多士済々のポストリチウムイオン電池

LIMO / 2020年8月31日 21時0分

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多士済々のポストリチウムイオン電池

全樹脂電池など実用化進む

本記事の3つのポイント

「ポストLiB」の開発が活発化。全固体電池が脚光を集めるが、異なるコンセプトの次世代電池も登場

全樹脂電池は主要部材すべてを樹脂化しており、高性能化に加え製造コストを抑えられることが魅力

日本ガイシは独自の「半固体電池」を開発。一方で現行の鉛蓄電池も性能改善が進んでいる

 

 現在、蓄電池として幅広く使われているリチウムイオン電池(LiB)の次世代に相当する、「ポストLiB」の開発が活発化している。その代表格といえるのは電解質を固体に置き換えた全固体電池だが、材料の探索や製造コスト低減など課題が多く、メーンターゲットとされる車載用に実用化されるまでには時間を要する。その一方、全固体電池とは異なるコンセプトの次世代電池の開発も進められており、先んじて市場投入が始まっている。そこで本稿ではこれら非全固体系のポストLiBを取り上げたい。

主要部材を樹脂化した全樹脂電池

 非全固体系ポストLiBとして、目下注目が高まっているのは全樹脂電池だろう。慶應義塾大学特任教授の堀江英明氏と三洋化成工業㈱が共同開発しているもので、正負極や電解質といったLiBを構成する主要部材をすべて樹脂化したものである。

 周知のとおり、一般的なLiBには発火リスクがあり、液系の電解質を固体に置き換えて安全性を高めることが全固体電池のコンセプトだ。全樹脂電池は、同じように電解質を樹脂化することで安全性を向上させているが、加えて、部材のすべてを樹脂にしたことで集電体に対して垂直に電気が流れる「バイポーラ構造」を実現しているところに特徴がある。電流を最適化することで、抵抗を低くしてより少ない面積で高性能を得ることが可能になる。また、樹脂部材を積層した構造のため、金属箔への電極材の塗工乾燥プロセスや金属部材のプレス、加工を要する一般的なLiBと比べて工数が少なく、製造コストを抑制できる。

 堀江氏は日産自動車で電動車用電源の開発に従事してきた経験を持ち、「理想的な電池」を追求するなかで全樹脂電池の構想に至った。三洋化成は紙おむつ、化粧品、洗剤など生活を取り巻く様々な品物に使われている界面活性技術をコアとし、そのノウハウを駆使することで電極や電解質といった電池構成部材を樹脂化することに成功した。

全樹脂電池は垂直に電気を流すことが可能

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事業化に向け工場設立など進める

 堀江氏は三洋化成とともに12年から全樹脂電池の共同開発を続けてきたが、要素技術を確立できたことから事業化に向けて18年にAPB㈱を設立した。APBは設立当初から三洋化成の出資を受けて二人三脚で事業化を推進し、20年3月にJFEケミカル㈱ら7社から総額約80億円を調達するとともに、福井県越前市に量産用工場を設立した。

 従来、三洋化成の衣浦工場(愛知県半田市)のパイロットラインで試作を行っていたが、本格量産化に向けて量産用ラインの構築と量産技術開発に乗り出した。21年をめどに小規模量産を開始して、3~4年後に年産1GWh規模を目指す計画だ。将来的にはさらに工場を増築し、生産能力を拡大するとともに、三洋化成が担当している部材生産を集約することも視野に入れている。

 20年7月には、川崎重工業㈱の自律型無人潜水機(AUV)に搭載した実証実験を開始した。AUVは海中設備の保守・点検用に川崎重工が開発している。深海などの過酷な環境で長時間にわたり水中作業を行うため、搭載される電池には耐水圧などの高い安全性と長時間駆動を可能にする高エネルギー密度が求められる。全樹脂電池は優れた安全性と高エネルギー密度を持ち、搭載スペースが限られるAUVに適していると評価された。APBはこのAUVが製品化される21年度に合わせ、全樹脂電池を量産供給する計画だ。

