤務するかたわら、奨学金の返済を続けていましたが、そのうち仕事を通じて知り合った男性と結婚をすることが決まりました。Mさんはその結婚を大いに喜び、娘さんの大学在学中からこれまでにコツコツと貯めたお金を「持参金なり、花嫁道具に使ってもらおう」と、お祝いとして渡すことにしました。

「お母さん、ありがとう」と、通帳を受け取った娘さん。しかし、娘さんは意外な言葉を口にします。

「あのね、彼の実家は持参金とか花嫁道具とか、そういうのはうるさくないみたいなの。新居も小さなアパートだし、家財道具もとりあえずは二人で持ち寄った独身時代から使っているもので充分。だから、もし、お母さんがこれを好きに使っていいというなら、奨学金の一括返済の一部に充てさせてほしい。この先何年も返し続けていくことを考えると、私は結婚生活において、それが一番不安。できるものなら、今ここで全部返してしまいたい」

奨学金利用者の推移

ではここで、独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)の奨学金利用者の推移について見てみましょう。上が事業規模(貸与した金額)、下が貸与人員の推移となります。

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※文部科学省の資料をもとに編集部作成

無利子型(第一種奨学金)については、事業規模、貸与人員ともに、そこまで大きな変動はありませんが、有利子型(第二種奨学金)については、ここ20年ほどで、急激に利用者が増えていることがわかります。

ちなみに日本学生支援機構の奨学金の貸与条件ですが、「その年度の高校卒業予定の人」「高等学校等(本科)を卒業して2年以内の人」であれば、誰でも申し込むことができますが、それぞれに採用基準があります。無利子型(第一種奨学金)は、学力基準、家計基準が厳しく定められており、金額も月6万4,000円が最高額であるのに対し、有利子型(第二種奨学金)は、同じく基準はあるものの、「学力は平均水準以上」「生計維持者(父母)の年間の収入金額が1,000万円以上でもOK(給与所得者の場合)」「月2万~12万円までOK」など、比較的条件が緩く、借りやすくなっていることが特長といえるでしょう。

大学の学費と世帯収入平均の推移

では次に、前述の奨学金利用者の推移と同じ期間の、大学の学費(授業料4年分と入学料の合計)と二人以上世帯のうち勤労者世帯の一世帯当たりの平均所得(手取り金額)の推移を見てみることにしましょう。こちらを見ると、学費、特に私立大学は徐々に増加傾向にある一方で、平均所得はここ数年、同じぐらいの水準で推移しているということがわかります。

加えて、表の金額には教科書代や自宅外からの通学となった場合の住居費、生活費といったものは含んでいません。これらも加味するとなると、大学卒業までにかかるお金は、かなりの高額になることは、間違いないでしょう。奨学金利用者が増えているのは、こういったことが背景にあるのかもしれません。

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※文部科学省・厚生労働省のデータをもとに編集部作成

【参照】
学費について:「国公私立大学の授業料等の推移(https://www.mext.go.jp/content/20191225-mxt_sigakujo-000003337_5.pdf)」文部科学省
(授業料×4+入学料で算出。なお、私立大学については、通常、ここにあげた授業料、入学料に加えて施設設備費4年分が加算される)
平均所得について:「国民生活基礎調査の概況」(2019年、平成21年、平成20年)厚生労働省

しっかり考えたい「卒業後の返済」

日本学生支援機構の奨学金の返済は、卒業して7か月目から始まります。前年の所得に連動して毎年の返還額が決まる『所得連動返還方式』(無利子型(第一種奨学金)のみ)と、毎月一定額を返済していく『定額返還方式』の2種類の返済方法があり、どちらかを選択することになります。

たとえば、国立大学に自宅外から通学する場合に1カ月あたり5万1,000円の支援を受けると、4年間の貸与総額は244万8,000円です。これを、定額返還方式で、毎月1万3,600円ずつ返済すると完済までに15年かかる計算となります。

奨学金を申し込むとき、債務者である当人は高校生。その時点で、自分で稼いだお金で、自分の生活をすべて賄うという経験をしている人はほとんどいないでしょう。毎月お給料をもらうことができれば、月1万円ちょっとの支払いなんて、なんてことのない金額のように感じる人もいるかもしれませんね。しかし、実際に働きだすと、卒業後の月収が18万円で、税金や社会保険料を差し引いた手取り額が14~15万円だという人にとって、多くの場合、1万3,600円の奨学金返済は、重い負担となってのしかかります。

前述のMさんの娘さんも、奨学金を利用すると決めたときは、自身が働きだせば、すぐに返すことができる金額だと甘く考えていたのかもしれませんね。

まとめ

2020年4月から、給付型の奨学金も登場していますが、当然のことながら、学力基準、家計基準ともに、かなり限定されています。また、以前は特定の職業に就くことで、返還が免除される制度もありましたが、そちらも現在では廃止されています。

支払が苦しい時は、月々の返済額を減らす『減額返還』や、返還を先送りする『返還期限猶予』という方法もありますが、最終的には全額返済しなくてはいけません。

とはいえ、「奨学金なしでは進学を諦めさせないといけない」というご家庭が多いのも事実です。せめて申し込む前に、借りる金額ばかりでなく返済についても、親子でしっかりと話し合っておきましょう。なお、日本学生支援機構の「シミュレーション・メニュー(https://simulation.sas.jasso.go.jp/simulation/)」では、事前に貸与額と返還額をシミュレーションすることもできます。

【参考】
「令和元年度学校基本調査(確定値)の公表について(https://www.mext.go.jp/content/20191220-mxt_chousa01-000003400_1.pdf)」 文部科学省
「奨学金事業の充実(https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/shougakukin/main.htm)」文部科学省
「奨学金の制度(貸与型)(https://www.jasso.go.jp/shogakukin/seido/index.html)」日本学生支援機構
「国公私立大学の授業料等の推移(https://www.mext.go.jp/content/20191225-mxt_sigakujo-000003337_5.pdf)」文部科学省
「2019年 国民生活基礎調査の概況(https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa19/dl/03.pdf)」厚生労働省
「平成20年 国民生活基礎調査の概況(https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa08/2-1.html)」厚生労働省
「平成21年 国民生活基礎調査の概況(https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa09/2-1.html)」厚生労働省

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