アベノミクスの景気回復効果はイマイチだった? 経済成長率、金融緩和等を振り返る
LIMO / 2020年9月6日 20時0分
アベノミクスの景気回復効果はイマイチだった? 経済成長率、金融緩和等を振り返る
アベノミクスの景気回復効果は大きかったとは言えないが、幸運もあって日本経済に多大な貢献をしたことは間違いない、と筆者(塚崎公義)は考えています。
まずは安倍総理に「お疲れさま」
安倍総理が持病の悪化で辞任されることとなりました。読者のなかには安倍総理を好きな人も嫌いな人も、政策を支持する人もしない人もいるでしょうが、彼が長期間にわたって身を粉にして日本国のために尽力してきたことは間違いないと筆者は考えているので、本稿の冒頭で「お疲れさまでした。ありがとうございました。」と申し上げることをお許しいただきたいと思います。
アベノミクスの成長率は高くない
民主党政権時代の平均成長率は、前期比0.4%、年率で1.6%でした。リーマン・ショックによる落ち込みからの自律回復という面も強いので政策の貢献とは言い切れませんが、成長率そのものは多くの人が思い描いているような暗いイメージとはほど遠いですね。
一方で、アベノミクス期の平均成長率は0.3%、年率1.2%にとどまっています。ちなみに昨年秋の消費増税と今年の新型コロナ不況の影響を排除するため、本稿では昨年9月までの期間について論じることにします。
この成長率は決して高いものではなく、「リーマン・ショックからの回復の流れを途切れさせなかった」といった程度のものでしょう。
労働力不足は制約要因だったが・・・
成長率が低かった一因は労働力不足でした。公共投資の予算が建設労働者不足で執行できなかったり、介護士不足で介護需要が満たせなかったりしたのです。
しかしそれは、経済全体の成長率を制約した重要な要因ではなかったようです。本当に労働力不足が深刻で供給が間に合わないならば、インフレになるはずですし、省力化投資が猛烈に盛り上がるはずですが、そうでもなかったからです。
株高、ドル高の好影響は限定的
日本では家計の株式保有が多くないので、もともと株高の資産効果は限定的です。今回も、資産効果で消費が盛り上がったとは言い難いようです。
一方で、期待を裏切ったのが円安による輸出数量増加です。日本企業は最近「地産地消」志向を強めているようで、円安だから輸出を増やそう、ということではなく、売れるところで作ることを重視しているようなのです。
また、円高時にドル建て輸出価格の値上げを我慢していたため、円安になっても値下げの余地が小さかった、ということもあったようです。
ちなみに「ドル高で輸出企業の採算が改善したから景気が回復した」と考えている読者がいるとすれば、残念ながら誤りです。日本は輸出入が概ね同額なので、輸出企業がドルを高く売れた分だけ輸入企業がドルを高く買わされているからです。
金融緩和の効果は限定的
金融緩和は、美人投票である資産価格には効くことがありますが、実体経済に対してはあまり有効ではありません。景気が悪い時に金利を下げても、工場の稼働率が低ければ新しく工場を建てる企業は少ないからです。ましてゼロ金利下の金融緩和は実体経済にはほとんど効かないと考えて良いでしょう。
金融緩和によって世の中に資金が出回り、インフレになる、と言っていた人もいましたが、世の中に資金は出回りませんでした。世の中に出回っている資金の量であるマネーストックはそれほど増えなかったのです。従って当然に、インフレにもなりませんでした。
デフレは止まりましたが、それは貨幣的な現象ではなく、労働力不足で賃金が上昇したこと等によるものと言えるでしょう。
結果としての貢献は大きかった
上記のように、個々具体的な経路での景気回復効果は限定的だったようですが、全体としてみれば「景気は気から」ということで、アベノミクスが景気を回復させた効果は小さくなかったと思われます。
「総理と日銀総裁は自信満々だし、株価もドルも値上がりしているし、世の中に資金が出回ると言われているし、景気はきっと良くなるのだろう」と考えた人が多かったとすれば、それが企業行動や消費行動等々を積極化させて景気にプラスに作用したことは十分に考えられるからです。
それによる景気の押し上げ効果は限定的だったかもしれませんが、日本経済への貢献度は非常に大きなものがありました。わずかな景気刺激でも失業問題が解決し、職探しを諦めていた高齢者等も仕事にありつけるようになり、デフレが止まり、株価が上がり、企業収益が改善し、税収が増え、財政赤字が縮小したのです。自殺の減少も、アベノミクスのおかげという面が強いのかもしれません。
たまたま少子高齢化によって労働力余剰から労働力不足への移行が起きる直前のタイミングでアベノミクスが登場したということで、幸運な面はありましたが、日本経済への大きな貢献となったことは確かでしょう。素直にアベノミクスを評価して本稿を終えることとしましょう。
本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。
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