 このほかにも複数の顧客向けにサンプル提供や評価などを進めているが、全樹脂電池のメーンターゲットと位置づけられるのが、ビルやスマートシティーなどに設置される大型蓄電池だ。セルを積層して容易に大容量化でき、安全性にも優れている全樹脂電池の特徴を最大限に生かすことができる。

 一方で、気になるのは車載への展開だが、三洋化成の安藤孝夫社長は「車載はレッドオーシャンだ」と進出には慎重な構えだ。確かに車載用LiBは年産30~40GWh規模の大手メーカーが大規模投資により供給能力拡充とコスト低減を競う市場となっており、全樹脂電池の性能優位性だけで勝負に出ることは難しい。ただし、モビリティー分野すべてを進出対象外とするわけではなく、航空機などの高付加価値が求められる用途向けには提供していく方針だ。

 APBは日産自動車からLiB技術のライセンス供与を受けているほか、トヨタ自動車グループの豊田通商㈱から20年6月に資金調達を行っている。どちらも自動車分野への適用を念頭に置いたものではないが、将来的な事業展開の道筋は確保されていると言えよう。

日本ガイシはセラミック製「半固体電池」を製品化

 コア技術であるセラミック技術を活用し、独自のセラミック2次電池「EnerCera(エナセラ)」を製品化しているのが日本ガイシ㈱だ。EnerCeraは、電極活物質に独自の結晶配向セラミック技術を採用したLiB。一般的なLiBでは必須だが、性能の阻害要因になるバインダーや導電助剤が不要なため、高エネルギー密度と低抵抗を実現した。さらに、耐熱性に優れるため高温実装が可能で、スマートカードへのホットラミネート加工による内蔵や、回路基板へのリフロー実装に対応可能だ。

 高温実装に対応したセラミック2次電池は他社でも製品化が進んでいるが、いずれも電極、電解質ともに固体を用いた全固体電池でエネルギー密度や大電流放電特性に制約がある。EnerCeraは電極にセラミックスを用いつつ、電解液を採用した「半固体電池」であり、高温実装対応と高出力・放電持続性を兼ね備えていることに特徴がある。

 19年4月からスマートカード用のパウチ型を、同12月には回路基板実装用のコイン型の量産を開始した。コイン型は最高85℃の高耐熱を実現していたが、20年にはさらに105℃の高耐熱を実現したタイプを開発した。リフローはんだによる実装に加え、射出成型に対応できることから樹脂構造体に埋め込むこともできる。これまで電池を搭載できなかった用途への展開が期待されている。

 なお、日本ガイシはMW級の大規模蓄電池としてナトリウム硫黄(NAS)電池を製品化しているが、ビルや商業施設、病院などの小~中規模定置用蓄電池として亜鉛2次電池も開発している。亜鉛を負極に用いると高性能な蓄電池を実現できることは知られていたが、樹状に析出(デンドライト)して多孔セパレーターを貫通し、短絡を引き起こすという問題があり、実用化は進んでいなかった。日本ガイシは独自の技術で電解液を通さず、水酸化物イオンだけを通す緻密なセラミックスセパレーターを開発し、これを用いることで亜鉛デンドライトを防止可能な蓄電池を実現した。

 このように日本ガイシの蓄電池開発は、小~大容量までの領域をそれぞれ独自のアプローチによりカバーしているのが特色である。より多様な蓄電ニーズが見込まれるなか、今後の事業展開が注目される。

EnerCeraシリーズ(上:パウチ、下:コイン)

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鉛蓄電池にも見直しの動き

 LiBの高性能化が進む前、自動車や産業機器などのバッテリー、定置用蓄電池として用いられていたのは鉛蓄電池だった。いや、今でも鉛蓄電池が占める割合が圧倒的に大きいのだが、LiBの高性能化とコストダウンの進展に伴い、いずれは置き換えが進んで主役の座を譲る存在というイメージが強いだろう。しかし、その鉛蓄電池からもLiBに対抗しようという動きが起こっている。

 産業用電池メーカーの古河電池㈱は、親会社の古河電機工業㈱と共同で20年6月にバイポーラ構造を持った鉛蓄電池を開発した。独自の材料技術により、1枚の電極基板の表と裏に正極、負極を持ったシンプルな構造を実現した。材料コストの低減に加えて、体積あたりの容量の向上により、エネルギー密度を従来の鉛蓄電池比で約2倍に高めた。LiBに匹敵する充放電特性を持ち、消費電力あたりの単価は50%以下となる。

 また、稼働時に空調レスでエアコンによる温度管理コストも削減でき、発火の心配がないなど高い信頼性を誇る。さらに、リサイクルのシステムを確立していることも、リサイクル技術の開発が途上にあるLiBに勝るポイントだ。両社は再生可能エネルギー貯蔵用の定置用蓄電池などとして22年度の製品化を目指しており、鉛蓄電池の再評価の契機になるか注目される。

 一方、鉛蓄電池とLiBのハイブリッド化により両者の強みを組み合わせた蓄電システムを提案しているのが、京都府南部のけいはんな学研都市内にあるベンチャー企業、CONNEXX SYSTEMS㈱(コネックスシステムズ)だ。創業者でCEOの塚本壽氏はGS日本電池(現GSユアサ)で世界初の角形ニッカド電池や防衛用リチウムアルミ電池などの開発をリードし、北米に設立したベンチャー企業で特殊LiBの開発に従事してきた実績を持つ。その知見を活かすべく、帰国後に設立したCONNEXX SYSTEMSで取り組んでいる研究開発テーマの1つが、鉛蓄電池とLiBのハイブリッド技術「BIND Battery」だ。

 BIND Batteryにより鉛蓄電池とLiBを連携させると、LiBの特徴である高エネルギー密度と長サイクル特性、鉛蓄電池の特徴である耐過充電特性と低温特性を兼ね備えた蓄電システムを実現できる。LiBの過充電による発火や低温時の性能低下といった欠点を鉛蓄電池でカバーし、高い安全性を確保している。

 この技術を用いたモバイル蓄電システムは、デスクや作業台の下に収まるコンパクトなサイズで、キャスターにより移動が可能な点が評価され、非常用発電システムを持たない中小規模の医療機関、介護施設などから引き合いが増えている。また、商業施設や公共施設向けの100kWh級蓄電システムも開発しており、20年秋ごろからの設置開始を予定している。パワーコンディショナーとの一体型で、鉛蓄電池との併用により設置に必要な面積を同等容量の一般的な蓄電システムと比べて小さくすることができる。

 定置用蓄電池は、昨今の大規模災害の頻発による非常用電源確保ニーズの高まりを受けて、需要が増大している。一般的にはLiBを用いた製品の普及が進みつつあるが、低コスト化が進んでいるとはいえ鉛蓄電池と比べれば高く、発火リスクもある。それだけに鉛蓄電池を活用することで、コストパフォーマンスに優れ安全性の高い蓄電システムを実現できれば、LiBと共存していくことも可能だろう。レガシーな電池と見なされがちな鉛蓄電池においても、技術革新により再活性化の可能性は残されている。鉛蓄電池もまた、ポストLiBの一翼を担っているといえよう。

CONNEXX SYSTEMSのモバイル蓄電システム

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拡大する(/mwimgs/5/e/-/img_5e4b8dda76222790df4cdb74ff8549d0102785.jpg)

電子デバイス産業新聞 大阪支局 記者 中村剛

まとめにかえて

 パソコンやモバイル用途に加え、EV(電気自動車)の普及に伴い、市場を拡大させているLiB。しかし、記事にもあるとおり、ここ数年ポストLiBを巡る開発競争は激しさを増しています。一般的には全固体電池が知られた存在ですが、今回取り上げた全樹脂電池や半固体電池のほか、リチウム空気電池やリチウム硫黄電池なども候補に上がっており、まさに群雄割拠の様相を見せています。どの候補が頭一つ抜けた存在になるのか、今後も注目していく必要がありそうです。

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